2023年3月29日「アジア安保会議」講師/福田 円 法政大学法学部教授

2023年03月29日
  

「習近平の対台湾工作と台湾総統選挙」

 習近平政権発足から10年が経ち、同政権の対台湾政策の全体像が見えてきた。台湾の独立を阻止してきた胡錦涛政権に対し、習近平政権では統一を促進し、中国側がその主導権を握ることに力点を置いてきた。これは胡錦涛政権の対台湾政策を否定的に評価しているためだとみてよい。

 米中対立が進み、欧米の先進民主主義国の中国への評価が悪化し、コロナ下で国際社会での台湾への評価が高まる中、習近平政権は独自の対台湾工作でこの状況を打破したいと考えてきた。広範な台湾社会をターゲットに工作を行っていた胡錦涛政権に対し、習近平政権は軍事的威嚇や外交圧力によって台湾を追い込みつつ、ターゲットを絞り、一方的かつ直接的にできる現状変更へとシフトしている。最近ではホンジュラスと国交を樹立し、これによって蔡英文政権発足時は22あった台湾と外交関係を持つ国は13まで減少した。中国としては台湾を追い込み、困った台湾を助けることで中国への依存を増やしたい考えだが、現実的にはそこまでうまく運んでいないのが実状だ。

 先の台湾統一地方選挙で「抗中保台」を掲げた民進党が惨敗した。2024年台湾総統選挙では、習近平政権は台湾の選挙結果には影響されないというスタンスではあるが、チャンスがあれば当然影響力を及ぼしたいと考えているだろう。

 現状の国際環境の下では、国民党は誰が候補者になったとしても主要争点である「台湾のあり方・国際関係」で苦戦し、馬英九政権末期に損った対米関係の修復も課題となる。一方、民進党の候補者・頼清徳には、米中双方が「独立」傾向の主張を強めるのではと不安を抱いている。総統選の行方は台湾アイデンティティを持ち、現状維持を志向する無党派層にどれだけ働きかけられるかが鍵となるだろう。

 福田氏は、中国の統一戦線工作が抱えるジレンマ、選挙までに想定される政治日程、蔡英文の訪米、馬英九の訪中がもたらす影響などについても詳細に解説。その後の質疑応答でも活発なやり取りが行われた。