「政民合同會議」2020年6月5日 講 師/柯 隆 東京財団政策研究所主席研究員

2020年06月05日
  

「ポストコロナ危機の世界経済と日中関係の新動向」

 新型コロナウィルス以前に、中国では1900年初頭から抗生物質が発見されるまでに猩紅熱、ペスト、天然痘などが2,3年おきに流行していた。その後、毛沢東により中国は暗黒の27年間に突入し、それまでの長い年月の間に受け継がれた伝統や道徳はすべて壊されてしまう。文革時代の犠牲者の数は4千万~7千万に及ぶといわれるが、いまだに正確な実態はわからないままだ。
1989年以降、中国経済は発展していったが、拝金主義に走り、文化、伝統は寸断されたままで、サステナブルとは言い難い。1994年に中国の金融が市場経済化の道を歩み始め、不動産開発もスタート。1997年に香港が返還されたが、いまや本土との情報の交差点だった役割を失い、金融センターとしての求心力を失いつつある。言語、習慣から東京が香港に取って代わる可能性は低く、その役割はシンガポールに受け継がれることになるだろう。2000年代以降、アリババなどIT企業が台頭したが、この数年は経済成長が鈍化し、政権中枢筋からはこの5年以内に中国リスクが起こる可能性も聞こえてくる。
 中国の現在の失業率は6%としているが、出稼ぎの農民工も含めれば20%に達しているとみられる。経済成長はマイナス6.8%の見通しで、一帯一路で進めていた他国への援助もコロナ渦で「公債」(中央政府、地方政府、国有銀行と国有企業の債務の合計)はGDPの3倍に及びその一部が返済されない恐れもある。
 李克強首相は14億のうち6億人の毎月の可処分所得が1000元未満(1万5000円)であることを明らかにした。その一部は貧困層である。最も重要な貿易相手である米国との関係も悪化の一途で、国際戦略の根本を間違えている。習近平政権はいつ何が起こってもおかしくない。
 柯氏は、質疑応答で中国のハードランディングの具体性について質問が及ぶと、背景にある失業率の悪化に加え、穀物の輸入国でもある中国の食糧備蓄事情、不動産バブルの崩壊の実態などについて詳細に解説。中国社会の見方として、「公式メディアはプロパガンダだが、いまの中国社会はプロパガンダ通りには動いていない。中国社会を捉えるのに重要なのは常識的な感覚だ」と私見を述べた。