「アジア会議」2020年1月20日(月) 講師/松田康博 東京大学東洋文化研究所教授

2020年01月20日
  

「2020年台湾総統・立法委員選挙結果と中台関係の展望」

 台湾総統選は総統選史上初めて得票数800万を超え、現職の民進党・蔡英文総統が対立候補の最大野党、国民党の韓国瑜・高雄市長に約260万票の差をつけて圧勝した。蔡英文の圧勝は、有権者による中国へのアピールとも言えるだろう。総統選は台湾内部の経済状態だけでなく、米中関係、香港問題も大きな影響を及ぼしている。
 台湾は中国との関係を抜きには語れず、台湾には、自立を求めると中国が台湾を追い詰める “繁栄と自立のジレンマ”が存在する。中国は2000年代前半以降、WTO加盟によって“世界の工場”として輸出主導型で毎年10%の経済成長を遂げたことで、対台湾依存度が大幅に減少。現在、台湾が全体の貿易の25%を中国に依存しているのに対し、中国は台湾に5%しか依存しておらず、中国が圧倒的に優位に立っている。その帰結が馬政権の誕生であった。
 馬政権が中国人の個人観光を開放したことが台湾の観光業を大きく潤した一方、中国人との接触が増えたことによって台湾人のアイデンティティが「中国人でもあり、台湾人でもある」から「中国人をやめた」「私は台湾人である」へと変わっていった。しかし、このことは必ずしも台湾人の「独立」「統一」「現状維持」の状況を変えるものではない。「独立」を宣言すれば中国との戦争になるとの考えから、本音では統一はご免だが、8割が現状維持を表明しているのが実状だ。
 馬政権が繁栄を求めて自立を犠牲にした結果、危機感を求めて政権交代が起きた経緯がある。年金改革など、思い切った改革を断行したことで蔡英文の再選が危ぶまれた時期もあったが、今回の圧勝を受け、蔡政権の2期目は脱原発、若者の雇用対策、社会保障改革など内部改革に注力したい考えだ。中国への挑発は行わず、対外的には米との自由貿易協定の締結を目指すものと考えられる。
 松田氏は、2018年の地方選挙で蔡英文が大敗した背景、今回の総統選の対立候補・韓国瑜の人物評、世論調査の攪乱工作、中国人や台湾人の心理など、豊富な統計を元に多角的に分析した。