「アジア安保会議」2022年8月23日 講師/杉山 晋輔 元外務事務次官・前駐米大使・外務省顧問

2022年08月23日
  

「ウクライナ情勢、中国と日米同盟」

 ウクライナ問題は2014年にロシアのプーチン大統領がクリミア半島の併合を一方的に宣言したところから始まる。遡ること1945年2月にワシントン郊外のダンバートン・オークスでチャーチル、ルーズベルト、スターリン間で話し合われた国連憲章の草案作成時、拒否権を持てないなら加盟しないというスターリンに、米英が妥協したところから今日のウクライナ問題のような状況は予見できた。ソ連(当時)が加盟しないのなら、国連は普遍的な安全保障のシステムとして意味をなさないため、米英も妥協せざるを得なかった。その後、旧ソ連に対抗するために1949年に設立されたNATO(北大西洋条約機構)は、加盟国が設立当時の12カ国から冷戦終結後には16カ国となり、現在30カ国に拡大している。東欧諸国が旧ソ連のくびきから逃れたいと加入を希望したのだが、こうしたNATOの東方拡大の動きと、隣国ウクライナに誕生したゼレンスキー政権が西欧志向を目指したことを安全保障上の脅威と見なしたプーチンがウクライナへの軍事侵略を決めた。国連憲章違反は明らかだが、戦争は続き、国連の安保理事会は機能していない。トルコのエルドアン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領、国連のグテーレス事務総長との三者会談等は行われているが、早期の停戦合意には至らないだろう。

 岸田首相は台湾有事を想定して「ウクライナ問題を対岸の家事ではない」と称したが、米国の最大の関心事はいまでは対中政策に移っており、最も頼りになる同盟国は日本であると明言している。こうした問題が広く国民の間で議論されるべきだ。

 第二次安倍内閣で外務事務次官を務めた杉山氏。今日のウクライナ問題が起こった背景を詳細に解説するとともに、2014年のロシアのクリミア併合後に行われたG7・ブリュッセルサミットの席上でG7の団結を再確認させた故安倍元首相の鮮やかな手腕についても解説。このほか、米国議会、知事選挙、大統領選挙の仕組みにも触れ、トランプ前大統領を「格差が広がり過ぎた米国がトランプのような人を必要とした結果であった」と分析。中間選挙については「今は共和党が有利と言われているが、勝敗はまだわからない」と語った。質疑応答で中国との今後の付き合い方について質問が及ぶと、「国益のために対中貿易は欠かせず、習近平に日本から協力する姿勢を見せるのも一考」と述べた。