「アジア会議」7月28日 講師/細谷 雄一 慶應義塾大学法学部教授

2021年07月28日
  

「自由で開かれたインド太平洋」

 「自由で開かれたインド太平洋」(Free and Open Indo-Pacific;FOIP)構想は、いまや日米同盟をはじめ、クワッド、G7でも使われるようになった。明治以降の日本外交で、日本が提示した国際秩序のビジョンがこれほどまでに世界で広く浸透し、支持を得たことはなかった。

 「自由で開かれたインド太平洋」構想は安倍前首相が提唱したもので、当初は「自由で開かれたインド太平洋」戦略とされていたが、様々な意図が含まれていることからあえて解釈の余地を残したあいまいな「構想」という言葉で表現するようになった。このFOIPは、第一次安倍政権末期の2007年8月に訪問中のインドにおける演説をその起源とするが、第二次安倍政権で、中韓で少子化が急速に進むなか太平洋とインド洋において「自由」と「繁栄」を実現するために、この地域で新しい経済成長のダイナミズムをつくることを目標とした構想である。中国が「一帯一路」構想でユーラシア大陸からアフリカ大陸にかけての広い地域で影響力を拡大していることを背景に、そのオルターナティブとして日本が外交イニシアティブを示す狙いがあった。インド太平洋地域を「国際公共財」として、そこにおける法の支配を確立し、自由で開かれた海洋秩序を形成することがその重要な目的である。いわば日本が世界の道しるべとなって世界に新しいビジョンを示し、また経済成長を持続させるための、安倍政権の決意表明でもあった。アジアに根づきつつある民主主義や法の支配、そして市場経済など、「自由」をその基調としており、一方で中国「封じ込め」との批判もあるが、それは必ずしも軍事戦略ではない。

 紆余曲折はありつつも、菅政権でもその外交路線は継承された。だが、米中対立が深刻化するなかで、このような対米戦略と対中戦略を整合させることは今後よりいっそう難しくなるだろう。FOIP構想をいかに修正しながら戦略をつくっていくか、日本政府の真価が問われる。

 細谷教授は、FOIPの変遷、それを確立するための三つの柱、そして米国のそれへの明確な支持などについて詳細に解説。そのほか、定着しなかった第一次安倍政権下の外交の新機軸「自由と繁栄の孤」や、日本、アメリカのハワイ、オーストラリア、インドの四つの民主主義を結びつける外交ビジョン、「安全保障のダイヤモンド」構想を紹介し、日本の外交の一貫性の欠如を批判するとともに、世界で日本がリーダーシップを発揮できる可能性について語った。