「政民合同會議」11月9日(火) 講師/田中 均 元外務審議官・日本総合研究所国際戦略研究所理事長

2021年11月09日
  

「世界の変動と日本」

 米中の対立は、米ソ冷戦とは本質的に異なり、<対立><競争><共存><協力>の4つの側面を持った複雑な関係にあることを理解すべきだ。まず、米中間で軍事、安全保障面での<対立>が強まることは明白で、米の同盟国であるわが国も中国との対立は強まっていくだろう。

 香港、新疆ウイグル自治区の中国化を、専制体制と自由民主主義体制の対立と捉える向きもあるが、どちらの体制が優れているか、<競争>の側面もある。世界で自由民主主義体制を敷く国は多くはなく、米国内では政治の分断が進み、1%の富裕層が30%の資産を有し、人種問題もある。米国の体制が100%善で中国の体制は100%悪という割り切りができるものではない。日本を含め、各国が統治体制を改善していく必要がある。

 米ソ冷戦時代と大きく異なるのはグローバリゼーションで、グローバリゼーションが作ったのは相互依存関係だ。米国はインフレで供給力不足に陥り、中国からの輸入頼みで、国内の雇用維持のためには農産物の中国への輸出が不可欠。外需頼みのわが国も対中経済は無視できず、経済面においては、中国との<共存>が前提となる。気候変動、テロ、大量破壊兵器の拡散などグローバライズされた課題には、体制にかかわらずグローバルな<協力>がなければ解決しない。

 田中氏は、「外交は国際情勢の明確な展望を持ったうえで戦略を組み立てていくことが重要であり、日本にとって米中の対立を抜きに戦略を立てることはできない」とし、4つの側面から米中関係についてきめ細かく分析。台湾有事の可能性について、「中国のプライオリティが共産党の統治強化と結党100周年に向けた経済成長にある現状では、その可能性は少ない。米国は「あいまい戦略」で台湾の独立に向けた動きや中国の軍事行動をけん制する。一旦有事になれば日本が台湾有事に巻き込まれることは必至で、「あらかじめ、その際は米国に協力することを明言すべき」との持論を述べた。また、「日本は米中と深い関係を持ち、強い影響力を持つ数少ない国として、米中対立緩和に向けて果たせる役割は大きい」とし、「TPPは日本がきわめて戦略的な外交ができる大きなチャンスと捉えるべきで、中国のTPP加入を安全保障面だけで反対するのは早計」と語った。そのほか、北朝鮮問題や日韓関係、対中抑止力としてのオーカス、クアッドの背景についても詳細に解説した。