「政民合同會議」5月10日 講師/田中 均 元外務審議官・日本総合研究所国際戦略研究所理事長

2021年05月10日
  

「中国情勢と米中・日中関係の行方」

 中国共産党は強権、愛国主義、経済成長の3つの柱で統治を推し進め、習近平政権下で強権的手法をさらに加速させている。監視社会の実現、共産党統治を正当化するための新疆ウイグル自治区のウイグル族や香港の民主活動家らに対しての人権侵害もその一環だ。新型コロナウィルス対策では強権を活かして徹底したPCR検査の実施と隔離によって世界でいち早く経済回復を果たしたが、国民を満足させるため、年率6%以上の成長目標は不可欠。成長が鈍化すれば、さらに強権を発動することになるだろう。

 習近平の後継者と目される人物はいまだおらず、習近平が3期目以降も続投する可能性は極めて高い。国内の権力闘争となりうる要因としては、習近平が掲げる国家資本主義に対し、李克強が掲げる民間企業の拡充という経済成長の手法の摩擦が挙げられる。アリババのような巨大IT企業を国家が抑えつけることは中国の経済成長にブレーキをかける可能性もある。人民解放軍、新疆ウイグルや台湾問題も権力闘争の種になりえる。強権、愛国主義、経済成長の3つの要素が順調に推移すれば中国の体制は堅固だが、強権、愛国主義が行き過ぎ、経済成長が鈍化すれば節目は大きく変わる。

  米国はバイデン政権下で巨額の財政出動によってコロナからの経済回復を目指し、対中政策を緩めることはない。米中対策を第二の冷戦とする向きもあるが、両国の相互依存は極めて大きく、台湾を巡って戦争も起こりうる現状を考えればまるで異なる。理念の異なる米中は、“自由資本主義VS国家資本主義”という形で経済的な競争、覇権争いが続き、軍事、経済成長の源泉となるハイテク分野で両国のデカップリングは続くだろう。

  田中氏は、米国の気候変動問題、人種差別への取り組み、中国の一帯一路やワクチン外交、香港問題についても詳細に解説。「日本は米中間で戦争が起きれば巻き込まれざるを得ない。米国との同盟関係がなければ中国には立ち向かえないが、米国に従うだけでは国益を担保できない。中国に依存している事実を認めつつ、国益のために狡猾に立ち回るべき」「中国を巻き込んで中国をルールに従わせる試みを追求する構想力が必要」などと述べた。