「アジア会議」5月21日 講師/川島 真 東京大学大学院総合文化研究科教授

2021年05月21日
  

「米中対立と日米関係ー中国の視線」

 日本では日米関係が軸にあるため、米中対立が顕著に見えるが、世界全体で見ればそう見えていない地域もある。経済発展しても民主化しない国は世界で増加しており、権威主義体制をとる新興国が優勢だとの見方もあるが、新興国といっても多様性があるので一概には言えない。そもそも“新興国”というのも先進国が自分たちとは異質の存在と下に見ているから出てくる表現なので、妥当な括り方かどうか疑問が残る。

 世界中で対中感情は悪化しているが、中国が最大の貿易相手国という国は増え続けている。一帯一路に債務の罠が潜んでいることはわかっていても途上国にとって中国の援助は喉から手が出るほどほしい。中国は西側の秩序には反対の立場を示しながらも、国連を重視する姿勢を従来以上に明確にし、国連憲章を実現するなどという「正義」を掲げながら、新型国際関係の実現などと言って中国の国益を求める行動を推し進めていくだろう。

 中国は2030年代以降、人口減少、高齢化が急速に進み、社会保障の負担が大きく増し、高度な経済成長を維持することが難しくなることは必至。単純な少子化対策は難しく、持続可能な経済発展のために産業の省人化、無人化は急務であり、そのためにも5Gなどの情報通信面のインフラ整備や先端産業のイノベーション継続は不可欠だ。一方、情報通信面での技術革新に伴って中国共産党は社会の管理体制も強化している。だが、アリババやファーウェイのような民間企業を「活力のある」民間として残しつつ、いかにそのイノベーション能力を維持させながら、民間企業への管理を強化するかが課題となる。

 中国は2030年前後にGDPで米国を追い抜く時期もあるが、移民の流入で高齢化の悩みのない米国に長期的には再び追い抜かれるだろう。中国は経済では米国を追い抜いたとしても軍事、安全保障面では簡単に米国に勝てないからこそ2049年という目標を設定した。中国が少子高齢化問題に直面するまでのこの10年が米中両国にとっての最初の勝負だ。

 川島氏は、台湾有事の可能性について、今年7月の共産党創立100周年に始まり、2023年までは中国の政治イベントが目白押しで、習近平へと政治的成果を集約することになるが、逆に失敗してはならない面もあり、台湾侵攻のような思い切った行動には出ないのではないかと予想。台湾社会への浸透工作など、中国の台湾奪還のシナリオについても言及した。米中が先端分野でデカップリングするなかで、日本が取る行動として、「日本と同じように米中対立に影響を受ける国々と、多国間で連携できるのではないか」との見方を示した。このほか、強硬な対中政策を打ち出している米国バイデン政権下でも、「米国は、これまでも表面上は中国と対立していても水面下で巧妙な動きをすることがあった。バイデン政権は、トランプ政権と異なり、中国を“敵”ではなく“競争者”と表現するなどしている。米中関係を注意深く見ていくことが必要」と語った。