「政民合同會議」2019年6月18日(火) 講師/呉軍華 日本総合研究所理事・主席研究員

2019年06月18日
  

  「対立から対決に向かう米中関係」                     

 米中関係は、世界が2つのブロックに分かれたような、かつての冷戦のような事態にはならないだろう。かつての米ソ間には核の抑制があり、少なくとも両国間には信頼関係があった。
 現在、米中通商協議は中断しており、両国は本音では可能な限り合意したいとしながらも、両国間には信頼がなく、双方にとって妥協の余地は極めて限定的だ。米国は民主主義国家であり、大統領の任期を考えると、中国は毛沢東式の持久戦で有利な情勢になるのを待つことも可能だ。
 中国経済全体に占める米国の割合は2割弱だが、貿易黒字に占める割合は7割近くに達する。対米貿易がなければ経常赤字になるのは必至。米国市場がなければ中国経済の今後の成長もおぼつかない。5月半ばに人民日報は9日連続で米国の中国製品への関税を強く批判した。このやり方は1950年代に中国が旧ソ連と決裂するときのやり方と同様で、中国側の米国への最終通告とみてよい。双方とも最悪のシナリオを想定しているのではないか。
 トランプの一連の政策を反グローバル化、保護主義、反自由貿易と批判する声が多いが、グローバル化が必ずしも善ではなく、 “グローバリゼーション”という言葉は冷戦崩壊を境に意味合いが変わったことを認識すべきだ。トランプ政権誕生、英国のEU離脱も反グローバル化の大きなうねりで起こったものだ。この変容を促した最大の要因が中国であった。
 冷戦時代の“グローバリゼーション”は先進国同士で同じ価値観をシェアしていたもので、当時も価値観の異なる東欧諸国はあったが、あくまで規模が小さかった。それが、冷戦が終わり、壁がなくなったことで価値観の異なる国々も参入する真のグローバリゼーションが起こったのだ。異質の価値観を持つ中国という大国が加わったことで問題が起こっても解決が難しくなった。文明の衝突――これこそが米中の衝突の本質ではないか。
 呉氏は、米国が対中政策を強硬化した経緯などについても詳細に解説。その後の質疑応答でも活発なやり取りが行われた。