2025年1月28日「アジア安保会議」講師/西野 純也 慶應義塾大学 法学部政治学科 教授

2025年02月03日
  

「尹大統弾劾後の韓国政治外交」

 昨年12月に1980年の光州事件以来の非常戒厳宣布以降、韓国政治の混乱が続くなか、米国ではトランプ政権が発足し、朝鮮半島情勢にも影響を及ぼすことが予想される。

 戒厳令は翌朝には解除され、後日、尹大統領は国民に対して謝罪したが、「北朝鮮と結びつく反国家勢力、野党による立法独裁が行われ、戒厳令は国を救うための統治行為であり、正しかった」と一貫して訴えた。野党によって尹政権の主要人事が相次いで弾劾され、予算は削られ、行政府の機能が麻痺しているというのが尹大統領の主張だ。

 尹大統領の弾劾訴追案が国会で可決されたことを受け、年初から憲法裁判所での弾劾審判が始まり、尹大統領自らも出廷している。大統領が憲法裁に出てくるのは初めてである。大統領自身が法廷で語るのには重みがあり、国民に訴える意味もあろう。大統領を罷免されるほどの重大な憲法違反であったかどうか、憲法裁の判断が待たれる。また、尹大統領は現職大統領として初めて内乱罪でも逮捕、勾留、起訴されたため、今後は内乱罪での裁判も受けることになる。

 今回の戒厳令は、政治経験がないまま大統領に就任し、野党との向き合い方、政治的妥協の方法を学ぶ機会のなかった尹大統領個人による重大な過ちであったと考えている。保守対進歩というイデオロギー対立に加え、感情的な対立による韓国社会の分極化が今回の事態の背景にあるのは間違いないが、戒厳令宣布そのものを韓国民主主義の問題と捉えるのは論理の飛躍ではないか。また、北朝鮮と結びつく反国家勢力による立法独裁が行われている証拠が示されておらず、多くの国民は国政が麻痺する状況下であったとしても戒厳令は行き過ぎだったと考えている。

 西野教授は、内乱罪での捜査や与野党の支持率の変化、弾劾裁判の行方などについて解説。次期大統領選挙の展望については、李在明代表で臨むであろう野党に対し、有力候補者不在である与党の現状に言及した。但し、野党が現政局で強硬な対応を続けば、社会の安定化を望む世論の反発が大きくなると共に李代表への反感も高まり、今後の展開は読みにくくなるとも述べた。外交・安全保障への影響については、「米韓同盟重視は変わらない。日米韓関係はトランプの行動如何で変わる。北朝鮮の動向も考慮する必要がある」とし、韓国内でトランプと向き合えるリーダー不在の現状を憂慮した。

 その後の質疑応答でも活発なやり取りが行われ、西野教授は日韓関係の変遷、年代別の対日観、現実的な韓国との向き合い方について持論を展開した。