今後鳩山内閣で、日米関係はどう変わっていくのか。鳩山政権は発足以来反米親中路線をとり、米軍普天間飛行場の移設、インド洋への自衛隊給油隊の派遣、在日米軍駐留基地の特別協定、在沖縄の米海兵隊グアム移転協定など、米国側の要請にことごとく反対の姿勢を示してきた。
鳩山政権は旧社会党系の議員や知恵袋の寺島実郎氏らの影響を受け、反米親中、平和主義が鮮明となる。鳩山首相のスローガンは「友愛」がテーゼであり、これが思想的な根元といわれる所以である。わが国ではすでに「保革対立時代」が終わり、モデルなき政治の時代との思いからまたもや旧社会党時代に舞い戻りつつあるとの感を禁じ得ない。
民主党に保守のイメージが強かったのは、本来、保守の塊と見られていた小沢氏の影響が大きいといえよう。しかし小沢氏らは日教組の輿石氏を党副代表に、横道氏を衆議院議長に据え、さらに旧社会党系の議員らを入閣させている。
東アジア共同体構想
09年10月10日、鳩山首相は北京の人民大会堂で温家宝首相と会談し「日米同盟は重要であるが、アジアをもっと重視して米国依存から脱却したい」と本音を吐露。また韓国の李明博大統領との会談で「これまで、ややもすると米国に依存しすぎていた」と語り、反米姿勢を露わにして李氏を唖然とさせた。
鳩山首相は当初から東アジア共同体構想で米国排除の意向を強く示していたが、東アジア諸国からの反発が強く、断念せざるを得なかった。これは状況変化を読み違えた個人的な思いにすぎず、指導者としてのレベルが疑われるものである。
鳩山首相は自らの政治的理念や政策を持たず、その場の勢いに流されやすい傾向が見える。鳩山氏の東アジア共同体構想に対し、中国の楊外相は「これは中国政府が以前から指示してきた考え方である」と暴露した。これでは鳩山氏は、中国の単なる太鼓持ちに他ならない。
日米同盟より中国隷属
2005年の沖縄移設合意の際に米側の交渉担当者であったローレス国防副次官が、産経新聞のインタビューで「(日米が)脆弱な同盟関係になっている」「日本を取り巻く安全保障環境は厳しい状況にあるが、鳩山政権はその危険水域に自らはまっている」と不快感をにじませた。
ローレス氏は「鳩山首相が今後米国を必要とせず、日本を防衛する必要もないなら、早くそのように言ってほしい」と警告している。ローレス氏をよく知る筆者としては、余程頭に血がのぼったとしか思えない発言だ。
米紙・電子版ワシントンポスト(8月27日)は、鳩山首相を「気まぐれな指導者」と報じている。「日米安保の変更を考慮に入れた外交・安全政策の大転換を検討しているのではないか」と韓国や台湾の当局者も、鳩山首相の動静に不安を隠せない。
リーダーの条件
筆者は人間の能力やレベル、人物像を分析・評価する基準として①生まれつきの性格、②育った環境と社会経験、③現在の思想・理念など3つに区分して判断する。①の生まれつきによる性格や頭の良さは、一生変わらない。②は家庭と学校の環境や社会経験など、社会で培われた実績だ。③はそうした過程を経て、現在の考え方がどうあるかが評価の決め手となる。
鳩山首相に会った人なら、誰でもその人柄に魅了される。恵まれた環境、血筋、学歴など、どれをとっても合格点である。しかし政治の世界では、これらの条件は上り詰めるまでの単なる通信簿に過ぎない。大切なことは、これまで何を経験し、いかなる成果をなし得たか、その結果、今何をどう考え、何をしようとしているのかが最も重要なことである。
民主党は「マニフェストを実行する」を政策目標に掲げたが、公約にあるの無駄遣いカットによる歳出減が見えてこない。また首相のいう「友愛」は、主権と国益が交差する外交の舞台では通用せず、まもなく消えていくしかない底の浅い理念ではなかろうか。
世界のリーダーに学べ〈胡錦涛〉
筆者が凄いと評価する二人の政治リーダーを挙げるなら、まず中国の胡錦涛国家主席だ。05年2月、駐日大使の唐氏に「日本は重要な隣国、貿易相手だ。高度の戦略的認識から中日関係を安定させねばならない」と話している。国内では江沢民氏との確執、難民による陳情やストライキの多発、暴動、水と環境問題、外交では対米問題、小泉時代の対日問題、台湾問題、国内経済ではサブプライムショックによる金融経済危機など、相次ぐ難問に見舞われながら、2009年の輸出額は約112兆円で世界のトップに立つ。
中国はかってない「天下為公(天下は公のため)」という政治指導者に恵まれたといえよう。胡主席は、14億人の「民」と「公」のためにあらゆる政策を駆使し、国難を切り抜けてきた。
中国は西側の民主政治と共存することで、国際的地位は劇的に様変わりした。ここにきて米中の政治・経済関係が、敵対から共存へと変化しつつある。江沢民政権の覇道から王道への絶妙な転換は、胡主席の指導力の凄さによるものであろう。
世界のリーダーに学べ〈李登輝〉
台湾では1988年、李登輝氏が総統に就任した。1996年には初の民主選挙で総統選に当選。在任中の12年間でさらなる自由と民主化を成し遂げたのは、中華圏では初めての快挙だった。
李氏は「よく台湾の独立と言うが、大陸(中国)は大陸、台湾は台湾だ。今さら独立という必要はない」が口癖だ。つまり、台湾はすでに民主化によって独立した主体性ある国家であった。
今、李氏が台湾世情を憂えているのは、抽象的概念や精神的な思考能力の欠如にある。「現代社会では物質ばかり重視するが、すべてが表面的な事柄にとらわれているようだ」と言い、経済のためなら何でもありの風潮に警告を発している。
李氏は「品格」「教養」「愛国」「愛民」は生涯の財産であり、金銭や権力は一時的な利得と考えて来た。この4項目を人生の目標とするのが指導者の条件であり、生涯をかけて追求せよと説いている。弊会では本年3月12日、講師に李氏を招いて「海外研修会」を台湾綜合研究院で行う。
鳩山政治とは何か
今を生きる東アジアの偉大な指導者を紹介したが、「鳩山首相にはどんな能力があるのか」との声が聞こえてくる。たとえば普天間飛行場移設問題での政治能力が問われていよう。最近、韓国や台湾の友人に会うとまず「普天間問題はどうなりますか」と聞かれるが、鳩山政権の無策ぶりを危ぶむ声がしきりだ。
中国は1996年から12年間、毎年国防予算を12.9%拡大している。しかも国防費の内容は明白になっておらず、軍拡の標的がどこかも明らかにされていない。しかし、福建省にある1300基のミサイルがわが国と台湾に向けられているのは明白である。
一方、日本と台湾の軍事費は年々減少している。鳩山内閣はインド洋での補給活動から撤収するが、代わりに中国海軍が引き継ぐ。原油の9割を中東に依存するわが国のシーレーン(海洋通路)とプレゼンス(存在)はどうなるのか。鳩山内閣は一体何を考えているのか、と言うが結局は何も考えていないとの声が大勢だ。
米中共存時代
これまで中国は日米の仮想敵国であった。しかしここにきて米中が利害を共有する関係に変化したのはなぜか。これは朝鮮戦争以来韓国に駐留してきた米軍が、2016年7月をもって完全撤退し、韓国軍は米軍の指揮統制から完全独立するからだ。
冷戦時代、米国とソ連は安全と国益を賭けて敵対した。しかし米中は経済で共存し、安全保障面でも仮想敵国ではなくなった。こうした米中の変化に対して、鳩山政権がどこまで理解した上で米国離れを言い、中国との隷属外交を加速させていくのか。
世界が一つの枠組みで動いているなら、鳩山首相がいう「日米は対等な関係」は正しい意見だ。しかしその前に、わが国が安全保障面で自立してから発言すべきではなかろうか。
次回は1月28日(木)に発行いたします。