山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     台湾民進党主席の来日講演

2011年10月14日

来年1月の台湾総統選を控え、10月3日、ハイアットリージェンシーホテルで、民主進歩党の候補である「蔡英文さんを囲む会」が開催された。今回蔡氏と共に来日した民進党の代表団は総勢27人で、これは訪米時よりも多い、過去最高の規模という。参加者は約300名。当日は90%以上が在日台湾人が中心と見られたが、台湾人ならではの熱狂的な応援ぶりには熱いものが感じられた。さらに日台報道関係者の姿も多く見られた。一つ残念なことは台北駐日経済代表処からの花束がなかったことだ。本来は中立な立場であるはずだが、選挙となると馬政権側に配慮する姿勢は、台湾の民主化は発展途上にあると思わざるを得ない。蔡氏のスピーチを下記の通り要約してご紹介する。

民進党が堅持し続けるのは自由、民主主義、そして人権

私は民進党が下野した2008年に政治家になり、その過程で多くのことを学んだ。この間多くの方々から励まされ、また応援いただくことで様々な選挙戦を勝ち抜いてきた。民進党は台湾社会での信頼をすでに回復したと信じている。民進党はリーダーと共に変遷していくが、自由、民主主義、そして人権という大切な原則は決して変わることはない。

わが党はたくさんの債務を返還したのみならず、この立ち直りの過程で国民の皆様の大切さを痛感した。

わが党は次の総統選において、まず、政策面においては2009年6月にすでに次世代への政策を具体的に考え始め、この2年の間に幾多の会議を開き、議論を重ねてきた。

台湾が直面する三つの課題

台湾は現在、三つの大きな課題に直面している。一つはグローバリゼーション、二つ目は中国の台頭、そして三つ目は台湾が過去50年間に経験した様々な経済、社会、文化的な発展があらゆる面で分岐点にさしかかっているという点である。

グローバリゼーションや中国の台頭によって起こる問題は、実は日本を含め、多くの国が直面していよう。ただ、台湾には独自でやらなければいけないことがある。それは、民主主義の発展、司法改革、そして政治体制、そして社会体制といった構造的な調整だ。もっとも変わらなければいけないのは過去50年間にわたって輸出加工、製造業に依存してきた経済的な体質である。その後、中小企業による中国への投資が増えたが、そうした構造を根本的に転換しなければ台湾は今後発展していくことが難しくなるだろう。

社会問題、所得の格差、そして司法改革、少子高齢化など、様々な問題を根本的に変えていくことが肝要である。司法に対しても国民の信頼をまったく得ていないことが問題であり、われわれが改革しなければさらなる悪循環に陥ってしまう。

世代間で異なる中国観の統一が不可欠

とくに台湾での中国をめぐる政治問題は、世代によって中国に対して異なる歴史的な感覚をもっており、このことが台湾社会を混乱させ、意思決定を滞らせてきた。この問題を解決しなければならない。

そのときどきの政権与党が、中国に対して異なる政策をとってきた。しかし一方で、台湾だけで独自に存在しているわけでなく、台湾は中国との関わりを無視して存在することはできない。そして同時にアジア太平洋、国際社会にもその存在をアピールする必要がある。

国民の団結力なしに台湾の民主主義は守れない

われわれは中国に対して強い力で団結しなければ台湾の民主主義を守り抜くことはできないだろう。国内の団結なしにアジアのほかの国々に対して台湾は平和、安定という重要な責任を担うことができる、と声高に主張することはできなくなる。

したがって今度の選挙に際して民進党と私は二つの大きな理念をもって臨んでいる。対外関係においても対中関係においても国内の合意が不可欠であり、民主的なプロセスを優先して、すべての台湾国民が自分の心を開き、合意に達することが必要だ。いま台湾国内で求められるのは社会の合意と、国民の団結だ。その二つがあれば台湾の力をまとめることができ、社会が必要とする改革を行うことができる。

台湾人がこのようにいかなる問題に直面しても、共に団結し、努力すれば、新しい社会、次世代のために社会経済的な問題を克服することができよう。それによって新しい産業を興し、新しい世代のために新しい雇用を創出することだ。それによって社会間の格差が解消され、それによって社会も進歩していく。国民の団結があればこそ、福祉体制の全面的な改革もできる。社会的なセーフティネットを構築することで台湾国民は安心して暮らしていくことができるのだ。

また司法改革を行うことで司法の独立性が確保され、政治や外的干渉を受けずに国民の信頼を得た司法制度を確立すべきである。つまり、民進党が最重要視するのは社会の安定と国民の和解であり、これが様々な問題を解決する手段にほかならない。

切っても切れない日本との深い関わり

台湾では、日本に対しての合意は一致団結している。例えば、1999年に台湾で起きた921大地震では台湾でも多くの人命が失われた。その際、日本から最も早く多額の義援金が送られたことが台湾の日本への深い感謝につながった。今回の東日本大震災に際して民進党が義援金を呼びかけたところ、台湾では非常に短い期間に200億円もの資金が集まった。これは私たちが集める政治資金よりも早く、しかも多かった。そういうものではないか(場内爆笑)。

長い間にわたって台湾と日本は文化、政治、社会など様々な側面において深い感情のつながりがあり、非常に密接な関係が維持されてきたからだった。それはいかなる政党が政権をとろうが、強化され、存在していくものと私は信じている。民進党政権時代には法律改正も含めた運転免許の相互承認をはじめ、対日関係を重視してきた。しかし、馬英九政権に政権交代して以降、多少疎遠にはなったかもしれないが、日本との関係は強化していきたいとの発言はしていると思う。すなわち、対日関係においては台湾国内ではっきりとした国民の間の合意が存在しているからだ。

アジア太平洋の平和のために日米安保を軸に日台間で様々な挑戦を

アジア太平洋における安全保障、経済統合、民主主義の発展など、共通の目的のために様々な挑戦を日本と共に歩んでいきたいと願っている。日米安全保障条約はアジア太平洋の情勢のバランスがとれ、平和が保たれるために、この地域が安全に保たれるための礎だ。

日本と安全保障の問題について引き続き対話を続けていきたい。民主主義のありかたについてお互い意見交換を行い、それによってより多くの民主主義国家があらわれ、そしてそれぞれの民主主義がさらに堅実なものであることを切に望む。自由と民主主義、そして自由市場―これらの要素はアジア太平洋地域がバランスのとれた、安定した発展をなしとげるために最も重要なものだ。また、日本と経済統合をめぐって意見交換し、アジア太平洋の自由貿易協定に関しても協力していきたい。
以上

蔡氏は、さらなる民主化の発展と日本とのパイプの重要性を重ねて強調するとともに、「対米間コミュニケーションも強化していきたい」とも語った。また、年明けの総統選について、「稀にみる激しい接戦になるだろうが、勝つ自信はある」と明言した。場内は万雷の拍手に包まれた。

次回は10月20日(木)