4月14日「政民東京會議」講師/奥島 高弘 元海上保安庁長官

2023年04月14日
  

「尖閣の領海警備の実態と今後の展望」

 尖閣諸島周辺海域における領海警備はわが国の最重要課題の一つだ。尖閣諸島は魚釣島、沖ノ北岩、沖ノ南岩などの島々の総称で、日本政府は明治28年に他国の支配が及んでいないことを確認の上、国際法上合法的に沖縄県に編入した。中国、台湾が領有権を主張し始めたのは、昭和44(1969)年に周辺海域に石油、鉱物資源が埋蔵されている可能性が指摘されて以降のことだ。平成24(2012)年の国有化の翌年に中国は沿岸警備隊として海警を発足。中国海警は2018年には人民武装警察の傘下となり、トップも軍人となった。わが国の海上保安庁は、ほぼ毎日のように領有権を脅かす中国海警局に所属する船舶の対応にあたっている。

 国家の主権を守るためにも自衛隊が対応にあたるべきとの声もあるが、軍でない海上保安庁が警備にあたることこそ、戦争回避につながり、“自由で開かれたインド太平洋”戦略にかなった、平和国家日本に適した対応と言える。

 海上保安庁は捜索救助、不審船や海賊への共同対処などで自衛隊と連携し、起こり得る様々な事態を想定して合同訓練も行っている。外国の海上保安機関と二国間、多国間で連携も進めている。同じ価値観を持つ国々との連携を強化することはわが国の安全保障にとって極めて重要だ。

 今年改定された国家安全保障戦略では初めて海上保安庁の役割の重要性が明記された。尖閣問題を見通すのは難しいが、日本は相手の挑発に乗って自ら事態をエスカレートさせてはならず、冷静に対処すべきだ。

 前年海上保安庁を退官した奥島氏は、中国海警の変遷、中国海警法の構成、コーストガードとネイビーの違い、アジア・大洋州の主な海上保安機関などについて詳細に解説。南沙諸島、西沙諸島における中国とベトナムの衝突事件や武力衝突、平成13年の九州南西海域における北朝鮮の工作船事件などの例を挙げ、事態をエスカレートさせないための海上保安庁の領海警備の苦労について述べた。そして、軍隊としての機能を否定した海上保安庁法25条の意義を強く主張した。