「アジア会議」2017年8月28日(月) 講師/黒井文太郎 軍事ジャーナリスト

2017年08月28日
  

     「トランプの安保政策、プーチンの情報戦、

   そして日本」

 トランプ大統領は、ツイッターを通じて自分の考えを深く考えずに発信する一方で、実のところ国際情勢にそれほど知識も関心もなく、簡単に意見を翻す。発言していながら実現していない事柄も多い。トランプ政権発足と時を同じくして北朝鮮問題が急浮上したが、米国内の世論はそれほど北朝鮮に危機感は持ってない印象だ。米国の北朝鮮攻撃の可能性、越えてはならない『レッドライン』は本当にあったのかは疑わしい。米国はあえて匂わせてはいるが明言はしておらず、レッドラインの存在には根拠がない。シリアと異なり周辺国に多大な被害をもたらすため、そう簡単には攻撃できないのが実情だ。北朝鮮にしても、核兵器は体制を守るための切り札に過ぎず、戦争は回避したいのが本音だ。斬首作戦が取り沙汰されているが、言葉自体のインパクトが強く、北への強力な圧力として、米国側もあえてリークしているが、実行には至らないのではないか。

 また、核実験に5回成功したと豪語する北朝鮮だが、その内容は明らかにされておらず、濃縮ウランの実験内容についても不明だ。すべて推測に過ぎないが水爆は成功に至っていないのではないか(注:その後、6回目の核実験を実行。爆発規模から水爆の可能性がある)。

 独裁政権である北朝鮮の最大の目的は体制の維持であり、そのためには国内では反乱を抑えること、対外的には外国から攻められないだけの戦力を持つ、すなわち抑止力を持つことが不可欠。そのために必要なのが核兵器の保持。米との直接交渉を模索しているとの声もあるが、交渉より核開発の機会を好機ととらえる北朝鮮は抑止力向上に邁進するだろう。米朝直接対話はあくまで憶測に過ぎない。中国にとっても北朝鮮は思い通りにならない厄介な存在だが、米との矢面に立つのを避けるためにも金正恩体制は維持したい。北朝鮮問題に関して日韓の影響力はほとんどない。圧倒的な軍事力を持つ米国と、経済を握る中国、それに北朝鮮の新たな後ろ盾になってきたロシア、この3か国だけが影響力があり、日本はそこではアメリカを支持するしかない。

 わが国が北の核ミサイルの脅威下にあることは間違いないが、金正恩体制の最後の瞬間、米国との戦争という事態にもならない限り、実際に北が核を発射する可能性は限りなく低い。

 このほか、黒井氏は、ロシアのサイバーテロ、情報工作の詳細についても言及。尖閣諸島については、「軍事衝突は起きないだろうが、中国が南沙諸島をなし崩し的に取っていたときと同様に、平時の陣取り合戦で中国が取ることになる」との悲観的な見方を示した。