木曜コラム

山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     古代ギリシャの教訓に学ぶ 欲望民主主義の末路①

時局心話會 代表 山本 善心 VS 勝田吉太郎
1990(平成2)年6月10日 月刊「心話」より

〔対談前の解説〕山本善心

かつて、弊社発行の月刊「心話」では「欲望民主主義の運命 -古代ギリシャの教訓に学ぶ-」を掲載した。これは京都大学の法学部教授をされていた勝田吉太郎氏(京都大学名誉教授、鈴鹿国際大学名誉学長)の持論の一部を掲載したものである。20年以上経ったが、今日のわが国の状況を言い当てている。

当時のギリシャは人類史上初めての民主主義国家であったが、政治家が選挙で当選するために国民に迎合するポピュラリズム政策はここから始まった。かつて亡国への道を辿る古代ギリシャは、現在の日本の姿と重なる。
古代ギリシャ帝国の末期は社会保障のみならず、市民の費用負担まで、国家が持つようになったので、財政赤字が増大した。それゆえ、財政赤字の負担を増税で賄い、軍事予算まで削ったのである。一方、ギリシャの隣国マケドニアは軍備増強を行い、欲望民主主義に明け暮れるギリシャ市民を威嚇し続けた。

ギリシャ市民は隣国からの軍事的脅威には目もくれず、「反戦」「平和」を掲げ、自国を守ることをせず、市民は欲望に明け暮れる始末であった。紀元前338年、ついに軍事大国マケドニアは大軍をギリシャに向けて動員し、戦いの火ぶたは切られたのである。

これは現在のわが国の置かれている立場と全く同じ状況である。戦後、一部の平和主義者による「反戦」「反核」「一国平和主義」はわが国の政治的スローガンであったが、これは日本国を弱体化する政治的目的であり、非現実的なスローガンであると国民の大勢が本音で認識している。

中国や北朝鮮は核を保有し、着々と軍事大国化への道を突き進んでいる。彼らの軍事的目標は日本であり、日本の領土と人民を支配することに他ならない。にも拘わらず、そんな隣国の軍事目標に加担する「反日」日本人が大量に生み出されている。彼らは隣国と共謀してわが国を共産化し、日本支配を狙っているとの声が国民レベルでささやかれ始めた。

古代ギリシャ、アテネの自由と民主主義の崩壊の経緯は、わが国の現状とあまりにも酷似している。戦後わが国の政治と権力は「平和外交と事なかれ主義」を選択してきた。

16日に控えた次なるわが国の選挙の一つの争点は「原発ゼロ」である。これは東日本大震災の教訓であり、被災地住民の願いであると喧伝して止まない。「脱原発」を旗印とする勢力が結束を図れば、強力な政治勢力になる。これを選挙の争点にすれば、票になると判断した勢力がここにきて突如登場した。

滋賀県の嘉田由紀子知事は11月26日、卒原発を掲げた新党「日本未来の党」を立ち上げた。呼び掛け人は音楽家の坂本龍一、俳優の菅原文太、代表代行には環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長らである。この「日本未来の会」には「国民の生活が第一」「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」などが加わる。

わが国の次なる総選挙に向けて第三極が真っ二つに割れた。一つは右派と言われる「日本維新の会」であり、もう一つは左翼勢力の結集といわれる「日本未来の党」だ。ようやくわが国政治は時代変化の波に応えて大きく動き出したようだ。ギリシャの末期に見る民主主義の崩壊に学び、わが国の欲望民主主義の末路はどうなるのか再考したい。これは22年前勝田吉太郎氏との対談をそのまま掲載する。

特別対談

「欲望民主主義の運命」 ~古代ギリシャに学ぶ

なぜ民主主義は、野垂れ死にしたか?

山本:最近の日本の政治・社会状況は、先生からご覧になるといかがでしょうか。

勝田:このごろは「もっと民主主義を、もっと民主主義的に」ということばかり言われていますね。民主主義は錦の御旗で、これにケチをつけようものなら、大変なことになるんです。だから、公の席上ではみんな民主主義者です。しかし、われわれの持っている体制や価値というのは、単なる民主主義ではないのであって、民主主義、つまり、自由主義的民主主義です。それが、どうも忘れられてしまって、「民主主義、民主主義」で、今では共産党も自民党以上に民主主義を大声で叫んでいます。

山本:ご指摘のように、ふつう私たちは民主主義を金科玉条としていますが、逆にそれに対して鈍感になっているということですか。それでは、もう一度民主主義を見直していく必要があります。ギリシャが没落したポイントはどのあたりにあるのでしょうか?

勝田:民主主義の故郷は、無論のこと、古代ギリシャ、アテネですね。古代の民主主義がどういう格好で没落していったか、ということは、意外に勉強されていないんです。日本では、ギリシャ哲学を勉強する人はいますが、なぜギリシャ民主主義が野垂れ死にしていったか知られていないんです。

民衆迎合の罪 衆愚政治が始まる

山本:原因はどこにあったのでしょうか?

勝田:一番の根本を申しますと、こういうことなんです。
ご承知のように、古代のギリシャの民主主義は直接民主制です。もともとは自由人、当時の市民が国政に参与していた。無論、奴隷制社会ですから、恵まれた市民層が直接民主制を行ってきた。ところが、だんだん時がたってきますと、一口に自由人だ、市民だ、といっても、貧しい連中も多くなってきます。たとえば、ソクラテスという哲学者、あの人は石工だといわれています。結構トンチン、カンチンやって生活していたわけですね。無論、奴隷はおります。アテネの奴隷は家内奴隷です。昔の日本でいえば、下男下女です。ちなみにスパルタは、生産奴隷です。奴隷に農業生産をやらせていた。いってみれば、農奴です。で、ソクラテスのような人でも働かねばならなかった。にもかかわらず、ソクラテスはアゴラ(市場)に行って、青年相手に哲学の話をして、おまけに、彼は授業料を取らなかったんですよ。同じ知識人のソフィストはたくさん授業料を取ったんです。ですから、ソクラテスの奥さんはおかんむりになるでしょう。世にソクラテスの奥さんは悪妻だといわれていますが、かわいそうだと思いますね(笑)。

山本:一口に、自由人、市民だといっても、自由にのびのび左うちわの人ばかりではなかったんですね。

勝田:だんだん貧しい人たちが増えてきたんです。そういう中で、民主主義が発達してくるんです。民主主義である以上、多数決、多数の声に従うのは当然の原理ですから、そこで民主派の政治家が出てきます。一番有名な人は、ペリクレスです。立派な民主派のリーダーですが、プラトンにいわせれば、「彼はギリシャの民主主義を堕落させた元凶だ」というんです。なぜかといえば、民会に出席する時の費用を国庫から払ったんです。それで貧乏な人もみんな出席するようになった。また、ギリシャ人は裁判好きでして(ギリシャは陪審制度をとり、自由人の間でくじ引きで陪審員が選ばれて裁判を行っていたんです)、そういう陪審員の手当ても国庫から出すということを始めた。それによって、民主派のリーダーは「えらいヤッチャ」ということで、だんだん民主迎合の機運が出てきたんです。そうこうしているうちに、ギリシャ人はご承知のように、体操競技が好きでしょう。「体操競技をもっと盛んにせい」と。一番お金のかかったのは、松明(たいまつ)競争だといわれていますね。それを全部国家持ちにさせるのです。それからギリシャ人は芝居が好きでしたから、ソフォクレスなどの素晴らしい劇作家の作品を野外劇場で上演するんです。その費用も全部国家持ちにさせることになった。最後は、遠くからやって来て、アテネに泊まらなければならない人の宿泊の費用まで国家に持たせたんです。ちょうど今の日本も、「橋を架けろ」「老人ホームを建てろ」と国家持ちにしましたが、ちょっと似たような状況ですね。(続く)

次回は12月13日(木)