「アジア會議」2018年6月28日(木) 講師/前嶋和弘 上智大学総合グロ-バル学部教授

2018年06月28日
  

「トランプ政権と今後の世界」

 既存の政治的常識をことごとく覆してきたトランプ政権が発足して1年半が過ぎた。トランプ大統領の決断は予測できないように見えて、北朝鮮との交渉や中国との貿易戦争など、いずれも「アメリカの正義」という文脈から見ると、その行動原理は、すべて選挙時の公約に沿っていることが分かる。国がかつてないほど政治的に分断されている現在、トランプ大統領が自分の立場を確かなものにするには本来の支持層をさらに取り込むしかない。

 史上初の米朝首脳会談において、共同声明は具体性に欠けるものではあったが、米国にとって東アジアの頭痛のタネを取り除いたという点では一定の評価を下していいのではないか。それに伴う米韓軍事演習中止の発表は、米国にとって経済制裁よりも切りやすい交渉カードであった。トランプ大統領が再選されるにせよ、北朝鮮の若き指導者は米国の核放棄要求をのらりくらりとかわし続け、長期的に地政学的リスクを低減させ、いずれは東アジアの冷戦構造も消えるだろう。在韓米軍縮小の流れで、東アジアのホットスポットは北朝鮮から尖閣諸島へと移っていく。

 米朝首脳会談で自信を深めたトランプ政権は、世界のハイテク産業の覇権を目指す中国に対し、貿易摩擦という名のハイテク産業の育成妨害を仕掛けている。

 トランプ大統領は、数々の力技でこれまで強引な政権運営を行ってきたが、厳格な権力分立を敷く米国の政治システムにおいては限界もある。公約に掲げたメキシコ間の国境の壁は議会の牽制により進展していない。中間選挙では、上院では共和党有利、下院では民主党が多数派になるとみられ、分割政府となって、政策は今後も進展しないだろう。

 2020年にトランプ再選、あるいは敵対する新たなリーダー出現の可能性も見据えつつ、わが国は貿易戦争と向き合わねばならない。

 前嶋氏は、米国内の世論調査やトランプ支持層の分析、米朝首脳会談で反対派の好反応も取り付けたトランプの巧みな政権運営、中間選挙の行方などについて詳細に分析。その後の質疑応答ではメディア関係者との活発なやりとりが行われた。