「政民合同會議」2017年6月5日(月) 講師/黒田勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員

2017年06月05日
  

「革新政権下の韓国とどう付き合うか-対北宥和策へ転換か」

 

 これまで日本政府は韓国政府を刺激しない宥和策を取ってきたが、慰安婦問題では初めて対立姿勢を明確にしたことに韓国メディアも驚き、日本の主張の背景を詳細に解説するに至った。日本政府の決断には一定の効果があったと言えよう。

 崔順実スキャンダルで失脚した朴槿恵前大統領。韓国人が唯一心を許し、身を寄せ合うのが家族だが、歴代大統領はみんなこの“家族のワナ”で最後は傷ついている。朴前大統領は70年代に父母を相次いで非業の死で失い、その孤独な心の隙間に崔容疑者の一族が入り込み、崔一家は朴大統領にとっての疑似家族となっていた。親の七光で大統領になった朴槿恵大統領だが、最後はその七光に追い落とされた。家族の問題が色濃く政治に反映されるのが韓国だ。

 文在寅新大統領が韓国内で80%を超える高い支持率を誇るのは朴槿恵の反作用で短期的なものだろう。文在寅氏は気さくでオープンであることを殊更強調して大統領に選ばれた。文在寅氏は反日・親北・左翼であるというイメージが日本国内ではびこっているが、あくまで限定的評価に過ぎない。師匠である盧武鉉は左翼・反米だったが、“中道実用主義者”として米韓FTPを敢行するなど強いリーダーシップを発揮した。が、文氏は真面目で人の話を聞き過ぎるきらいがあり、周囲の学生運動上がりの親北勢力の意見に影響される危険性はある。文政権は対米関係を重視し、左翼イメージを払拭すべく、多様な人事を採り入れたいと考えている。慰安婦問題はあくまで日本側の要求に過ぎず、文政権にとって対日関係の順位度は低い。文政権ではまず、慰安婦合意を含む政権時代の再検証作業を優先的に行っていくことになるが、合意の見直しや破棄は当面の課題になっていない。

 黒田氏はこのほか慰安婦問題、朝鮮半島有事についても言及。「慰安婦問題に固執するのはNPOを中心とするいわば文政権の身内とも言える存在であり、対日関係を悪化させたくない文氏としては彼らの説得にあたる余地もある」と問題改善の可能性を示唆した。朝鮮半島有事の可能性については、米の単独行動はないのではないかとの見方を示した。