「政民合同會議」2020年11月9日 講師/岸田 文雄 自民党前政調会長・元外務大臣

2020年11月09日
  

    「経済と外交について」

 米国では南北戦争以来の国の分断を招いたともいわれる先の大統領選でバイデン氏が勝利宣言を行った。トランプ氏が負けを認めず法廷闘争に持ち込めば、米国内が混乱に陥ることは必至だが、米国の政治空白は国際社会・経済・安全保障の空白にもつながりかねない。新大統領の下で、これまで対立関係にあった米中が環境・エネルギー面で協力する場面もあろうが、人権問題では厳しいとされるバイデン氏がどう出るかは未知数だ。しかし、わが国はそのなかで国際関係を安定すべく努力していくしかない。日米関係においても、同盟国に厳しい負担を強いたトランプ政権に対し、来年4月以降の米軍の駐留経費の議論は必須であり、TPPについてもバイデン政権下においては再び議論の余地が出てくるだろう。

菅新政権は発足以降、規制改革、行政改革、携帯料金の値下げと具体的な政策を矢継ぎ早に打ち出したことで高い支持率を保っているが、政策はあくまで手段に過ぎず、外交、地方創生など様々な課題が山積するなか、政策の先にどういう社会を目指すのか国民に示すことも重要だ。

いま、資本主義の在り方が日本のみならず世界で議論されているが、日本の目指す資本主義は、国家や大企業が資本や情報を独占する強者のための資本主義であってはならない。利益や効率だけが企業の物差しではない。環境、社会貢献といった観点から持続可能な社会への貢献を考慮し、中小企業や地方経済にも配慮し、経済成長の果実を適正に分配する国民のための資本主義でなければならない。たとえば、デジタル化一つとっても、5G、ドローン、自動運転などを活用し、地方在住の高齢者の移動手段の確保やリモート診療、遠隔教育を充実させることができる可能性が高い。

デジタルを活用して中小企業が自ら海外市場とつながるのが理想ではあるが、単に国がデジタル化を推進するだけではついていけない企業も出てくることは必至で、観光や外食など、対面が不可欠で、デジタル化を進めるには限界がある分野も存在する。そうした格差も考慮しながら国民のためのデジタル化推進を目指さなくてはならないだろう。

7年8カ月続いた安倍政権下で、わが国の外交は大きく進展した。安倍政権以前には毎年のように首相、外相が変わっていたのに対し、安倍政権によって国際社会における日本の発言力、存在感が高まったことは間違いない。普天間基地移設問題で「最低でも県外」の発言で混乱に陥っていた日米関係を日米ガイドライン見直し、オバマ前大統領の広島訪問、安倍前首相の真珠湾訪問によって戦後最高といわれるまでの強固な関係を築いた。また、日中関係においても、尖閣諸島の国営化を機に両国間の深刻な対立を招き、外相会談すらできなかった状態から首脳会談の再開にまで漕ぎつけ、安定化することができた。安倍外交の継承を掲げる菅政権だが、すんなり継承できるほど国際社会は甘くはない。

日本にとって外交、安全保障の基軸は日米関係であることに変わりはないが、隣国である中国との対話も持続せねばならない。南シナ海、東シナ海で主張すべきことは主張しつつ、ときには米中の仲介をすべき場面もあるだろう。

新型コロナウィルスを機に国際社会では保護主義、自国第一主義が高まり、分断が進むなか、島国で人口減のわが国が国際社会で生き抜くためには環境、エネルギーなど地球規模の課題で存在感を示すチャンスがあり、それこそが国益にもつながる。

3次補正予算に着手した菅政権だが楽観は許されない。コロナ対策として世界最大規模の経済対策をとるわが国だが、ワクチンができるのか、またそれを適正に分配できるのか。コロナ禍で多くの企業が賞与減となり、消費の落ち込みが予想され、多くの地方の老舗企業も廃業の危機にある。戦後最大とされるこの国難を乗り越えるためには国民の理解、協力が不可欠であり、そのためには政治は信頼回復に努めなければならない。