「アジア会議」2019年4月25日(木) 講師/礒﨑敦仁 慶應義塾大学准教授

2019年04月25日
  

「北朝鮮情勢を読み解く」

 冷戦終結から30年、大量の餓死者を出した未曽有の食糧危機を経て、北朝鮮は昨年9月、旧ソ連の歴史を超え、親子3代の統治で建国70周年を迎えた。核開発計画を放棄してNATOに介入され、体制崩壊したカダフィのリビアを教訓に、核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」を展開してきた北朝鮮だが、昨年3月頃からメディアの論調に変化の兆しが見え始める。きっかけはトランプ大統領による米朝首脳会談開催発言だ。

 米朝首脳会談以降、北朝鮮では「アメリカ帝国主義」批判が鳴りを潜めた。国民の忠誠心を引き出すには経済成長が有効であり、経済に集中していきたいという認識があろう。金正恩国務委員長は、「対外貿易の多角化」を繰り返し主張してきており、中国経済頼み一辺倒への危機感もある。

 北朝鮮は「完全な非核化」について約束し、国内についても公言するようになった。「完全な非核化」の定義が問題であるが、北朝鮮の国内問題に踏み込まず、現体制の維持を認めつつ非核化を要求してくるトランプ政権ほど、北朝鮮にとって都合の良い政権はなかなか出てこない。トランプ政権下で経済制裁緩和などにつなげたいのが本音だろう。
礒﨑氏は、そのほか北朝鮮の対ロ外交などについても解説。日本が北朝鮮との貿易を減らした15年間に中朝貿易が十数倍になった点も指摘し、「日米韓が連携して北朝鮮に国際的圧力をかける」ことには限界がある。理不尽且つ不愉快であっても、物事を前進させるためには対話が必要。小泉政権以来の日朝首脳会談ともなれば、国民の期待は高まることは間違いないが、いかなる外交であっても満額回答は難しく、粘り強く交渉を続けていく必要がある、との持論を述べた。