山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     日本を取り巻く世界経済を読む

2011年01月13日

年が明けたが、世界は日本と同じ百年に一度あるかないかの構造変化の時代を迎えている。わが国を取り巻く世界経済の雲行きは依然として明るいとは言えない。ましてや日本経済はいまだデフレから抜け出せずにいる。深刻な国内事情を抱える中国経済も、今年は何か一波乱あるのではないか。昨年後半からそれらしき兆候はあったが輸出頼りの日本経済は東アジア経済の好調に支えられている。

さらに、金融破綻一歩手前で財政赤字を抱えるギリシャ経済も全世界的に影響を与えるという危惧もある。EU諸国の財政赤字の増大は世界経済の活力を削ぎ、景気後退の要因となるのが心配だ。ドイツ、オランダなどは輸出国で実体経済が支えているが、ギリシャ、ポルトガル、スペインなどの南欧諸国は財政赤字で四苦八苦している。それゆえ修復の見通しも余地もなく、負け組国家のモデルケースとなっている。

いずれも米国が金融、資産バブル崩壊から、いまだに立ち直れないのと同じだ。米国民の大勢は住宅や自動車ローンの返済に追われ、国民は借金漬けになっている。さらに住宅価格は下落し、金融機関は不良債権を抱えたままで身動きすらできない。米国では多くの人々が仕事や家を失い、路頭をさまよう有様だ。これは弱肉強食による市場経済の哀れな末路といえまいか。

安易な自由化、グローバル化を猛省

いま、世界経済が米国金融破綻の余波を受けて景気低迷に喘いでいる。これまで資本主義経済は米国主導のもと、日本とEUが独占的に世界経済を牽引してきた。一方、中国やインドはかつてわが国が1980年半ばに経験したバブル期を迎え、アジア新興国も大躍進を遂げてきた。

米国流金融経済はサブプライム危機により賭博ビジネスのからくりが露呈した。米国は実体経済で流通する金融以外に現在16兆ドルという金融債権を発行し、米国経済を下支えしている。米ドルは世界通貨であるから世界の金融を操作できるのだ。米国の資本主義はドルを増刷して世界に資金をばらまくことで世界が潤ってきた。

このような米国型市場原理をそっくり日本に導入し、「構造改革」のモデルにしたのが「小泉改革」だった。彼らはわが国経済が世界に適応するにはフリー、フェア、グローバル、オープンが必要だと主張し、市場メカニズム一辺倒を強引に押し付けた。その結果、格差社会が生まれ、わが国の企業や投資家は米国ファンドの格好の餌食となり、二束三文で外資に買収された。

地方小都市はゴーストタウンが続出

日本経済は市場経済原理の影響で国民生活の安定とゆとりが失われ、多数の弱者を生んだ。人口6~8万人規模の多くの地方都市では食品、雑貨の購入は大型スーパーに集中し、地元商店街はシャッターを閉じる傾向が顕著である。これらの地域は国からも切り捨てられた。

米国のビジネスモデルである「ハーバード・ビジネス」プランがわが国に持ち込まれ、多くの若者がこれに学び、第一線のエリートとして活躍中だ。しかし、このモデルはすべてが効率的、結果主義であり、勝つか負けるかしか重視されない。それゆえこれまでの日本的経営は否定され、ドライな経営手法が勝ち組の条件だ。米国の本質は西部劇そのものの野蛮なシステムではないかとの現実が露呈しつつある。

悪循環に陥る日本経済

古来より農耕民族の日本人は「和」を尊ぶ、“共存・共栄・協力”の社会であった。しかし、すっかり米国型ビジネスモデルに洗脳されたわが国企業は、経営の効率化と利益を最優先にするため、人間を使い捨て同然に扱うようになった。敵を倒して制圧する西部劇的手法の経営論理を持ち込み従業員は正規労働者と非正規労働者に分断され、賃金格差が生まれ、賃金操作で企業利益を調整している。

日本経済は、経営の効率化を求めるあまり人件費を削減すれば、雇用がなくなり所得水準が下がって消費が減る。その結果売上が下落し、ますます失業者が増えるという悪循環に陥っている。民主党政権は子供手当をはじめとする景気対策を続ける見通しだが、ばらまきばかりでどれだけ経済回復に役立っているのかまるで見えてこない。それより雇用を生む未来の企業に投資すべきで、順番が逆ではないか。

小泉時代の米国一辺倒政策は格差社会を生み、産業が空洞化し、失業者を増加させたことは確かだ。わが国の民族的特長はよりよい品質を追求し、適切な価格で共存、共生する経済システムのはずであったが、結局中国やインドから安い製品を輸入して安ければ何でもよいという風潮をつくり上げた。これでは日本人ならではの価値観は全滅だとの印象を強くしたものだ。

対中輸出も下落局面に

低価格商品が市場を席巻し、街には百円ショップが溢れた。いまや多くの企業は低コストを目指し、商品の品質を落とさず顧客が求めるニーズを見極めるべきであり、それぞれの企業が得意とする分野に絞って競争力のある商品を生み出すことに特化すべきではなかろうか。

日本経済の危機に対して、最近政治の無能化に代わりメディアの論調も前向きな記事が多く見られる。わが国の対外輸出は、EUは13%、米国が16%に減少し、対米経済関係は縮小しつつある。いまや米国に代わって中国、インドをはじめとする対アジア諸国の輸出が56%となった(2009年現在)。しかし、財務省や中国国家統計局の資料によると、2010年3月頃から対中輸出は減速ではなく下落を始めており、中国市場の過熱にもかげりが見られつつある。

インフレは中国経済のブレーキに

わが国経済は対欧米輸出の減少後、好調な対中輸出によって牽引されてきたが、頼りの対中輸出も昨年、年率比率20%に近い下落となった。のみならず、2010年はアジア新興国の輸出も激減した。今後は輸出頼みから第三局のビジネスプランの創出が緊急課題となろう。

一方、中国では好景気の代償として誘発されてきたインフレが顕著で、中国経済の目下の緊急課題はインフレの抑制だ。温暖化による異常気象も農作物の収穫に影響し、米国から輸入する家畜飼料用の穀物などの値上がりによって中国野菜が20%以上上昇しているとの統計もある。物価の上昇に反して賃金は上がらず、農村部の貧困層をはじめ市民の不満は増大する一方だ。しかし彼らの収入を上げれば都市部への食品コストが跳ね上がる。これまで中国政府は農作物コストをその都度引き上げてきたが、それでは都市の貧困層を圧迫するばかりだ。これが中国経済の実情だ。

世界経済百年に一度の構造改革

米国型資本主義の実体とは、世界人口の0.1%の富裕層が世界の富の40%を独占するシステムに他ならない。資本主義の欲望という際限なき目的を満たすため為政者と富裕層の癒着が生んだ結果物だ。小泉改革は一部の銀行や企業を二束三文で米国企業に売り渡す規制化を奨励し、日本経済と国民はその「搾取と略奪」の餌食になった。

いまや、米国に代わり中国が同じ道を歩もうとしていまいか。中国富裕層は飢えに苦しむ貧困層には見向きもせず、富を国外に持ち出している。人民の不満は限界に達し、やがて革命という名の暴動か神の裁きが下ることは避けられまい。

日本企業は日本人精神に還るべき

これまで、日本経済を取り巻く情勢は厳しいと分析してきたが、日本景気に底打ち感が出てきたのも確かだ。対中経済も下落したが、引き締め政策によるもので、中国系各種統計でも踊り場脱出間近の変化が見られる。また主要先進国も改善の兆しが見えてきた。さらに米国を中心とする投機マネーの伸びが景気を後押ししよう。

わが国経済の終身雇用は愛社精神を育み、会社に家族的な結束を作り上げてきた。また、年功序列は企業文化を着実に継承する独自の知恵をもたらし、いずれもわが国民族の企業が長い間積み重ねてきた「技量、能力、経験」の継承を重視するシステムであった。

これまでのように、国防も経済も自らの国家としての哲学を持たず、すべて他国の顔色を伺いながら、その流れに追随する外交姿勢は止めるべきだ。外交にしてもわが国を思う理念や哲学は何も伝わってこない。日本経済の再生は企業も国民も日本流の自立精神と伝統的価値観の復元が問われていよう。
次回はわが国の安全と繁栄はどうあるべきかの持論を述べてみたい。

次回は1月20日(木)です。