山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     過熱する台湾での原発報道に見る政治的意図

2011年04月14日

先月終わり頃、二十年来の友人である台湾人画家の姚旭燈氏から興奮した様子で電話がかかってきた。「今、台湾から戻ったばかりですが、帰りの中華航空機の乗客は私を含めてたった9人! そのうち台湾人は私だけで後の8人は日本人でした。台湾ではテレビも新聞も日本の原発事故のニュースばかりで、台湾人は日本中の空気も水も食料も放射能汚染で危ないと思っていますよ!」と言うのだった。

氏は日本人の奥さんと結婚して以来、日本に移り住んで25年になる。日本画の画家として活躍中で年に数度台湾各地で個展を開いている。その彼が、興奮した様子でそう語るのだから何かが起こっていると見てよい。台湾では日本からの輸入をストップする企業が相次いでいる。

台湾で不動産業を営む陳氏とは今月日本で会う約束をしたが「4月の日本行きは延期したい」との連絡があった。「日本からの原発ニュースで家族が反対して大変です。落ち着くまで日本行きは控えます」との連絡を受けた。

過熱する海外での誇大報道

台湾メディアの東日本大震災に関する報道内容はあまりにも現実から乖離している。筆者が3月18日台湾を訪れたときも地元テレビ局はこのニュースを朝から晩まで流し続けていた。その内容たるや日本に比べてさらに過激なものだ。女性キャスターらが興奮気味に「皆さん、東日本どころか東京も放射能を浴びた水と空気、魚と野菜も汚染され、悲惨な状況が続いています。日本はチェルノブイリ原発事故以上にすべてが汚染されています」と一日中同じことを絶叫する。何度も同じことを伝えられれば大方の台湾人視聴者は完全に洗脳されてしまう。とにかく報道による台湾人らの思い込みは想像以上で驚くばかりだ。

台湾の被災地報道があまりにも誇大で、事実無根のデマが飛び交っているようだ。日本の原発事故で東京は汚染され、まるで日本人全員が被爆者になったかのように報道されている。それゆえ対日観光が次から次へとキャンセルされているが、実際の東京は原発事故前と何ら変わりない。

阿鼻叫喚する周辺国

台湾の専門筋の話では、被災地以外も含めて台湾観光客の日本観光が99%以上のキャンセルがあると聞く。また、中国福建省の廈門港では商船三井の船に対して貨物を降ろす許可が下りず、神戸港に引き返さざるをえない事態も生じている。

これは、台湾に限らず、わが国の報道をさらに拡大解釈した海外の誇大報道によるものだ。今回の津波と地震で被災した地元は冷静に対処しているが、周辺地域はデマ情報に振り回されているのが現実だ。これらのデマや流言はほとんどが憶測や拡大解釈によるものである。ところが海外ではとんでもないでたらめな情報が飛び交い、あたかも事実であるかのように伝わっている。

わが国の報道は海外ではかなり誇大に報じられているが、台湾国民の受け取り方も全く違ったものになっている。過熱する台湾の原発報道で、台湾人による善意の義援金が4月7日現在107億円集まったと発表された。これまで分割して日本側に支払われてきたが、今後は一括払いとなる。今回の異常な台湾報道は、その裏に何か政治的な意図があると考えても不思議ではない。

馬氏の痛烈な反日発言

台湾の馬英九政権が「反日」に傾いていることは広く知られている。馬総統は日本の過去を断罪し、尖閣諸島は台湾固有の領土と主張し続けてきた。ましてや、米国の大学院では卒業論文に尖閣問題を取り上げるなど、根っからの反日闘士であった。

以前弊誌で紹介したが、筆者は馬氏の強硬な反日姿勢を目の当たりにしたことがある。筆者は民主党議員27名と企業経営者合わせて70余名で訪台した。当時台北市長であった馬氏は、我々一行を市庁舎広場の野外ステージに招待し、歓迎のスピーチを行った。

ところが、その内容たるや小泉純一郎元首相の靖国神社参拝とかつての歴史を断罪する反日発言を40分もの長きにわたって繰り返し、日本側の出席者を侮辱した。その後催されたパーティーでは日本側参加者の大勢は食事に手を付けなかった。多くの参加者は馬氏の反日姿勢は尋常ではないと感じ、彼が総統になれば日台関係は大きく後退するとの危機感を覚えたものである。

駐日代表処も反日の砦

当時の馬発言は日台親善の本筋を逸脱する非礼な態度であった。わが日本の政治家の面前でかっての日本の歴史を断罪する発言を繰り返すなど、馬氏の狂気の沙汰ともとれる露骨な反日姿勢は中国と同じ論理であり、中国側でもとらない非礼な態度に参加者全員が不愉快に思ったものである。

馬氏が総統に就任後、台湾の対日姿勢は激変し、嫌な予感はまさしく的中した。新たに台北文化代表処の駐日代表である馮寄台氏は、これまで日台関係を支えてきた親台湾派議員や関係者を無視する態度で接し、反感を買っている。ましてや代表処内の公務員も馮氏の顔色を伺いながら対応するのでこれまでのような親日ムードはなくなり、ぎくしゃくした雰囲気に様変わりしている。一言で言うと、これほど評判の悪い駐日代表はこれまでなかったというのが関係筋の意見であり、それを聞くたびに筆者の胸は痛むのだった。

台湾での過熱報道に何か意図的なものを感じるのは筆者だけではあるまい。台湾の新聞、テレビの90%以上は中国資本が入り、中国側の意図が反映されているのは周知のとおりである。「日本の不幸をよいことに日台関係を断絶する政治的意図が透けて見える」との意見も漏れ伝わってくる。

それだけに日本政府は今回の事件で全容を公開し、海外に向けて今後の安全性を喧伝すべきである。いまでは欧州の港湾も汚染されるということで日本の船舶の寄港を拒否する事態も出始めている。また、海外の船が東京湾への入港を変更する検討がなされているとも聞く。

台湾報道に何らかの政治的意図を見る

3月11日、馬総統は今回の東日本大震災に際して、台湾から救援隊を派遣したいと申し出た。しかし日本政府は受け入れる姿勢を示したが、中国の救援隊を先に受け入れてから台湾を受け入れるという外交姿勢に唖然とするばかりだ。菅政権はあくまで親中優先政権である。

大震災は地下核実験の余波と報じる香港テレビ局

今回の台湾報道には驚くべき内容のニュースがあった。発信元の香港のフェニックステレビ局の報道を台湾のテレビ各社がそのまま報じたから大変だ。「今回の津波と大地震は日本政府が地下核実験を行った余波によるものだ」という内容である。台湾人も最初はまさかとの思いもあったが、同じ報道が何度も繰り返されるうちに本気にする人もいたという。

「ウソ」とは中国ならではの専売特許だが、人の不幸を売り物にしたり、政局にするとは香港テレビの信用をさらに低下させるものではなかろうか。我々もフェニックステレビの名前が出るたびに「ああ、あのウソツキテレビ局…」となろう。一番評判の悪い枝野幸男官房長官も原発経過の棒読みばかりではなく、政治家としての言葉を使ってもらいたいものだ。

国家の衰退と崩壊は外敵の侵略よりもイデオロギーで滅ぶ。まず、祖先と祖国愛を溶解され、次に国家を支える国民の存在が無視されよう。彼らは領土内に外国人参政権を持ち込み、共同分有による地方分権を推し進めることが国家滅亡の決め手になると考えている。

大震災の影に見え隠れする迫りくる日本崩壊

菅首相は仙谷氏らと同じ政治的、社会的なものの考え方、思想の傾向を持つイデオロギー活動を行ってきた。彼らの歴史的、社会的立場に基づく思想形成は「左翼イデオロギー」だと断じる声もある。菅首相らの行動はかつてのローマ帝国が崩壊した過程と同じ道を辿っているとの指摘は興味深い。

ローマ帝国没落には次の主要な崩壊過程があった。第一に、国家の過去を否定し伝統を破壊し尽くす。第二に、国家解体のイデオロギーで国家基盤を破壊する。第三に、隣国からの干渉と敵意剥き出しの威嚇と攻撃に従属する。第四に、見せしめとして同じ権力内から常に敵を作り出し、党内を結集させる。第五に、資源と浪費の乱用による腐敗と堕落である。第六に、時と自然がもたらす国土の損傷だ。わが国は国家衰退の翳りが色濃く見え隠れする昨今であるが、古代ローマ帝国と同じ崩壊の道を辿りつつあるといえまいか。

東日本大震災で見せた菅政権の対応には日本再生という力強い政策と理念がまったく見られない。台湾の風水害時、7日間も姿を見せず国家の危機を放置した馬英九総統と相通じるものがある。日台両政権の共通する価値観はいまや「親中」であり、民族の未来より、自国を明け渡す亡国への道を歩んでいるかのように思えるのは筆者だけであろうか。

次回は4月21日(木)です