「アジア会議」2020年12月21日 講師/野嶋 剛 ジャーナリスト、大東文化大学特任教授、朝日新聞元台北支局長

2020年12月21日
  

「中国の武力行使はあるのか?緊迫する台湾情勢と米国・日本の新政権」

 

 台湾の蔡英文政権は、新型コロナ対策の成功で支持率を大きく上昇させた。米国産豚肉輸入解禁によって支持率はやや下降したものの、なお支持が不支持を上回り、安定した状態にある。一方、米国は台湾に対して、過去にない支援を見せており、高官の相次ぐ台湾訪問、続けざまの武器売却など、米台同盟の「復活」を思わせるような接近ぶりである。これに対して、中国は強硬手段によって台湾にプレッシャーをかけ続けている。台湾海峡の間に引かれた「中間線」は戦後半世紀以上にわたって中台の衝突を避ける一種の紳士協定として作用してきたが、中国軍機が編隊を組んで中間線を超えて台湾に接近するケースは2020年後半から急激に増え、2020年末までに50回に達している。その狙いは主に二つあり、一つは台湾で首都機能を担っている台北への攻撃能力を示して台湾政界の中枢に「警告」を与えること、それから南シナ海で台湾が実効支配する東沙諸島の占領作戦をいつでも発動できるというメッセージを伝えることだ。東沙諸島を中国が占領した場合、台湾空軍による奪還作戦の支援を阻止することが中国にとって重要になり、その空路を塞ぐための航空作戦の演習を中国は実施している可能性が高い。東沙諸島への中国の占領行動が起きる可能性は2020年に急浮上したが、中国の習近平三選が近くなか、2021年もなお注視が必要だ。2020年に激化した米中対立のなかで、もっとも大きなインパクトを受けた地域の一つがこの台湾海峡であった。日本でも米国でも指導者交代が行われたあとの2021年には、さらに中台関係が複雑化し、台湾海峡の緊張が高まる可能性もある。台湾海峡と隣接する尖閣諸島問題を抱える日本は台湾問題へのアンテナを一層しっかりと張り続ける必要があると同時に、中国に対して台湾への冒険的行動を控えるよう呼びかけ続けていくべきである。