「アジア会議」2019年9月25日(水) 講師/野嶋剛 ジャーナリスト・大東文化大学特任教授・元朝日新聞台北支局長

2019年09月25日
  

「近づく運命の日・2020年1月台湾総統選挙で何が起きるのか」

 台湾総統選は台湾にとって4年に一度、世界に中台統一がそう簡単には進まないことをアピールし、民主国家としての台湾の主体性を確認する儀式のようなものだ。

 台湾総統選は台湾本土路線を唱える民進党と対中融和路線を主張する国民党という基本構図は変わらない。過去にない要素として、米国が肩入れする民進党と中国が肩入れする国民党という対立構造がかつてないほど今回ははっきりしており、さらに昨今の香港情勢が大きな影響を及ぼしていることが挙げられる。

 来年1月に行われる総統選は事実上、再選を目指す蔡英文と高雄市の韓国瑜市長の一騎打ちとなる見通しで、現時点では蔡英文がリードしている。蔡英文は就任当初、執務に没頭し、対外的発言を控えたばかりに存在感を示せず、年金問題や労働問題での政策的失敗もあって支持率が急落。一時期は党崩壊の危機もあったが、今年1月に行なわれた中国の習近平の「一国二制度の台湾への適用」発言に蔡英文が素早く反論を加えたことを機に存在感を示し、香港情勢悪化で台湾国内に生まれた危機感も後押しして支持率が回復した。米中対立で米国の台湾支持が明確になり、民進党に有利に働いていることもある。

 この30年間で5-6割が自身を台湾人と考える台湾人、もしくは台湾人でもあり中国人でもあると考えるようになり、台湾人としてのアイデンティティに誇りを持つ人が増えた。台湾の意識調査では現状維持が50%以上、将来の独立を支持する層が40%以上で、計90%以上が“非”統一を支持しており、統一は議論にすらならない現状だ。ただ現状維持派も、中国が民主化すれば統一してもよいとする層と、主体性を持った台湾の維持を望む層があり、一枚岩ではない。台湾政治における切り札はやはり民意。台湾の将来にかかわる重大事がなにか起これば民意は一気に民進党に傾くので、香港情勢がさらに悪化すれば国民党の打つ手はなくなるだろう。

 朝日新聞在籍中に台北支局長も務めた野嶋氏。「日本のメディアは過去、“独立派VS統一派”“外省人VS内省人”という構図で台湾情勢を解釈し、選挙次第では中国が軍事侵攻するという見方は書いてきたが、もはや古いフレームワークの分析であり、現実的ではない」と前置きしたうえで、台湾の現状をさまざまな観点から分析。既成政党への不信感で無党派層が増え、「鍵を握るのは『今日の香港は明日の台湾』と危機感を持つ政治参加に熱心な若者であり、台湾と香港は『一国二制度で共鳴している』」と持論を述べた。