2026年3月16日「政民東京會議」講師/石破 茂 前内閣総理大臣

2026年03月16日
  
「自民党大勝利の先を考える」

1.今回の選挙結果の位置づけ
自民党は今回の選挙において大勝を収めたものの、絶対得票率は約3割にとどまっており、民意を過度に解釈すべきではない。小選挙区制度の下では、比較的少ない得票でも多数の議席を得られる構造にあるため、今後の政権運営には一層の謙虚さが求められる。また、過去の郵政選挙や野党転落の経験を踏まえ、選挙の厳しさと地道な政治活動の重要性が強調された。

2.自民党の強さの源泉
自民党の強さは、都道府県から市町村に至るまでの強固な地方組織に加え、医師会、建設業界、農業団体などの職域団体による支援に支えられている。また、野党時代においても公明党が連立を維持したことに対する謝意が示された。さらに、SNSが主流となった現代においても、最終的には「一軒一軒を訪ね、一人ひとりと向き合う」地道な活動が選挙結果を左右するとの認識が示された。

3.国際情勢の構造理解(領土・宗教・民族・経済格差)
世界の紛争要因は主に以下の四点に整理される。
• 領土:竹島や尖閣諸島をはじめ、日本人は歴史的・国際法的理解が十分とは言えない。
• 宗教:スンニ派・シーア派、キリスト教福音派などの違いは、国際政治を理解する上で不可欠である。
• 民族:日本は比較的単一民族的であり、民族対立への理解が相対的に乏しい。
• 経済格差:世界的な不満と対立の根源となっている。
特に宗教への理解不足は、アメリカ外交や中東情勢、イスラエル支持の背景を読み解く上で大きな制約となる。

4.アメリカ政治と宗教の影響力
アメリカ政治においては、福音派(全体の約3割)が重要な支持基盤となっており、特にトランプ政権においてその影響力は顕著である。福音派は終末思想や再臨思想に基づきイスラエル支持の立場を取っており、宗教が外交政策に影響を与えている現実を理解する必要がある。

5.イラン・イスラエル情勢と核問題
国際原子力機関(IAEA)の査察は申告施設に限定されるため、未申告施設における核開発の可能性が懸念される。
また、アメリカによる軍事行動が自衛権に該当するかについては慎重な検証が必要である。「予見的自衛(preemptive self-defense)」を認める国は限られており、日本としては唯一の被爆国として、核拡散防止体制(NPT)の維持・強化を主張していくべきである。

6.北朝鮮の核保有と抑止の限界
北朝鮮の核保有は、従来の抑止理論が前提とする合理性を揺るがす可能性がある。特に指導者の発言には、体制維持を最優先とする強い意志が見られ、従来の「相互確証破壊」による抑止が機能しないリスクが指摘された。

7.エネルギー・食料安全保障の脆弱性
ホルムズ海峡の情勢は日本のエネルギー供給に直結している。エネルギー備蓄は一定水準にあるものの、食料自給率は約38%と低く、備蓄も1〜2か月程度にとどまる。今後は、食料安全保障の観点から増産や備蓄体制の強化が求められる。

8.社会保障の本質的課題
国民皆保険制度創設時と現代では、対象となるリスク構造が大きく異なる。結核や労災中心から、がん、認知症、生活習慣病へと変化しており、制度の再設計が必要である。特に「未病」段階への投資を強化することが重要とされた。

9.国民へのメッセージ
国論を二分する課題であっても議論を避けるべきではない。
主権者である国民一人ひとりが「自分が総理であればどう判断するか」という視点を持つことが重要であり、政治家にはそのための議論の場を提供する責任がある。