「政民東京會議」2022年3月9日 講師/高市 早苗 自由民主党・政調会長・衆議院議員

2022年03月09日
  

「日本を守る、未来を拓く」

 

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まったが、日本が取るべきは効果的な経済制裁だ。 国際的決済網“SWIFT”からのロシアの銀行の締め出し、中国銀行との取引停止は効果的な経済制裁であった。

日本国憲法で海外居住の自由は保障されているため、日本政府として退去命令はできないが、現地に滞在する邦人保護、ウクライナ人の日本での受け入れも検討していかなくてはならない。ウクライナの隣国ポーランドは財政的にも厳しいなか、避難してきた多くのウクライナ人を受け入れている。こうしたポーランドへの支援も日本政府として考えていく必要がある。岸田政権が防弾チョッキやヘルメット、医薬品などの自衛隊備品をウクライナに提供することを決断したことは評価したい。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、世界中でサイバー攻撃が増加している。わが国も例外ではない。国民生活、社会経済活動の基盤として欠かせない鉄道、電力、ガス、石油、水道、地方公共団体を含む政府・行政サービスなどの分野は重要インフラとして特定。政府と連携して対策強化しているが、タクシーやバスをはじめとする公共交通機関や製造業なども国民挙げてサイバー攻撃への意識を高めていかねばならない。

エネルギー、食糧、安全保障に向けた技術開発、設備投資も不可欠だ。危機管理であり、未来への成長投資でもある。ウクライナ危機で小麦などの価格高騰が危惧されるなか、国産の小麦粉を耕作放棄地を活用してつくる、屋内栽培の活用など、将来的な気候変動にも対応できるよう検討していく必要がある。うまく育てば成長産業となる可能性も高い。

国連改革も進めていかねばならないだろう。今回のロシア非難決議に対してインド、UAEは棄権した。これは米国の国連での存在感の低下も大きい。国連至上主義を唱える日本人は多いが、国連は決して万能ではなく限界もあることを理解したうえで、日米の同盟関係は守り抜き、有志国との連携を深めることがより重要になっている。

今日のロシアのウクライナ侵攻の教訓は、侵略を受けている国が本気にならなければ他国は助けてくれないといことだ。ウクライナ軍が必死に抵抗する姿を見て各国の態度が変わった。米国はアフガンから徹底したが、今回は具体的な措置を発動した。ドイツをはじめとする多くの国が武器の提供を決め、中立のスイスがEUの経済制裁に乗った。多くの民間企業がロシアから撤退している。日本のエネルギー市場は、ロシアとの直接取引は、石炭11%、ガス8.8%、原油3.6%程度に過ぎないが、調達先の多様化とエネルギー自給率を高めることは課題だ。

ロシアと中国の共通点は、巨大な権力を持った指導者が長く君臨し、力による現状変更を繰り返している点にある。国連で拒否権を持ち、核保有国でもある。自由、民主主義、法の支配、人権といった価値観を自由主義世界と共有していないところも同じだ。指導者の一声、大統領の署名ひとつですべてが動く。法律一つ通すにも膨大なプロセスを要するわが国とは何たる違いか。

中国、ロシア、北朝鮮といった核保有国に囲まれているわが国は、日米同盟に過度に頼り切るのは危険だ。中国は西大西洋に限定すれば、いまや米軍を上回る圧倒的な軍事力を持っている。万が一のときは日本だけで日本を守り抜ける体制を確立しなければならない。台湾有事も見据えた日米の共同訓練など、最悪の事態も考えておくべきだろう。安倍元首相の唱える“核シェアリング”は核兵器そのものを共有するのではなく、核による抑止に向けた政治的な意思決定をシェアするという意味であり、少なくとも非核三原則の“持ち込ませず”に関しては議論していく必要があるのではないか。