2023年5月15日「政民東京會議」講師/香田 洋二 元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将) 

2023年05月15日
  

                  「日本の抑止力はどこまで通用するか」

 戦後、日本では抑止力について真剣に論議されることはなく、最近になってようやく議論が少しずつなされるようになったが、議論では日米同盟すら軽視され、日米安保を離れ自衛隊だけでどう守るかというような、愛国者論議に変質してしまっているのが実状だ。また、武器の内容について議論されても、それをどう活用するのか、実際の運用に関しての議論が一切なされず、机上の空論にとどまっている。

 わが国の安全保障の柱は日米同盟、日本国憲法における自衛権の発動にあるが、憲法上の制約でわが国からは攻撃できない以上、真に必要なのは対米支援。備蓄や戦略後方支援を含め、米軍の本来の機能を最大限発揮させつつ、わが国の防衛力を強化することだ。その点で日米安保の思想は日本国憲法に見事にフィットし、日米同盟は戦略的相互補完機能の役割を果たしていると言える。

 台湾有事が起きた場合、中国が制空権、制海権を得るには数ヵ月の期間と百万の兵力が必要で、現実的とは言い難いが、そうなった場合に米国は台湾のために大きな犠牲を覚悟して闘うのか。米国が中国の台湾侵攻に介入する条件として、日本側の米軍の受け入れ、後方支援、戦闘被害が起きた場合の一次的対処が不可欠だが、日本のメディアや識者がこうした点に触れることはない。

 香田氏は、中国の台湾軍事侵攻の際の複数のシナリオ、先の大戦での沖縄戦や湾岸戦争の例を引き合いにし、有事に必要な戦闘機や輸送機の数、必要な燃料や兵士の食糧など、元自衛艦司令官として詳細に解説した。また、現在の米中の戦力の実態、米軍にとっての台湾有事の考え方、世界の軍事力ランキングで日本が前年の5位から2023年に8位に転落している現状についても言及。「戦争が起こった場合の戦闘被害の処理など、最悪の事態に備えた議論が必要。大事なのは政治の決心だ」とし、抑止力に関する基礎研究やフィールドワークの重要性を強く訴えた。このほか、北朝鮮の核とミサイル開発の現状についても述べた。その後の質疑応答では活発なやり取りが行われた。