「政民合同會議」2020年9月1日 講師/田中 均 元外務審議官・日本総合研究所国際戦略研究所理事長

2020年09月01日
  
「中国情勢と日本に求められる対中姿勢とは」
 
      台頭する大国と既存の大国は衝突してきたのが歴史的事実だ。現在の米中対立を第二の冷戦とする向きもあるが、当時米ソには核の均衡があり、大きな経済交流はなかったのに対し、現在の米中対立とではまるで状況が異なる。1980年代に日米間に激しい経済摩擦が起こったが、日米は同盟関係にあり、イデオロギーの対立はなく、交渉による解決が図られた。2010年に中国はGDPで日本を追い抜き、今後40年間は大きく台頭していく歴史の大きな流れは変えられない。米中両国は相互依存関係の大きさにかんがみ関係のマネジメントを行うだろうが、中国がいう核心的利益である南シナ海、台湾海峡、尖閣諸島で限定的な軍事衝突が起る可能性までも否定されるわけではない。
 日本としては、米中の対立は何としても避けたい。そのためには日米同盟が強いことが必要だ。中国に覇権は取られたくないが、同時に貿易相手国としては必要不可欠な国でもある。新政権もこの点を踏まえた政策の検討が求められる。
習近平政権は新型コロナウイルスの初動を間違えたことによって惨禍をもたらしたが、徹底的な検査、隔離によっていち早くコロナを克服し、米国が第2四半期のGDP成長率で米国が前期比マイナス20%になったのに対し、中国は世界で唯一のプラス成長を果たした。習近平政権はコロナを活用し、マスク外交などを通じて国際的な影響力を拡大し、香港問題でもコロナでデモが収束していった時期を捉えて電光石火で国家安全維持法を押し付けることに成功した。他方、中国は米大統領選挙後を見据え、当面は大きな動きは起こさず、情勢を見極めようとするのではないか。
 田中氏は、大局的に米中関係について解説。米大統領選についてはトランプが負ける可能性が大きいとし、「バイデンが勝った場合には、多国間協力主義を元に戻し、同盟関係も重視していくだろうが、米中対立の基本構造は変わらない」との見方を示した。わが国の新政権に対しては、「米中対立を避け、中国の覇権を防ぎ、貿易相手国として重視し、ルールに従う国に導くという対中外交の本来の目的を達成しなければならない」と提言した。