山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     小沢潰しで自滅する菅政権

2011年03月10日

前々号「小沢強制起訴の虚構」と題して小沢一郎氏の「政治とカネ」の問題を取り上げた。小沢氏に対する疑惑は実質的には何ら証拠も見当たらず、無罪になる可能性が高い。これまで、何らの根拠もないのに無理矢理有罪に押し付けようとしたものではないのか。判決後、関係者はこれらの問いに答えねばならない。

もともと権益の恩恵を受ける勢力から見れば、小沢氏の言動は権力機構に対する挑戦であり破壊勢力に映るであろう。小沢氏は沖縄の米軍基地問題や日米同盟について「日本の防衛には第七艦隊があればよい」「米軍基地は最低でも県外移転がよい」と言い、「日米対等外交」を明確にした。これは、「反米親中」であり、米国感情を逆なでにするものであった。

これまで、グローバル化を掲げた小泉政権以降、金融やM&Aを通じて、米国のわが国民資産の収奪は顕著であった。さらに米国主導のTPP(環太平洋経済連携協定)が実現すれば、わが国は自主防衛権と同じく国家の柱をなす関税自主権を失い、農業関係者は深刻な影響を蒙ることになろう。

小沢一郎は「政治とカネ」にクリーンだ

小沢氏の「政治とカネ」を裏で演出したのは米国であるとの論調が一部で漏れ伝わっている。これまで、田中角栄氏のロッキード事件はまさにそうであった。なぜ小沢一郎氏が生き残ってきたのかと問われれば、答えは明白である。今のところ小沢氏に犯罪を立証する根拠と事実が見当たらないからだ。検察側から見て犯罪を立証できる巧妙な偽装工作のカケラも見えてこない。

かつて筆者の友人、知人らが小沢氏に政治献金を申し出たことがあるが、氏は一切受け取らなかった。師匠である田中角栄、金丸信両氏が「政治とカネ」で失脚することをつぶさに見てきた小沢氏ほど「政治とカネ」にデリケートな政治家はいなかった。それゆえ筆者は水谷建設の水谷功元会長が二度にわたって元秘書らに一億円を献金したとの報道に、こんな事実はあり得ないと直感した。この話はその後立ち消えとなり、何もなかったかのようだ。

「小沢潰し」に名を変えた革マル闘争

米国の圧力や霞が関の政治権力によって「小沢潰し」は執拗に行われてきたが、なぜ小沢氏は降参しないのか。内外の権力者らによる巨大な圧力にもかかわらず生き延びているのは近代政治史の中で稀有な事例と言えよう。わが国は「法と人権」を価値観とする国是である。権力の濫用による正義が押し曲げられてはならない。

この小沢問題をネタに政権の延命を図ろうとしたのが菅直人政権である。本来なら党内問題であり、二度にわたって無実が明らかになったのであれば検察や政治倫理審査会に対して民主党執行部から小沢氏を擁護すべき発言や行動があって然るべきだった。しかし、菅・仙谷氏らは仲間を守るどころか仲間に卑劣な仕打ちを敢行したのは周知のとおりである。これは政治紛争を超えた革マル闘争の再演を見る思いだ。反小沢の急先鋒である前原誠司外相が政治とカネで辞任したのも自業自得だ。

小沢排除は党内にも潰滅的なダメージ

菅政権は米国や霞が関のエージェントとして「小沢外し」を専業とする政治集団との印象が顕著だ。米国は鳩山内閣の時点から次の総理は菅・岡田氏と予想して彼らに接触を図ってきた。米国の思惑通り、菅政権は「対米追従」路線、財務省主導の消費税等、増税路線に応えている。

鳩山・小沢体制は「対等な日米関係」を主張したが、菅・仙谷政権は「米国の代理人」「財務省の御用政権」とのイメージが強い。米国と財務省を背後に強力な政権としてスタートしたが、「小沢排除」の動きは民主党を分断し、中間派まで敵に回しかねない動きであり、菅政権は取り返しのつかない事態を招いていまいか。

2月15日、民主党常任幹事会は小沢裁判の判決確定まで「党員資格停止処分」とする方針を決めた。数日後、16名の小沢系グループが会派離脱を行い、松木謙公農林水産政務官が辞任し衆議院議員佐藤ゆうこ氏が離党した。民主党の壁は崩れ落ち、解体の危機に瀕している。

解散すれば菅氏一人勝ち

追い詰められた仙谷由人代表代行は公明党の漆原良夫国会対策委員長との会談で、「首相を代えてもいいから協力してもらいたい」と打診したらしい。このことは朝日新聞夕刊の一面トップに掲載されたものだ。仙谷氏らは政権政党の責任者としての資格と能力に欠けるのみならず、これは明らかな権力の濫用に他ならない。

日本が直面する重要課題に迅速な対応ができず、政争に明け暮れる菅政権の惨状は、リーダーの資格なき首相、首脳部の運営にある。これまでの自民党政治は首相候補者が派閥に育てられ、一人前になるまでカネの苦労をし、子分の面倒も見ながら政策や理念、国会運営などの極意を身に付けたものだ。しかし菅氏の場合は首相になるまで反保守の市民運動やイデオロギー政治に身を染め、天皇の戦争責任を問い、祖先や歴史をないがしろにする発言や論調などの運動に明け暮れてきた。

自ら革マルのふりをする仙谷由人氏らは政治的イデオロギーを行使することで、国家、民族の基盤を溶解させようとする政策が目白押しだ。中でもすでに施行された子供手当は防衛予算を大きく上回る年間6兆円近いバラマキになるが、これは赤字国債で補い、借金漬けを後世に残す無責任政策だ。これには提唱者である小沢氏の責任が問われてしかるべきだ。

次は自民党政権だ

小沢氏は30年近くかけて「二大政党制、政策による政権交代」の実現に漕ぎ着けた。いかに菅・仙谷氏が小沢潰しを目論んでも小沢氏の知恵と力はやわなものではない。小沢氏は菅政権が挙党一致でマニフェストを実行してもらいたいとの強い思いがあるのは、せっかく築いた民主党政権を壊されたくないからだ。小沢氏は最後の政治理念を完結したいとの思いが強いのではないか。

小沢氏は16人の会派離脱には反対であった。民主党政権は自分が作ったとの自負がある。菅氏が脱小沢に成功しても理念や政策が希薄で国民を引っ張る力がなければ政治の舞台から去るしかなく、菅・仙谷政権の退場まで待つとの思いがあったであろう。

目先の利害や支持率に一喜一憂する政治は有権者から切り捨てられよう。かつての自民党も最後は政策や理念の機能不全と政治軽視による敗北であった。かといって第三極であるかつての「新自由クラブ」や「みんなの党」が政権政党になる気配は今のところない。

イデオロギー時代の終わり

菅政権を主導しているのは仙谷由人氏であることは当コラムでも何度か取り上げてきた。仙谷氏の「小沢切り」は、民主党首謀者として旧ソ連のスターリン時代を思わせる独裁政治だ。異を唱える仲間には容赦なくリンチを加え、統括という名目で抹殺するのが彼らがやってきた常套手段である。しかし戦後政治史でも例を見ない仲間を粛清し、権力を行使するやり方は党内の大勢から支持を得られるものではなかった。

小沢氏は民主党を政権政党にするまで、日本全国を足繁く廻り、地域の隅々まで辻説法を行ってきた。小沢チルドレンをはじめ、旧自由党議員に至るまで議員の面倒をしっかり見ている。それに対して、仙谷氏らは小沢氏を粛清することで小沢派グループは自然解体すると踏んできた。しかし、小沢邸で開かれた新年会には小沢系議員が100名以上集まり、官邸で行われた菅首相の新年会には40名位しか集まらなかった。小沢氏は政治は数の力であると定義してきたが、次の首相候補も政界再編も数の多い小沢グループが中心となる可能性が高い。

菅首相の終焉

いよいよ菅政権の存続に限界がやって来たようだ。本人は支持率を1%切っても首相を辞めないと強がっているが、2011年度予算の関連法案のうち、赤字国債を発行する特例公債法案、税制改正法案が年度内に成立しなければどうなるのか。国内市場や国民生活は混乱し、株価の大暴落など市場の大混乱が予想される。

野党案を「丸呑み」するという菅首相の国会答弁もあるが、政治家は言葉が生命である。既に仙谷氏らは水面下で「ポスト菅」レースに動きが移りつつあるらしい。しかし、前原氏の脱落は痛い。今後誰になろうと刻々と迫る財政破綻と経済の凋落は止まらない。

民主党政権の致命的な欠陥は選挙で公約した「天下り根絶」と「公務員の総人件費20%削減」を始めとする行財政改革だ。一方では「外国人参政権」と「夫婦別姓」をはじめ、わが国の存続を溶解させる危険な法案の成立を推し進めていることを忘れてはならない。公約を無視し、国防をないがしろにする左旋回法案など、わが民族の将来を破綻させる危険な政策に大方の国民は危惧の念を抱きつつあるといえまいか。

次回は3月17日(木)です。