山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     東南アジア・中国経済に期待

2010年11月25日

米国の中間選挙はオバマ民主党の歴史的敗北に終わった。民主党は上院、下院ともに大幅に議席を減らし72年ぶりの大惨敗となる。オバマ大統領は2年前、米国を救うリーダーと期待されたが経済政策でつまずき、米国民の支持を失った。オバマ政権になって、経済が一向に回復する兆しがなく米国民の気力と意欲が失われている。

かつての大統領選でオバマ氏は「チェンジ(改革)」を連呼して米国の再生に向けて力強い発言とイメージを演出した。世界をどん底につき落としたリーマン・ショックを大胆な財政支出で乗り切り、金融システムの破綻をストップさせる効果をもたらす。その段階で「さすがにオバマ氏はやるぞ」と米国民と世界の期待は膨らんだ。

ところが、巨額の財政支出によるオバマ氏の景気刺激策は期待に反して米国景気の回復に至らなかった。失業率も10%のまま回復せず、景気刺激策は単なる債務処理に終わる。1500万人の失業者が仕事先を求め、ローンも払えない状態では、住宅は売れず、住宅産業は壊滅的な打撃を受けたままだ。米国はわが国と同様、目先の火の粉を振り払う財政出動と金融緩和を繰り返し、新しい経済政策を生み出せなかった。

中国は最大の経済的パートナー

一方、中国経済はこれまで順調に推移し、GDPで日本を追い抜き、世界第二位に躍り出る。中国は、20年後には全世界のGDPで23%を占め、経済規模はわが国の4倍(内閣府資料)になるとの予想だ。

この2、3年わが国経済は米国に代わって中国経済の恩恵を受けて来た。わが国の対中貿易は輸出では米国を抜いて第一位となる。わが国経済にとって巨大な中国市場はものづくりから農業の輸出に至るまでいまや必要不可欠な関係だ。

これからは中国の発展を前提にわが国企業は資本と技術、ブランド力を提供し、それに中国側の需要が結びつくことで日中経済の相互依存関係が期待されよう。米国は中国への輸出を倍増させる新戦略を計画中だ。わが国はもはや国内市場相手で発展できない体質となり、中国市場やアジア新興国に目を向ける選択肢が問われている。

危ぶまれる中国の経済成長

当面、米国の将来は期待できず、中国の20年先を考えれば、わが国企業は今後米国から中国や東アジア新興国に進出する企業が増えて来た。米国との貿易は縮小する一方であり、今後景気回復の見通しが立たない。一方、わが国は中国の近代化にODAや借款と投資を行い、企業技術の投入など種まきの時期を経て、ようやく実りの秋を迎えた。

しかし、中国にも問題がないわけではない。中国が今後も年10%の成長を続けるには世界が中国製品を買い、中国に外資と技術が今後も投入されることが条件だ。中国はこれまで安い商品を大量に買ってくれた米国経済が失速し、対米輸出の減少で失業率が増大し、年間成長率の10%が危うくなっている。安い労働力を使った「世界の工場」は人件費の高騰でこれまでの強みを持続することが難しい。さらに、国内の環境問題は深刻で、中国人民の大勢は生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている。

一握りの権力者による腐敗政権

中国は世界の経済大国であり、軍事大国であるとメディアが喧伝しているが、果たして本当にそうであろうか。これは単なる一時的な現象だとの見方もある。株をやっている人なら誰しも理解できるが、株価は急に上昇すれば、必ずピークを迎えて一気に下落する。つまり、上昇のスピードが早ければ下落も早い。中国はまさしくピークから下降トレンドに入った兆候もあり、政府が必死で株と不動産の下落を食い止めている。

これまで、沿岸地域の人々は恵まれた経済環境で経済的恩恵を受けてきたが地域の農民らは世界最大の貧民層である。中国全体でも国民一人当たりで見れば、わが国は中国の10倍以上だ。

中国社会の貧富の格差による二極化は、今後避けて通れない大きな社会問題だ。中国共産党はマフィアと同じで、弱いものいじめで富を奪取する政権であった。一握りの権力者が甘い汁を吸う腐敗しきった権力構造に国民の不満は爆発寸前だ。

デモの矛先は反日から反政府へ

中国政府が公表した失業率は4.7%。社会科学院の発表では9.4%となっているが、実際は33%と報道されたこともある。中国の失業人口に関して温家宝首相は(3月22日付産経新聞)2億人といい、メディアは4億人前後と報じた。筆者は中国関係の情報を整理する際、いつも中国政府の発表はメディアの水増しが多く真実の数字にかなりの誤差があるので、何が本当か筆者はいつも苦慮している。

雇用問題は貧富の差を拡大させるばかりで、中国人民の不満は限界に達している。胡錦濤政権が取り組んできた「調和社会」はどこかに消し飛んでしまった感があり、中国共産党は最大の危機に直面していよう。人民は不満の捌け口を暴動に求め、政府は人民のはけ口を「反日」に誘導することで乗り切ってきた。その一つが尖閣問題である。尖閣諸島周辺で起きた中国漁船衝突事件の真相は中国政府のやらせ事件だと人民は知っていながら反日デモが鳴り止まず不気味な様相を示した。

民衆の怒りは爆発寸前

これまで、中国が反日歴史教育や反日デモを誘導してきたのは人民の政府批判を鎮める手段であった。しかし、今回の尖閣事件で政府が最も恐れる兆候が出ている。デモのプラカードには反日批判に加えて中国政府への抗議文が掲げられ、反抗の芽を孕んでいた。

今後、中国経済成長が減速したり格差が拡大すれば、反政府への抵抗がますます大きくなり、第二の天安門事件になりかねない。人民は、限られた少ない収入に抑えられたままインフレが加速し、生活が成り立たなくなった。実際、今回の尖閣問題で中国政府への不満のきっかけはインフレだ。今後ますます人民による政府批判がつのり爆弾の種となろう。

中国のさらなる大規模な反政府デモが生じれば、旧ソ連の分断や東欧社会主義国家にみる以上の暴動が起こるとの見方もある。今後中国経済はどうなって行くのか。ここで少し触れてみたい。

中国経済の行方をどう見るか

いくつかの問題を抱える中で、中国は世界経済に多大な影響がある。中国の社会生活は日本や米国のように物が充足していないのでまだまだ伸びる可能性がある。一つは、国民所得の上昇で2020年には1万ドルを突破するとの見方があり、消費の拡大市場が期待されよう。二つは、新車の需要が旺盛で中国の新車市場は2012年までに2000万台、2020年には3000万台が見込まれている。三つは、マイホームの建設ラッシュで農村から都市部に移る若者らの人口大移動だ。

米国経済の全盛時代は車と住宅がよく売れていた。それゆえ、中国経済が、マイカー・マイホームの需要が伸びる限り、米国と同じ経済発展が続くと見る。これは輸出依存から内需依存に転換するもので、わが国として大きな市場になろう。

中国は強大と言うが、全体的な統計や構造を見れば発展途上国であり、法とルールのない国である。さらに深刻な水と空気の汚染など、環境問題が深刻だ。これらの環境問題で一番期待されているのが、わが国の環境ビジネスである。たとえば電気自動車が主流になれば、電機メーカーと自動車メーカーが融合して経営の効率化と新産業の創出が経済を活性化させよう。

富国強兵の明治維新に倣え

今行われている自動車や電化製品の補助金制度や子ども手当などその場しのぎのばらまき政策で、歳出は雪だるま式に膨らむ一方で、経済はよくならない。わが国企業は国内のふんづまりからアジア諸国に新産業の創出を生み出す工夫が問われている。

筆者が事ある毎に政治家に提言しているのは、わが国経済の未来と新産業の創出である。東アジア新興国や中国に資本と技術力、ブランド力を投入して、東南アジア市場と共存する時代がやって来た。さらに中国人観光客の誘致と観光整備の充実で観光立国としての収入を確保すればよい。中国人の金銭欲を満たす観光特区をさびれた温泉地などに設置して多くのお金を落としてもらう戦略もある。もっといえば「日中間海底トンネルの建設」「日中間夢の豪華客船」で「日本五日間の旅」など、富裕層を大量に誘致する民間の知恵が必要だ。さらに農業も工夫すればバラ色のビジネスが待っている。

わが国経済の基軸は中小企業である。この中小企業の技術力や勤勉さ、正確さが世界の信用だ。成熟したわが国企業が活躍する舞台はアジア新興国や中国にとって必要不可欠な存在である。企業が外地にエネルギーを向けられるよう政治が誘導すべきだ。それには政治がいかにリーダーシップを取るかであり、政治家の活躍に期待する案件が山ほどある。政治と民間が強調する知恵と工夫が問われていまいか。

次回は12月2日(木)です。