山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     固められつつある中国包囲網

2011年07月07日

中国は二つの問題を抱えている。2月発表の消費者物価指数は前年同月比4.9%上昇となり、所得全体の3割を占める食品が同11%増となった。しかも中国人の食卓に欠かせない豚肉は前年比で40%も上昇し、庶民の生活を直撃している。

これまで、中国はしきりに経済成長と軍事大国の成果を喧伝してきた。GDPは日本を抜いて世界第二位になったというが、国内では貧富の差が広がる一方である。しかも、「世界の工場」として中国の製造業を支えてきた中小メーカーは、原料や人件費の高騰、人民元の上昇、資金不足で減産、倒産が相次ぐ惨状だ。

中国経済の後退、不況の影響を受けて中小メーカーの経営不振や雇用の減少による人民の生活苦は深刻だ。とくに出稼ぎ労働者が各地で大規模な暴動を拡げている。たとえば10日、広東省広州市の郊外で起こった暴動は物価高や格差拡大に対する労働者の鬱積した不満が原因で火が付いた。しかも金融・不動産市場でバブル崩壊を危ぶむ声も聞かれている。

中国経済に「衰退」の兆し

これまで中国は「世界の工場」として君臨し、世界で最も成長著しい経済大国であった。しかし、中国経済の神話はもろくも崩れさろうとしている。これは中国に代わる東アジア諸国が人件費安・コスト安を売り物に躍進しつつあるのが一因だ。最近では中国企業もベトナム、バングラディシュを始めアジア諸国に安い賃金を求めて進出している。

中国の経済成長を支えてきたのは、海外からの投資と技術導入であり、貿易輸出であった。しかし、これらが停滞すれば雇用にも影響し、人民の生活

を直撃するのは必至だ。さらに中国経済に追い打ちをかける事態が相次いで起こっている。まず、少子高齢化であり、一人っ子政策であった。今後中国経済はこれら構造的な問題の解決が問われていよう。

6億人の人口を抱える農村部は深刻な物価上昇が進行と社会不安の前兆がひしひしと伝わってくる。それゆえ中国国民の不満をそらし、国内インフレから切り抜ける解決策は経済成長しかない。しかし成長よりも先にバブルの崩壊や不況がやってくればどうなるか。経済停滞や雇用の減少は中国国民の不満が一気に爆発しよう。中国共産党は人民という爆弾を抱えている。経済成長が続く限り人民は我慢するが、生活を圧迫すれば、中国共産党は存亡の危機を迎えよう。

恫喝だけで実行に移せない中国の国内事情

このところ、中国の方針や政策に変化の兆しが見られる。口では他国を恫喝するが、実際には行動できない国内事情がみてとれる。海外華僑らが6月17日1000隻規模の漁船を動員し、尖閣諸島を包囲して、上陸するとの情報が飛び交っていた。これは表向き民間団体を装っているが、実際は中国政府や人民解放軍が主導・支援している大規模計画と見られている。

しかし、あれほど中国で大騒ぎした尖閣上陸は実行されていない。東日本大震災後で一時延期になったと言うが、実際のところ、今の中国にとってわが国の世論を敵にすることは得策ではない。しかも、このところ東アジア諸国は中国との領土問題で摩擦が起こっている。こうした問題を起こすことは中国経済に悪影響をもたらす以外何ものでもないからだ。つまり、中国経済の悪化は中国共産党の崩壊を招く国内問題だ。

しかも、米国は南シナ海で挑発的な行動を繰り返す中国監視船に重大な懸念を示した。今後中国が南シナ海で暴走しないよう米国は監視するとの厳しい姿勢に変わりつつある。

台湾統一への中国の野心

2年前、2012年までに中国の台湾問題は解決するとの方針が暴露された。これは「中国共産党政治当局拡大会議」で決まった台湾統一への秘密資料である。これら中国統一に合わせるかのように台湾の馬英九政権は中国との経済一体化を加速させてきた。しかし、中国は台湾向けのミサイルや戦闘機、中型空母2隻をはじめ、台湾周辺海域に潜水艦隊を整備している。中国の対台湾統一の融和政策とは「顔は笑顔で心は悪魔」そのものだ。

実際、専門筋の意見によると、中国の台湾軍事作戦はかつての朝鮮戦争による上陸作戦的な攻撃方法ではない。中国解放軍は台湾全土に向けたミサイル発射と福建省にある地上基地や空母から発進する戦闘機、艦艇、潜水艦支援で8時間以内に台湾軍の主要部隊を殲滅させる準備を着々と進めている。

行き過ぎた恫喝と演出で墓穴を掘る中国

しかしながら、現実的に武力という観点からみても、中国が10年後、8時間で台湾各地の軍事拠点を陥落させることが可能であろうか。中国はあたかも実現するかのように威嚇・喧伝するのが得意技だ。たとえば最近中国ミサイル駆逐艦が潜水艦救難艦を率いて11隻が沖縄本島と宮古島間を通過した。一方、台湾問題のみならず、南シナ海でも中国の恫喝と行動は巧妙な演出が目立つが、実際の戦闘能力は米軍が見透かしている。

ここにきて、米国は中国を牽制するため東シナ海、南シナ海からインド洋に至るまで米海軍の派遣増強や対中抑止力が急ピッチで進められている。さらに周辺同盟諸国への兵器売却は急ピッチだ。米国はこれらの地域で同盟国の領有権や海洋権益を守るため、兵器の売却をはじめ、米海軍戦力を重視し「総合海空戦闘構想」を検討中だ。

米では中国批判決議が採択

米国は、これまでイラク、アフガニスタンをはじめ、世界の警察官として実践的な戦争を繰り返してきた世界最大規模の軍事大国だ。米国の軍事力がイラク、アフガニスタンから撤退するのも、アジアに軍事力を集中するとの方針によるものだ。今後米国の存在は中国にとって最大の脅威となろう。

米国世論も完全に二つに分かれている。中国通といわれるジム・ウェブ(民主党)米下院外交委員会、東アジア、太平洋小委員長は6月10日、南シナ海で挑発的な行動を繰り返す中国監視船の動きに「重大な懸念」を示すと発表。13日、上院で対中非難決議を採択した。

しかしながら、米国でも親中でリベラル派の国務省前副報道官トナー氏は14日、「強制力を用いず、外交的な話し合いで問題が解決されることを支持する」と強調した。このように米国は対中強硬派と中立派の二つに分かれているが、リベラル派の国務省は、国防省に引きずられて戦争介入するケースが多い。アフガニスタンやイラクからの米軍撤退は中国との本格的な対立を睨んだ万全な戦略体制づくりだ。

固められつつある中国包囲網

ここにきて、米国を中心に中国包囲網体制が着々と固められつつある。米国は南シナ海の西沙諸島、南沙諸島で中国と領有権争いを演じるベトナム支持の動きだ。さらにフィリピンのパラワン島海域の近くで海軍基地をつくる中国を牽制している。中国は西太平洋からインド洋へのシーレーンをねらっているが、今後米国と東アジア諸国が対中包囲網を敷くことになろう。戦争上手な米国の動きは決まれば素早い動きだ。

これら中国の海洋基地への野望を阻止するためには米国の関与しかない。しかし、中国の野望は中国経済が好調であることが条件だ。中国経済が衰退と下降トレンドに入ると事情はすっかり違ってくる。もし中国経済のバブルが崩壊すれば軍拡に大打撃だ。

中国経済のバブル崩壊は具体的かつ政策的にみて、もうそこまできている。中国がいま頼りにするのは欧州経済で、今後中欧関係を拡大するのに躍起だ。中国の温家宝首相は、6月24日、欧州3カ国を訪問し、EU(欧州連合)と接近し始めた。南シナ海の緊張で米国や東南アジア諸国との関係が悪化するなか、EUとの関係はバランス上中国にとって格好の逃げ場だ。

人民の怒りはもはや爆発寸前

とはいえ、中国は3兆ドル(約240兆円))の外貨準備高がドルに加えてユーロにも分散投資している。これまで中国経済は「世界の工場」時代に外貨準備金をしっかり貯め込んだ経緯があった。しかし、今後は人件費の高騰やインフレ、金利高、原料の高騰、資金不足、人民元の上昇などの悪条件が重なり、中国製品の輸出力低下は避けられない。つまり、今後中国経済が行き詰まるとの見方が有力である。

さらに、中国では貧富の格差が拡大し、共産党一党独裁に対する人民の怒りが最高潮に達しつつある。これまで尖閣や靖国など国民の不満を反日一色ですり替えてきたが、何度も同じ事の繰り返しには限界がある。つまり、中国政府は八方塞がりのところにきている。しかも年間の莫大な軍事予算も今後は鈍化せざるを得まい。中国は上昇気流から下降トレンドに入ったとの流れは否めない。

これまで世界は中国の経済成長と軍事拡大の脅威をまともに受け、威嚇におののき、周辺諸国は事なかれ主義で避けてきた。しかし米国は同盟国の動きと中国の限界を見極めたうえで対中政策の見直しと対中包囲網作戦を決断した。中国経済の衰退と共に東アジアが大きく変わろうとしているようだ。

次回は7月14日(木)です。