山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     古代ギリシャの教訓に学ぶ欲望民主主義の末路②

2012年12月13日

時局心話會 代表 山本 善心 VS 勝田吉太郎
1990(平成2)年6月10日 月刊「心話」より


野放図な民主主義の結果が、重税国家

山本:当然、国力は衰えますね。

勝田:やがて、ギリシャが勢力が二分して、一方はスパルタ、一方はアテネと、国運を決するような大戦争(ペロポンネソス戦争)が始まり、28年も続きました。その戦争の最中でも、アテネでは「もっと劇場を建てろ」「体操競技をもっと盛んにせよ」「すべてを国家持ちにさせろ」、さらに公共会食、つまり、公共で一緒に飲み食いする費用も国家持ちにさせて、それも「もっと何度も開け」と催促するんですね。
戦争中に、そういうことを言いだしたんですよ、民主主義は。そんなことをしているうちに、群小の民主主義のリーダーたちは(そのころペリクレスは亡くなっていましたが)、しょうがないから、軍艦を造る費用をケチって劇場を建てさせたんです。結局、これでは戦争に負けますね。アテネは亡国になります。紀元前404年のことですね。そうなりますと、反革命などゴタゴタがあって、また民主派が権力を握るんですよ。この復活してきた民主派がソクラテスに死刑を命じたというわけです。ですから、ソクラテスの弟子のプラトンはますますもって、民主主義嫌いになるわけです。

山本:復活した民主派は、苦い経験を活かして反省することはなかったんでしょうか?

勝田:「これからは平和国家でやりましょう」「もう戦争はやめました」と、経済再建のために一生懸命働いたんです。そして時がたつと、経済大国になってきたんです。経済大国になりますと、民主主義の政権ですから、またぞろ「劇場」「体操競技」全部国家持ちなんです。そういう費用をテオリコンというんですが、このテオリコンが国家財政の主要な部分になってしまったのです。国家というのは、打ち出の小槌を持っているわけではないでしょう。だから、考えられるのは、富者、金持ちからいろんな名目で税金を取ることなんですね。いろんな名目の中には、貧民の娘が結婚するときの費用まであるんです。古今東西を問わず、税金を払うのは嫌なものですが、何かお国のためとか大義名分があれば、嫌々ながらでも払うものです。それが、貧民の娘の結婚費用まで税金から取られては、金持ち階級も怒りますわ。で、財産を隠蔽します。今風にいえば、脱税です。そうすると、そうはさせまいということで、全国にスパイが張り巡らされます。プラトンなどはほとほと困り果ててしまって、友人にお金を借りて払ったりしました。そのように迷惑をこうむったインテリがたくさんいたんです。野放図に発達した民主主義のやり方に、重税国家に音を上げる状況になってきたんです。

国家財政の破綻、焼け石に水の経済政策

山本:大失敗の経験も、喉元過ぎれば熱さを忘れるということですね。そして、破滅への道を辿るわけですね。

勝田:そうこうしているうちに、北の方にマケドニアという国が俄然力をもつようになったんです。マケドニアは、文化果つるところといわれ、軽蔑されてきたんですけれども、フィリップ(フィリポス)という人が王になった途端に、軍事大国になったんです。ひたひたと北から脅威が及んできたんです。それにもかかわらず、「劇場を建てろ」「もっと体操競技を盛んにさせろ」「全部国家持ちだ」といって国家予算のばらまきは続きました。で、財政問題に関して言えば、最後はインフレ政策に転じたんです。そうせざるを得ないですね。お金持ちからいろんな名目で税金を取るといっても、これは限度があります。もともと、アテネという国は資源があまりない国なんです。ちょうど今の日本と同じようにですね。で、いろんな国から油(オリーブ油)とか原材料を輸入して、それを加工して売る。そこで、アテネは極めて粗暴な経済政策をとった。アテネの港はいろんな原材料を積んで船が入ります。その際、中央政府は直前にその船の貨物の価値を、三割、四割引き上げるんです。一方、その船には以前の価格で取引させるということで引き上げ分をそのまま中央政府に差し出せ、ということです。これは極めて粗暴な経済政策ですよ。しかし、簡単明瞭なるインフレ政策です。最後は、国家が全てのものの面倒をみるわけですから、財政がパンクして、赤字財政になり、巡り巡ってインフレになるという火を見るよりも明らかな道理がここに顕れているんですね。

欲望民主主義、平和病からの脱却

勝田:このように経済的にも、欲望民主主義の末路はコントロールしないと国家が破産状態になっていきます。日本は今、赤字国債が合わせて160兆円とも200兆円とも言われていますが、そういう点でもいささか気になるところですね。おまけに日本はものすごいスピードで高齢化社会が進んでいますから、このままですと、ますます財政赤字が増えていく恐れがあります。

山本:アテネでは、誰もその危険性に気付かなかったのでしょうか?

勝田:平和国家万歳で、何でも国家にやらせ、全ての費用は国家持ちにしていると、やがてマケドニアから軍事的な圧力が加わってきたんです。そういう状況のうちで、せめてテオリコンの費用の一部を防衛費に充てろということを言った政治家がいます。しかし、一般の市民は耳を貸しません。それどころか、民会で「テオリコンの一部を防衛費に転用せよと、最初に主張するものは死刑にせよ!」という法律を作ってしまったんです。こうなると、平和病ですね。ついに、フィリップがやってきて、無条件降伏を要求するんです。さすがにその時には、かつてペルシャ大帝国を敵に回してサラミスの海戦を戦った、祖先の栄光を思い出したんでしょう。要求を蹴って、カイロネイアという平原で決戦をするんです。だけど、平和ボケしていたんですから、たちまち負けてしまう。それが紀元前338年。ついに、民主主義国家アテネの亡国の歴史になるわけです。どうも、民主主義に関して私はそういう野垂れ死にしていく様を、一言で「欲望民主主義」という言葉で表現しています。最近ではいろいろな人が使っていまして、まあ市民権を得た言葉になったと思います。日本も、そういう歴史の苦い教訓を考えて、欲望民主主義で国を滅ぼした国を常に思い浮かべて、そうならないようにしなければいけないと思います。

最後にもうひとこと言えば、われわれの持っている民主主義は単なる民主主義ではなくて、自由主義的民主主義なんだという、そういう「自由という気風」、それはなにも自由主義経済だけを意味しませんよ。福沢諭吉が口を極めて強調していた国民独立不羈の気概とか、そういう本当の意味での自由な気風、気概、モラルを大事にしていかなければ、せっかくわれわれが持っている民主主義というものも、崩壊していく危険もあるということを考えるべきだと思うんです。

山本:貴重なお話の数々、ありがとうございました。

次回は12月20日(木)