2月29日「アジア安保会議」講師/阿古 智子 東京大学大学院総合文化研究所教授

2024年02月29日
  

「中国共産党政権の行方と日本のあり方」

 中国の2023年の経済成長率は29年ぶりのマイナスとなり、GDPの世界シェアも減少。GDPの3割を占めるとされる不動産市場は回復どころか悪化しており、公表されている商業銀行の不良債権以外にも膨大な隠れ負債があるといわれている。地方政府の隠れ債務は66兆元規模あり、不動産不況により中国の銀行は約1兆2000億元の損失を被るとの試算も出ている。

 その中でも中国では共産党政権の維持が国家の安全につながるという国家安全戦略を強調しなくてはいけない状況がますます顕在化している。2000年代は新公民運動など市民団体の言論活動が活発に行われていたが、習近平政権下で言論統制が急速に進んだ。メディアは自由にものが言えなくなり、ジャーナリストは海外に活躍の場を移すことを与儀なくされたのをはじめ、オンラインゲームの制限、芸能人への規制強化など社会統制も顕著だ。2021年からは習近平の指導思想を学ぶ授業が小学校から高校まで必修化されるなど思想教育も強化され、SNS上での反体制的な言論は次々削除されるようになった。

 併せて経済格差是正と称して「共同富裕」を掲げ、アリババをはじめ中国を代表する巨大IT企業を独禁法違反などで次々に摘発しており、富裕層は戦々恐々としている。2015年に人権派弁護士が一斉拘束されるなど人権派弁護士への弾圧も厳しくなり、中国研究者も年々フィールドワークが難しくなっている現状だ。言論統制が続き、国民の不満が高まり続ければ、いずれ政府は受け止めきれなくなる。政府は市民が自由に表現できるよう長い目で対策を検討すべきだ。

 阿古教授は「一国二制度」に反して中国の法律で裁かれるようになった香港の現状、有事を恐れて言論活動が慎重になっている台湾、ウィグル問題の背景などについて解説した。また、日本在住の中華圏の人々が東京での講演会やイベントなどを通じて中国政府への問題提起が行われている状況について言及。「国民を豊かにする政策が行われておらず、若者が生きづらさを感じているのは日本も同じ」とも語った。その後の質疑応答でも活発なやり取りが行われた。