前回、共産党委員会の書記で中国重慶市の薄煕来市長の失脚について触れたところ、読者の方々から強い関心が寄せられた。いま一度、中国国内の激しい権力闘争の実態と汚職を生む構造に触れておきたい。中国では来たるべき習近平時代に備え、指導部の世代交代が進んでいる。今後の政治課題は高級幹部による汚職の徹底摘発をすることだ。
もともと中国社会は贈収賄が高級幹部の特権として常態化してきたが、人民の不満は限界に達しており、言論の自由と民主化の声は無視できない。これまで「胡・温体制」が汚職や闇社会の蔓延に対して、たびたび警告を発してきたが、全てが逆効果であった。胡錦涛、温家宝らは最後の仕事として汚職問題に対して高級幹部に徹底的な粛清を行い、悪弊を打ち破ろうと腐心している。
今回の薄氏解任は汚職・腐敗に対する矛盾と歪みは限界に達しており、人民の不満を抑制する意図が伺える。温家宝首相が薄氏解任の前日に発表した「文革の再来」発言は現状に対する危機感から来ている。中国当局はこれ以上人民の暮らしや自由を圧迫することに限界を感じている。それには中国共産党幹部の腐敗改革が必要であり、言論の自由と民主化は避けて通れない道でもある。
国内の利権の巣窟「中国太子党」とは
中国の情報誌による、「中国太子党」に所属するメンバーは高級幹部の子女約2900人で構成される集まりだ。太子党に所属するメンバーの資産トップ10は以下の通りである。
第一位/王軍(王震の息子)-中国中信集団公司董事長 資産は7014億元
第二位/江綿恆(江沢民の息子)-中国網絡通信集団公司 資産1666億元
第三位/朱燕来(朱鎔基の娘)―中国銀行香港発展計画部総経理同銀行の時価総額 1644億元
第四位/胡海峰(胡錦濤 の息子)―元威視公司相殺、時価総額838億元
第五位/栄智健(栄毅仁の息子)―元・中信泰富主席、時価総額476億元
第六位/温雲松(温家宝の息子)-北京Unihub公司総裁、時価総額433億元
第七位/李小鵬(李鵬の息子)-華能国際電力董事長、時価総額176億元
第八位/孔丹(孔原の息子)―中信国際金融董事長、同社の時価総額99億元
第九位/李小琳(李鵬の娘)―中国電力国際発展有限公司副董事長、時価総額82億元
第十位/王京京(王軍の息子、王震の孫)-中科環保電力有限公司副主席 時価総額7億7000万元
いずれも金融・電力・ガス、郵便や電信、不動産の各分野における中国を代表する大手企業であり、独占的な権益を確保するなど、特別な利権を独占していることが理解できよう。このように中国の経済的な仕組みとシステムは高級幹部によって独占され、億万長者の97%以上は「太子党」のメンバーで占められているという。
腐敗・堕落をもたらす権力構造
これまで中国の政治・経済を牛耳ってきた中国共産党であるが、政治権力者の子孫たちが利益分野を独占しているのが実状だ。さらに「中国太子党」の結束は堅く、仲間との利益確保にはなりふり構わぬ行動と共同投資など中国経済の支配層である。彼らは大多数の貧困層の犠牲のうえに権力を操作しているのだ。
これを見てもいかに中国の権力集団と一般国
民の間に格差があるかが理解できよう。中国は家柄が最大のエリート集団で仲間に入るのは容易ではない。一方、わが国のエリートは東大や京大など国立大学出身者に限定される霞が関族が権力の頂点に立っている。
中国では高級幹部が独占的に企業権益を独占することで、幹部たちにもおこぼれがある。さらに中国共産党、公安、行政らは「中国太子党」と組んで利権を分かち合う仕組みだ。彼らは職権や地位を活用して、賄賂をとるなど日常茶飯事のことで汚職に手を染めてきた。彼らは立場を利用して利益を享受し、いまや富裕層と言われている。富の分配が不公平に行われているのは中国の現実であり、特権階級の天国になっている。そこに闇社会が介入し貧困層をさらに圧迫している。
掃討作戦後も衰えない闇勢力
いま、中国では闇勢力が大きな力を持ち、党、公安、司法、国営企業などに深く浸透している。これは中国30の省行政区や271の地域行政にまで関係が及んでいる。とくに河北省や江蘇省・浙江省、福建省、湖南省をはじめ11の省区は行政と闇勢力が共存する強固な関係が指摘されている。闇勢力が関与する領域は文化、芸能、映画、テレビ、出版、金融、商業や党機関、交通運輸、司法に至るまで幅広い。
このように胡錦濤政権時代には闇勢力が蔓延の一途を辿っていた。胡氏はやり残した最後の仕事として中央社会治安綜合治理委員会の周永康常務委員に「闇勢力撲滅作戦」の責任者として闇勢力2131の組織を摘発・壊滅せよと指示した。周氏は組織の親分や幹部の1万2000人を逮捕し、これらと関わりのある党、公安、司法の公務員722人を処罰した。
周永康氏は胡錦濤氏の期待に応えて闇勢力掃討作戦に成功したかに見えた。しかしながら闇勢力に弾圧を加えれば加えるほど彼らはひるむどころか、逆にそれ以上に勢力を盛り返して中国全土に跋扈するのだった。
富裕層と一般庶民の格差は食生活にも顕著に
もう一つの問題であるが中国人の食生活、生活習慣の実態について明らかにしたい。たとえば彼らの日常生活にとって必要不可欠な食品は「食用油」と「豚肉」だ。「食用油」は党、役人、富裕層らは製造メーカーでつくられたものを食す。彼らが食べ残した「食用油」は調理場から下水溝に排出された油を業者が搾取し、真っ黒な「再生食用油」として再生する。
最近になってこの「再生食用油」の実態が明らかになり、社会問題となった。この油は食堂やレストランなど飲食店や一般家庭で使われている。この「再生食用油」は生ゴミと一緒に捨てられるが、さらに分類し区別されて豚の餌になっている。その豚を人間が食してきた。さらに生ゴミから出る油を個体と液体油に分けて「再々利用」も行われているらしい。
朝食の屋台で人気のある揚げパン・大餅なども「再生食用油」が使われているので旅行者は要注意だ。屋台や市民の食堂は美味しいと言う人もいるが、調子に乗って食べると腹をこわしたり吐き気を催すほど不潔で害のある食べ物だ。
常態化する利権政治
これまで高級幹部の汚職、闇勢力の蔓延が中国社会の腐敗と堕落を生んだと述べてきた。こうした事例は世界的にもないわけではないが、中国では常態化しているのが問題だ。人民は中央政府に絶望し、民主化した台湾へのあこがれは募るばかりで民心離れが顕著である。こうした人民の不満を食い止める手段として軍備増強への期待があった。権力者たちが一番心配することは暴動があれば抑制する手段として軍隊に頼るしかない。それ以外に軍備増強は中国が10億人以上の民を食わすために世界の領土や資源を収奪する手段としても必要不可欠である。
このように人民を犠牲にして汚職役人を太らせてきた。中国の改革解放のつけを人民に押し付けようとしているようだ。さらに南シナ海周辺で起きている領土と資源を巡る傲慢さとルール違反は世界中の反感を買っている。
軍拡と経済発展がどこまで続くか時間の問題ではなかろうか。間もなく行き過ぎた軍拡、背伸びした経済成長に大きな「調整と破壊」がやってくる。中国の経済基盤となる国有企業は党、政府、軍、企業が手を組んで彼らだけの特別利益集団と化してきた。間もなく解体の危機に瀕するとの兆候が見えるとすれば、温家宝首相の言う「第二の文革」だ。
中国の指導者たちは毛沢東以来、「人民のための人民の闘争」と言ってきた。人民らは「改革開放」を連呼してきたが、結局党や政府、軍部、国有企業の高級官僚らに益する利権の巣窟にほかならない。中国では年10万回以上の政府への抗議デモが起きているというが、単なる反政府運動だけでは人民が理想とする社会は生まれない。中国は台湾李登輝氏が行った独裁国家から民主化の過程に学ぶしか救われる道はない。
翻ってわが国も絶対的な権力を握る検察、霞が関を権力の座から引きずり下ろす力がないと、行政改革を掲げたところで、結局は民主党政権のような体たらくに陥る。中東で起こったジャスミン革命のように、人民が勇気をもって政治をドラマチックに変える行動を起こさない限り、国民は苦しみ続けるだけである。
次回は4月12日(木)
※次回は李登輝元総統の単独会見の模様を掲載する。ズバリ、日本の過去、現在、未来を分析され予見された意見は政官財の教科書になる。