「政民合同會議」2018年9月12日(水) 講師/宮本雄二 元駐中国特命全権大使・宮本アジア研究所代表

2018年09月12日
  

「米中激突の行方」

 米中は確実に構造的対立関係に入った。地球を何度も破壊できるほどの巨大な核兵器が存在する現代において、核戦略は心理戦争の体を成しており、もはや大国間の戦争という事態は起こりえない。米中間の争いを覇権を賭けた先端技術争いとする指摘は正しく、既存の大国に新しい勢力が挑戦する図式であり、今後も中国の科学技術が進むことは間違いない。

 米中関係が読めない最大の理由は理念、価値観について全く語らないトランプ大統領にある。

 米国は、世界第二位の実力を持つ国家を世界における米国の地位を脅かそうとする最大のライバルとみなし、常にその国を封じ込めようとしてきた。かつての旧ソ連、日本然り、それが米国が引き起こす貿易戦争の本質だ。ニクソン政権時代から米国はずっと中国に対して寛大であり続け、米国の心変わりの本質、米国の怖さを中国は理解できていない。

 中国が方向性を変えない限り米中間の対立は続くだろう。中国には持久戦の覚悟があるが、果たして米国に中国と対峙する覚悟が備わっているのか。この時代にリーダーがトランプということが米国にとっての悲劇だ。

 中国では反腐敗運動や憲法改正、昨今の米中摩擦も相まって習近平集権への不信感も生まれている。米国とうまく交渉していることを国民にアピールできなければ習近平政権の存続は危うい。一方で、米国が中国を貿易で抑えつけようとする限り中国民の共産党への支持は続き、民主化に関心ある層が困惑していることも事実で、経済が失速すれば習近平政権への批判が強まり、政争になることは必至。

 米中の対立は世界にとっての不利益であり、両国の妥協点を探って落としどころを提案できるのは世界中で日本だけだ。

 宮本氏はこのほか、「米朝首脳会談の実現によって北朝鮮の実態を把握することができた」と米国のトランプ大統領に対して一定の評価を示しつつも、「価値観、理念を全く話さないトランプ政権では外交が成り立たない」と厳しく批判。北朝鮮の核兵器廃棄には、「米中の協力なしには不可能」とし、日本の外交の出番の必要性を強調した。