「アジア安保会議」2022年12月19日 講師/廣瀬 陽子 慶應義塾大学総合政策学部教授

2022年12月19日
  

「ウクライナ危機 その背景と国際的影響力」

 

 ロシアのウクライナへの軍事侵攻は着地点が見えず、長期化の様相を呈している。

 広大なロシアにとって勢力圏を維持することが外交の根幹で、地政学的思考は歴史的にきわめて重要だったが、冷戦時代は世界が二極化したためになりを潜めていた。しかしソ連崩壊後の1999年以降、相次いで旧共産国がNATOへ加盟。ロシアにとってNATOの東方拡大、EU拡大は到底許せるものではない。ウクライナは東スラブ系という民族的近接性もあり、歴史を共有し、緩衝地帯としても重要な地域。プーチンの大国への執着、米バイデンがウクライナへ派兵しないことを明言したことなどが侵略への引き金となった。NATOの拡大阻止が戦争の目的の一つだったが、結果的にフィンランドとスウェーデンの加盟を招くこととなった。

 政治的目的を達するために、サイバー攻撃、テロ、情報戦、制裁などさまざまな手段が組み合わされた現代型戦争ともいえるハイブリッド戦だが、日本にとっても対岸の火事ではない。ロシアがハイブリッド戦に固執するのは、低コストで済み、介入に関して言い逃れがしやすい側面があるためだ。とくにサイバー攻撃は実戦を避けつつ相手に打撃を与えられるなどメリットが大きく、ハイブリッド戦の主軸としてもはや切り離せないものとなり、益々高度化している。

 しかしウクライナの善戦でロシアはハイブリッド戦に大敗しているのが実状。ウクライナに共感し、支援する国際社会の協調もあり、仮にロシアが軍事的に勝利してもロシアの勝利はない。

 廣瀬氏は、ハイブリッド戦の定義、ロシアのサイバー攻撃の実態、プーチンの料理人といわれるエフゲニー・プリゴジン、プーチンの後継者の条件などについて詳細に解説した。また、ロシアの通常兵器の弱さを埋める極超音速ミサイルなど一点豪華主義的政策にも言及。今回の侵攻で国際社会に突き付けられたエネルギー価格の高騰や食糧高騰、世界規模のインフレなどの課題を指摘した。さらにロシアを弱体化させ、対中国に集中したい米国、ロシアを徹底的にジュニアパートナーにしたい中国、漁夫の利を狙うトルコなど各国の思惑や、米国が世界の指導的に立場に返り咲く可能性、「専制国家VS民主主義・自由主義国家」の二極化が進む可能性について見通しを述べた。