「アジア会議」2019年2月25日(月) 講師/武貞秀士 拓殖大学大学院特任教授

2019年02月25日
  

「北朝鮮の核問題の行方」

 昨年以降、北朝鮮の周辺環境が変化したなかで米朝首脳会談が行われる。昨年春以降、中朝、南北、米朝の首脳会談が開催され、軍事衝突の危機は減ったが、北朝鮮の非核化と拉致問題は進展していない。1994年の米朝枠組み合意締結時と比べると南北関係は飛躍的に改善されたし、北朝鮮の指導者は金正日から金正恩にかわった。核兵器開発技術が最終段階に達したと判断した北朝鮮は米国との関係正常化に向けて米朝関係改善に照準を合わせた。わが国は、昨年3月頃から北朝鮮に対して従来の拉致問題解決ありきの姿勢ではなく、日朝対話を模索する姿勢をとるようになった。しかし、安倍政権はいろいろなチャンネネルを活用して北朝鮮との対話を呼びかけているが北朝鮮が応じる兆しは見えない。

 北朝鮮が非核化を決断すれば、米国は終戦宣言を出して北朝鮮の体制を保証して大規模な経済支援を進めることができるし、北朝鮮は経済繁栄を謳歌できるというのがトランプ大統領のシナリオだ。ただ、米国の情報機関は、経済繁栄の道を保証しても北朝鮮は核兵器を温存すると見ている。米国の軍事介入を阻止する能力を持つための手段が核兵器であると見る米情報機関とトランプ大統領との間には見解の違いがある。ただ、このところのトランプ大統領の米朝対話へののめり込み方を見ると、戦争を抑止しながら、米国が緊張緩和のプロセスで主役となるならば、韓国防衛のコストを削減できるので、北朝鮮の核兵器放棄がすべてのプロセスの出口になっても仕方ないと考えているかのようだ。

 韓国は米朝首脳会談が首尾よくゆけば、南北首脳会談を急いで、“民族” “統一”をキーワードに、米朝関係と切り離して独自に南北関係の構築を進めていくのではないだろうか。わが国は、拉致問題の解決を米国に託すのではなく、独自政策を検討すべきだ。具体的には国連制裁下では北朝鮮支援は困難だが、米朝関係の改善が進み、北朝鮮の核兵器放棄のプロセスが軌道に乗るのと並行して人的交流活発化を検討すべきだ。国交正常化のあとに経済支援を行うことは、将来、南北が統一するときに日本の役割を確保することにプラスになる。

 以上のように武貞氏は説明をした。「ふだんメディアで報道されないところを、あくまで少数派の見解ではあるが」と前置きしたうえで、北朝鮮と中国、ロシア、韓国の関係を分析して、目前に控えた第二回米朝首脳会談で、両者がどのような協議を行うのか、連絡事務所設置の可能性、開催場所に選ばれたベトナムと各国との関係など、これまでの朝鮮半島情勢を振り返りながら、今後の展望を述べた。その後の質疑応答では活発なやりとりが行われた。