日米安保はどこまで盤石か
山本)尖閣諸島は日本の領土であることは米国もアジア諸国も認めています。
これまで中国の新聞も尖閣諸島は日本の領土と言っていましたが、明治時代には魚の缶詰工場を作ったり、日本人が生活していた歴史があります。これまで何も言わなかった中国が石油が出るからといって突然「私の領土です」と言いわれても困るんですね。このあいだ米国のバネット国防長官が来たときにも、日中の領土紛争にはタッチしないと言っていましたが、戦争になれば「日米安保」を発効すると中国側に言ったそうです。それ以来、習近平氏は急に温和しくなりました。
原)もし日本人が「日米安保条約」を信用するとしたら幼稚と言わざるを得ません。米国を信用する必要はない。日本が米国の利益にならなければ、日本を捨てることがあるかもしれません。中国はいま世界の超大国になりたがっていて、日本は中国にとっていわば下についている小石みたいなもので、自分が上に行くための踏み台にしています。米国は、これからどちらに付こうかと考えるでしょう。自分にとっていい方を選ぶ。最終的に損するのは政治と外交力のない日本です。
山本)中国の考えというのはよく分かります。しかし、これまで日米間ではたくさんの利害関係がありますし、日本は米国の安保体制の中で東アジア地域の砦になっています。日本の軍事力は米国がコントロールしていますから、勝手に動けません。米国がアジアで影響力を保持するためには日本の存在が欠かせないわけです。
原)米国が中国に歩み寄ろうとするときに、日本がどんな立場であるかは関係ありません。必要なときに日本を捨てることはあり得る。米中対話の内容を、日本に話しませんでした。ですから、自分の国をほかの国に任せることはあまり利口なことではありません。米国を利用するのはいいけれど全て頼りにするのは大間違いですよ。
山本)米国は日本を取るか中国を取るかではなく、どちらも必要なんです。
戦争はいつでも些細なきっかけから起こる
原)第一次世界大戦がセルビア皇太子の暗殺をきっかけで始まったことを、冷静に考える必要があります。今後、もし日本がまだ強い態度を中国政府に示すなら、すぐに世界戦争が始まる可能性だって十分にあるのです。中国は、たとえば一千隻でも一万隻でも船を出すことは可能で、その人たちの生命を犠牲にしてもいいと考えています。もし、日本が一つ弾を撃ったら間違いなく戦争が始まるでしょう。
山本)そうした言い方が中国式威嚇と言うんですが、昔と今では状況が違います。今はそう簡単に戦争できる状況ではありません。仮に尖閣諸島に中国船が来ても来るだけのことで、いろいろ問題があり両国共に手出しはできません。中国は13億の人民を養わなければいけないし、経済がダメになれば中国共産党は崩壊です。
今回、日本政府の尖閣国有化がすぐ決まったのは米国と相談の上でのことです。米国にとって沖縄、尖閣、フィリピン、ベトナム、オーストラリアほか南シナ海の同盟国は経済的に重要な拠点です。沖縄と尖閣が取られたら中国はもっと進出してくるので、今のうち米国はなんとしても食い止めたい。
一方、石原知事や橋下徹、安倍晋三氏をはじめ強気な政治家が登場し、日本の世論も少しずつ変わってきています。安倍氏は憲法の手続き法を改正しましたし、世論は中国が軍拡する中、日本も強くしなければ、という流れに少しずつ変化しています。日本側は、中国船が一千隻来ることを想定し、その場合の尖閣奪還作戦を考えています。島が取られる事態になれば、日本全体の問題になりますから、大きな戦争にならないことを前提に米軍と自衛隊の間で演習も行われています。しかも安倍氏は「海兵隊の創設」も考えています。世論は安倍氏の思想と政策に近づいています。
ポツダム宣言を根拠に領有権を主張する中国
原)カイロ宣言、ポツダム宣言によって第二次大戦後、日本の領土は本州、四国、九州、北海道の四つの島以外にないと明記しています。もし第二次戦争後の日本であれば周りの小さい島はなくなります。中国の軍人はこれを根拠に領有権を主張しようとしています。
山本)ポツダム宣言では、米国の支配下に琉球が入っていて、米国から琉球を返還してもらったわけですが。尖閣が含まれています。
原)米国が日本に返すといってもですね、連合国が同意しないと成立しません。米国の行為は連合国の憲法の中に違反するもので世界的には認められていません。連合国の憲法の中に日本とドイツとイタリアは敵対国として残っています。
山本)ポツダム宣言の前は日本が所有していたわけです。琉球は中国の属国であった時もありますがね。
歴史的には朝貢外交で、1561年明の時代。中国の使節が、琉球皇帝に会見したことが文書に記されています。そのとき、琉球皇帝の上奏文に尖閣大正島と明記されていました。ですから、中国政府も琉球政府に対して、尖閣は琉球の島であることは認めていたわけです。人民日報には、尖閣諸島は日本国であると記録されてきたのは周知のことです。ご存じのように、1969年琉球に油やガスがあるということが発表されて以来、中国政府は「尖閣はわが国固有の領土だ」と主張し始めています。それまで中国は海洋国家ではなく、島なんてどうでもよかった。それが海洋時代に入って、「これもうちのものだ」「ベトナムの島もうちのものだ」と主張し始めたんです。
原)歴史的根拠はともかく、ほんとうの所有権は、政府間で決めることで、今の中国の考えはもともと琉球は日本のものではないという先入観念があるんです。日本が考える北方四島と同じことです。
山本)現在、琉球は日本の領土になっていて米軍基地になっています。ですから中国は現実的に手出しできません。日本は法治国家で民主主義国家ですから根拠のない主張はできないんですよ。
原)沖縄は中国のものと思っているから沖縄を取り戻したいのです。だから(理由づけのために)ポツダム宣言とかカイロまで遡っているんです。ただし、国際的には賛同は得られないでしょう。問題は、中国に(それを従わせるだけの)力があるかどうか。今後の軍事力如何ですね。
国際社会では強い国が正しい
山本)原先生の意見は世界秩序の面からみて理解できません。しかし中国政府の本音なら価値があります。すべて戦争の原因は領土問題です。中国の場合、日本がすでに領土として保有しているものでも突然「私の領土です」というのは弱肉強食の論理ですね。これはかつての植民地時代のレベルです。中国はベトナム、フィリピンの島々も「私たちの領土だ」と平気で言いますが、他国の領土を取ろうとするのは日本では泥棒と言います。中国の人は昔から嘘が好き。上の人も、下の人も、えらい人も一切関係なく嘘を言い力ずくで他国の領土を奪い取る名人と聞いています。中国人はこれを悪いことだと思っていませんから世界から嫌われているんです。
原)日本人も嘘つく人がたくさんいるじゃありませんか。日本人は嘘つかないんですか?(笑)
中国は自分が強いと思ったらわがままを通し、力ずくで自分のものにすることが中国式のやり方なんです。
山本)日本では嘘をつけば村八分になります。ロシアも日露協定を破って北方四島を占拠しました。早く憲法改正して強い日本に脱皮しようと言う世論の風が吹き始めていくでしょう。しかし約束を破ったロシアとの経済関係は進行していません。
原)ロシアは尖閣の何千倍もの土地を取りました。それでも中国はロシアのように強引なことはしません。
山本)毛沢東時代はたくさんの領土をソ連コミンテルンの指導を受け侵略しましたね。モンゴルやチベット、満州を取りましたよ。毛沢東は最初、取るつもりはなかったんですが、ソ連のコミンテルンが中国共産党に侵略させた記録が残されています。
原)それはモンゴル、チベットが弱かったからですよ。次に中国が狙うのは日本ですが、その前に中国にもいろいろな難問が山積しているので希望通りにはいかないこともあります。
山本)結局、尖閣の本質的な問題は、中国の国内事情にあると言いたいんですか。人民解放軍は政治の主導権を握りたい。人民は共産党を打倒して民主化したい。中国国内での潜在的な紛争がいつ爆発するか。これから中国の動きが注目です。
日本の政治家は国家国益を主張せよ
原)今の日本の政治家は国のことを誰も考えず選挙のために政治活動をしていますから、中国からすればこんな政治家を相手にするのは簡単に操作できるんですよ。しかし、あまりいじめすぎると軍国主義になるので調整が必要です。
山本)いざ危機となれば日本は突然強くなります。まず、経済が変わり外交をきちんとすべきです。経済では円安、デフレから脱却するなど国際競争力を強くして世界で有利な条件で商売できるようにしないといけません。しかし現実は全く機能していないんです。この現実から脱皮する能力のある政治力が問われています。
原)選挙のためではなく、民主党も自民党も連立して早めに制度を変えて、国のためによくなる体制にした方がいい。この中から強いリーダーシップを取る政治家が登場すれば日本は激変しますよ。
山本)実績のある安倍晋三氏や橋下徹氏のように強いリーダーは袋叩きにされる。小沢一郎氏も力を持てば権力の力で有罪にされ、無力になれば無罪になる。しっかりした理念と哲学を持ちリーダーシップを取る政治家が登場できない日本の権力構造に問題があります。
原)その前に行政改革をすることが一番ですね。たとえば私の母は中国残留孤児ですが、毎月の手続きだけでも常に二つの省庁で二度手間になっています。これだけ見ても、行政の無駄がどれほどあることか。それを改革しないと国がよくなるはずがありません。
日本には強いリーダーシップと行革が必要です。今度もし、ほんとうのリーダーが現れれば、私も香港や台湾、中国の外交関係のパイプを使って日本の外交のため、アジアの平和のためにぜひ協力させていただきたいと思っています。
山本)心強いご意見ありがとうございます。原さんの中国に関するご意見は日本人の常識では考えられない発想で参考になります。今後とも日中間の平和と繁栄のために共に頑張りましょう。
原)賛成です。
次回は10月18日(木)