財務省、経済産業省に関係する与党議員らから「日本経済は大変な事態になりますね」「この先二番底は固いんじゃないですか」との声を聞く。まるで他人事のような発言だ。今年前半は成長率が1%未満にとどまるとの予測もあり、景気は足踏みする懸念が強まりつつある。
さらに日本を取り巻く世界の経済情勢もドバイ・ショックから派生する為替、株式の乱高下などの金融不安の材料がある。さらに米国や欧州の景気動向もはっきりせず、わが国経済が浮上するきっかけは見えてこない。
鳩山政権の二次補正予算案もデフレ経済から脱皮するには程遠い。参院選の票集め目的のばら撒き政策が目立ち、長期債務の拡大傾向を食い止める政策も見られない。民主党の掲げる「政治主導」は格好良いキャッチフレーズであったが今や財務省からも見放され、世論離れも顕著だ。
鳩山内閣の経済失政
なぜ日本経済がここまで落ち込んだのかとの率直な問いかけに政府は答えていない。「政権交代」というキャッチフレーズと自民党の自滅で飛び込んできた鳩山内閣であるが、経済政策でいくつかの失政を犯したとの見方が拡がりを見せている。
鳩山政権は公的歳出と財政赤字の削減という当初の選挙公約を守るためそれなりの努力を払ってきた。しかし、中長期的な景気刺激策を打ち出せず景気が落ち込む結果を招いた。今後は公約である歳出の削減、プロジェクト凍結を補うプランを実行できるか否かに経済的手腕が問われよう。対応が遅れれば企業心理の不安を生み、雇用情勢の悪化が一段と加速する。
これまで民主党は自民党の財政赤字を批判してきたが、与党に転じてさらに財政赤字が拡大し失業率の上昇が止まらずでは、次なる選挙に対する影響は大きい。このままでは次回の参院選で単独過半数を獲得できる可能性は少ない。
赤字国債の発行は悪か
こうした鳩山内閣の経済政策に対して首相を支える閣僚からも異なる意見や矛盾するメッセージが噴出する始末だ。本来なら内部で理念や政策は統一されて然るべきだが、経験の浅い若手議員らに日本経済の再生を期待するのは土台無理な話ではなかろうか。
しかし、このまま生産・雇用調整が減速すれば完全失業率がさらに上昇し、消費が停滞することは確実だ。では、この厳しい経済状況を乗り越えるにはどうすればよいのだろうか。(株)ライフコーポレーション会長である清水信次氏が2001年台湾で弊会が主催した「アジア戦略会議」で、わが国の財政事情に関して以下のとおり持論を発表した。当時はあまり理解されることはなかったが、現在では専門筋の間で同様の意見が多く出回るようになっている。ここで改めて清水氏の見解を採り上げてみたい。
清水氏発言骨子
「10年前(1991年頃)テレビの討論番組に出ていた私は、不良債権処理の問題について政府が思い切って150兆円出して金融機関のすべての不良債権を肩代わりすべきだと主張したことがあります。もし私が政治的リーダーシップを発揮できるなら、まず金融機関の不良債権処理はすべて国に肩代わりさせることにします。同時に国による株式買い上げ機関をつくり優良株だけを国に保持させます。日本の景気が良くなれば国が買い取った株価も上がるだろうからそれで損失を補填すればよいのです。スピード勝負の市場経済において市中の金融機関に長期的な解決方法は向きません。まず国に肩代わりさせるのが経済政策の努めです。
具体的には金融機関の不良債権は現在32兆円(実態は150兆円ともいわれる)ありますが、私は国が150兆円出せばすべてが解決すると思います。これからは国も株を持ってもよいことにして国の基幹産業の優良株を100兆円まで保有します。そうすれば株式市場は一気に上昇し、国民も安心して投資できます。国民の貯蓄性資産1400兆円のうち1割でも株式投資に向かえば140兆円にもなり、これで株式も景気も絶対に良くなるはずです。
それから税制を抜本的に変えます。基礎控除を360万円にしてその他を一律10%にします。所得税は現在最高50%になりましたが思い切って一律10%に下げます。そうすれば消費はどんどん上向きになります。同時に消費税を10%にすれば税収が約10兆円増加し、所得税の40兆円と併せて現状の50兆円は確保できます。相続税と贈与税を一律10%にすればさらに景気が良くなることは間違いありません。」
わが国経済はグローバル市場でハゲタカファンドに振り回されて大きな傷を負って以来いまだに立ち直れていない。世界経済とは米国主導の胴元経済であり、ルールや倫理観、民族の習慣、商業システムなどの根源的な違いにわが国経済の惨敗があった。現場の第一線で闘う経済界からの意見が政治や行政に反映される工夫が肝要である。
清水信次氏参院選に
清水氏は一代でスーパーマーケットの「ライフ」を全国で200店舗、従業員8万人近い大企業に作り上げた成功者だ。現在日本スーパーマーケット協会の会長も兼任され、84歳になる今も第一線で元気にご活躍されている。このたび参院選で民主党から出馬されることが決まった。筆者は清水氏とは25年以上のお付き合いと記憶しているが、弊会の勉強会には毎月欠かさず出席される熱心な勉強家だ。会長室は新聞、雑誌、単行本などの資料で埋め尽くされている。
清水氏はかつて岸信介氏に私淑し、わが国の未来を憂う国士であった。これまでわが国の政治や社会に強く関与されてきたことは周知のとおりである。しかしここに来て政治に対する不信が募り、このままでは日本国経済が破壊されてしまうとの危機感を抱かれていた。
もし清水氏が当選し、参議院議員として経済指南役として活躍されたら日本経済は根本から大きく変わることは間違いない。企業経営と国家経営は全く同じであり、収入と支出のバランスは経営の基本である。家計が健全であるには主婦のやりくりに負うところが大きい。そのやりくり名人が清水氏だ。民主党は清水氏の経営手腕に学び、無駄のない国家経営を行うべきではなかろうか。政治とはリーダーと参謀であり、清水氏に期待するところ大である。
他国を圧倒する日本の底力に期待
わが国は歴史上かつてない敗戦の荒廃から立ち直り、米国に次ぐ世界有数の経済大国になった。これは日本民族の永い歴史から育まれ、継承されてきた伝統文化、勤勉性、愛国心、清貧思想、約束重視、道徳教育、恥を知る文化など数え切れない蓄積があったからだ。しかし1990年以降わが国が経験した経済的凋落はこれまでの自信と強さを無残に打ち砕くものであった。
現在多くの日本人は自信喪失という危機に瀕している。これでは日本がこのまま崩れ落ちていくのではないか。しかし果たしてそうであろうか、否そんなことはないという思いがよぎるのは、われわれには他国にはない強い土台を先人から受け継いでいるからだ。高い教育に技術力、勤勉な労働者に加え、アジア経済を席巻できる貯蓄率と投資率は他国を圧倒していまいか。
わが国はグローバル化という大海原で多くの荒波に飲み込まれ、活力と精神性を蝕まれてきた。この荒れすさんだ経済の修復には民主党政権に期待するしかない。正しく強いリーダーシップでわが国を牽引する政治の政策と実行力が待たれている。
新たな繁栄の時代に向かって
1990年以来、わが国民は政治が作り出した格差社会の犠牲になって低い生活水準に耐えてきた。そのうえ希望や夢、ロマンという若者特有の権利が奪われてしまっている。かつて織田信長が比叡山の僧兵という既得権者と闘ったように、民主党も霞が関行政の天王山に果敢に挑む大改革を成し遂げてもらいたい。
これからは、わが国の先人たちが営々と築いてきた伝統文化や民族基盤を売りものにすればよい。それには観光事業や農業化政策を整備拡大して開発途上国の観光客らを誘致すべきだ。今後金を生む観光資源の開発、農業再編成に民間の知恵を借りて公共投資を行うべきである。
米国や中国が略奪的資本主義と覇権主義国家を目指してもやがて粉々に崩壊するしかなかろう。戦前わが国先人たちが中国や韓国、台湾の近代化と発展に大きく寄与したように、わが国民の誇りある偉業を忘れてはならない。わが国やわが国民の偉大さは日々変わらず努力を積み重ねてきた勤勉さにあり、これからも基本を忘れずにまじめに働くならば、わが国の基礎は未来永劫決して揺らぐことはない。
次回は3月25日(木)に発行いたします。