「政民合同會議」2020年10月7日 講師/石破 茂 自民党元幹事長

2020年10月07日
  
「コロナ時代の政治の責任」
 

 新型コロナウィルスを「百年に一度の危機」と指摘する声もあるが、「百年に一度」という言葉は安易に使うべきではない。百年前とは、第一次世界大戦が起こり、スペイン風邪の蔓延で当時の1憶人が死亡し、世界恐慌を経て第二次世界大戦に突入した時代であって、それと同列に語るべきではない。まずは『戦後』が終わり、民主主義の在り方が大きく変容した平成の総括が不可欠であろう。

 21世紀は世界の人口が倍増する一方で日本の人口が半減する時代となることを認識しておかなければ、これからの持続可能な社会は構築できない。食糧をつくらず、出生率が全国最低の東京にヒト・モノ・カネが集中することは、コロナ禍を経てもはや大きなリスクであり、それを分散すべく、地方分権、中央集権を融合して独自の文化を築いた江戸時代の事例も参考にしながら、新たな持続可能な国家モデルを模索すべきだ。テレワークをきっかけに地方にオフィスを移した企業もあらわれている。この国をインデペンデントで持続可能な国にするために、コロナ禍も、真に在るべき姿を問う機会と考えるべきであろう。

 石破氏は、新聞の購読者数が近年大幅に減少し、気に入った情報だけにアクセスするインターネットでの情報収集が増えている現状を憂い、「自分とは反対の立場の主張も理解する姿勢も必要」と主張。「健全な言論空間がなければ民主主義は成り立たず、政治家は少数意見の声を尊重し、どのメディアにもできる限り公平に接するべきだ。投票を放棄することは特定のイデオロギー集団の社会を作ることになる。白票で意思表示をすることもできる。健全な民主主義の構築のために投票を義務制にすることも考えてはどうか」と持論を述べるとともに、自らの主張とは正反対の論調の媒体にもできるだけ目を通し、相手の主張も理解したうえで国会答弁に臨んでいたことについても語った。また、わが国の医療、介護の生産性の低さ、生涯未婚率の上昇について言及し、背景には北欧諸国などと比較して男性の家事・育児参加率の低さ、それにより、女性に労働、家事、育児、介護の4重の負担がかかっていることに触れ、進む少子化に危機感を示した。このほか、憲法に明記されていなくても国民のために被災地訪問や巡礼を続ける皇室の姿勢に言及し、皇室への敬意を表明。安全保障に関しては、「自衛隊法第52条に『事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め』とあるが、『危険を顧みず』という文言が服務の宣誓に入るのは公務員の中でも自衛隊員だけ」として、多くの政治家が自衛隊についての理解が浅いことについても強い危機感を示した。また、「情報とロジスティクスを軽視するのは日本の悪い癖」として、諸外国に比べて世界に大きく遅れをとっている日本のインテリジェンスの現状、課題についても細かに解説した。

 その後の質疑応答でも活発なやりとりが行われた。まず、21世紀の日本の在り方について具体的に質問が及ぶと、地方の現状について触れ、「やりっぱなしの行政、頼りっぱなしの民間、無関心な市民では発展はできない、むしろ『地方任せ』といえるほど地方主体にすべき」と述べ、首長を市民が選ぶ地方に対し、総理大臣を国民が選ぶことができない日本の現状を指摘するとともに、公共事業に依存してきた地方経済に喝を入れた。また、8割が森林であり、排他的経済水域が世界4位であるといった日本の大きな可能性に言及し、「こうした潜在的能力をポジティブに捉え、自国の資源を活用し、“少量・多品種・高付加価値”の新たなビジネスモデルを模索すべき」と提言した。先の総裁選について質問が及ぶと、「この質問はこの2日で3回目、総裁選後から20数回目」と自虐的にユーモアを交えながら、「閣僚、総理になることは手段であって目的ではない、自民党は常に国民に対して説明責任を負っており、何が次世代の国家に必要かを語らねばならない、時代が必要とするときに逃げてはいけないと思っている」として自身の政治家としての信念について力強く語った。