「政民合同會議」2020年1月8日(水) 講師/田中均 元外務審議官・日本総合研究所国際戦略研究所理事長

2020年01月08日
  

「朝鮮半島を巡る国際関係の行方」

 近年、世界中でポピュリズムや過激主義が台頭するなか、戦火を交えるわけではないが、事実上の戦争ともいえるいわば「見えない戦争」の危機が世界中で広がっている。国際関係の秩序を維持していたかつての東西冷戦構造が崩壊し、圧倒的な大国のトップにドナルド・トランプという公職経験のない人物が選ばれ、国際関係は国内の延長として考えられるようになってしまった。昨今の米国の対外政策は、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害に代表される、トランプ大統領再選を目的としたのではないかとおもわれるような、極めて衝動的な政策となってしまっている。
 朝鮮半島は、中国、ロシア、日本などの周辺国から常に抑圧されてきた歴史を持ち、周辺国から蹂躙されないための武器として手に入れようと北朝鮮が画策してきたのが核兵器だ。平和利用のための原子力開発という名目で核開発を巧みに進めてきた北朝鮮は、6者協議後の2006年以降、弾道ミサイル発射、核実験を実施。その後、南北の交渉を経て米朝首脳会談に至るわけだが、北朝鮮の思惑は核兵器を保有したまま、諸外国から支援を受け自国の経済を強固にすることであり、そのためには核を段階的に削減する姿勢も見せるだろう。しかし安易にこれを受け入れるわけにはいかない。北朝鮮はトランプ大統領を与しやすい相手とみており、米国との関係を強固にすれば日韓は追随するものと考えている。日本が常に米国に追随するという印象を与えてしまうことは、日本の外交の選択の幅を小さくしてしまう恐れがある。
 朝鮮半島を支配する最大の要因は米中だ。両国の対立は貿易問題にとどまらず、先端技術の開発や政治安全保障問題など、広範囲にわたって今後も長く続く。それぞれ異なった経済圏を確立しようと思うかもしれない。一方、改革開放路線以降、自由の抑圧と経済成長を両立できない矛盾、国外に台湾、香港というアキレス腱を抱える中国は、米国との長期戦を見据え、欧州、日本、インド、ロシアとの関係も強化しておきたいのだろう。
 こうした中でトランプ大統領は他先進国と比べ際立って国内志向的な行動をとっており、米国は国際的求心力を失い、また中国、ロシアを中心として米国に対峙するグループの勢力が強くなっていくのではないか。
 田中氏は、このほか、ロシアの現状、米韓関係、などにも触れ「朝鮮半島はパーツで見るのではなく、大局を見ていくことが不可欠」「日本は北朝鮮の非核化や拉致問題解決に向け、北とのパイプを持つことが必要」などと主張した。