木曜コラム

山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     世界は倫理・道徳重視の時代へ①

台湾に黄石城氏というクリーンな政治家がいる。氏は1935年台湾彰化県生まれ。彰化県知事、国務大臣、総統府国策顧問、中央選挙委員会委員長、国家文化総会副会長、世界華文作家協会会長などを歴任した経歴の持ち主である。氏の長女である黄文玲議員は昨年の立法院選挙で当選した。筆者はこの黄石城氏とは25年来の友人で、気心の知れた関係にあり、今も深い交流を続けている。

黄氏の政治理念と哲学は、「政治家は正義と道徳心を持つ人がなるべきで、『個利個略』『党利党略』を目的とする政治家は邪道である」と断じている。台湾政界は政治とカネ、スキャンダルが渦巻く暗黒の政治社会との見方もあるが、その中にあって黄氏は政治家は「倫理・道徳」が必要不可欠な条件として、常に中立的な立場をとり、政界浄化に多大な役割を果たしてきた。

真実を述べることはそれが正しいことであっても周囲に疎んじられることもある。黄石城氏は、台湾政界にあって藍(国民党)・緑(民進党)両党の対立が先鋭化しても、どちらにもつかず、公正、中立の立場を堅持して無党籍を貫いてきた。

10月21日、氏は日本での講演のため来日した。その翌日、恵比寿のウェスティンホテルで久しぶりに昼食を共にした。今回は黄氏との対談の様子を以下のとおりお伝えする。

【対談】

山本:最近、2010年に黄先生がお書きになった『権力無私』を改めて拝読し、感銘を深くした次第です。ご両親から受けた影響は非常に大きかったんですね。

:父・黄水裕は農夫で字が読めない人でした。しかし、温厚、善良な人で贅沢を慎しみ、謙虚で正直な人間でした。父は若くして亡くなり、母・黄綢が一人で家族を支えて苦労しました。

山本:あなたは台湾の政界にクリーンな風をもたらした政治家として高く評価されてきました。その元となるお母様からの影響についてお話しいただけませんか。

:一つは、人間は「倫理と道徳」を重視しなければ人から信頼されないと言い、母は身をもって模範的な姿勢を私に示してくれました。二つは、人の悪口や人の噂を一切口にしないこと。たとえ、そんな噂を聞いても人に伝えてはいけないと教えてくれました。三つは、教育の重視です。当時の生活環境は貧困で、教育を受ける村人は少なかったのですが、母は私を大村国民小学校に入学させてくれまして、大学まで卒業させてくれました。

無私・誠心が政治信条

山本:あなたはその後、彰化県知事になられて、その任期中、権力的な立場を嫌い、常に指導者たる者、上に立つ人間として「倫理と道徳」の精神を大切にする仕事をされてきたと聞いています。

:その通りです。私は母の教えと父の素朴で勤勉な姿を見て育ってきましたから、県知事時代から政治のトップに立つ者は私心のない「無私」、人民に誠意を尽くす「誠心」を心掛け、常に謙虚な態度で臨む人間でありたいと自分に言い聞かせてきました。

山本:人間は過去、現在、未来のつながりによって今日の姿があると私は考えています。過去どのような家庭に育ち、親の教育を受け、社会の経験を積んできたかによって現在の生き様があるとの見方があります。

:私の立場からしますと、両親は貧しい農村に生まれ、牛や馬のように働いて毎日の苦しい生活があります。しかし、人間が「倫理・道徳」を大切にしてまじめな生活をしていれば必ず春がやってきます。けれどもそれができない人間は腐った人間になります。私は「道徳心のない指導者」や「常識のない金持ち」は否定すべき人間として軽蔑しています。権力者とは人民と社会を代表する人間であり、選挙民や国民の模範となる人間でなければなりません。政治指導者の使命は人民の幸福と社会の繁栄、そして平和な安定した国を作ることにあります。実際は権力を私物化したり、傲慢な態度を露わにする権力者は、人民の立場や意義を理解していない人たちであります。

政治家は人民を幸福にする道具である

山本:現今の風潮はグローバル化という競争社会・市場主義の社会で功利主義が蔓延しています。これは物欲が社会の価値観になっているわけです。トップに立つ人間の道徳性が希薄になれば、物事の善悪に対する基準すらなくなってしまいます。たとえば、わが国の政治家の中には、耳障りのよい「人権」という言葉を楯にして、泥棒や詐欺、暴力を振るう人間にも意見や権利があるので、彼らは守られる権利があると真顔で言っています。

:人間としての基本的な道徳心のない人に政治家の資格はありません。何事も最後は人間の人格が問われることになります。権力者とは人々を代表して働く道具ですから、人間を正しく導くという信念で仕事をしないと社会の害毒になります。反社会的な行為をする人にも権利があるというなら、物事に善悪の基準はありません。これは国の崩壊の始まりです。

約束を守るのは信頼の柱

山本:黄先生の理念と哲学は彰化県知事時代から実践されていますね。たとえば、農民や労働者と面会の約束をした時間を一度も変更したり遅れてくることはなかったと聞いています。

:民主主義政治は、人民が主人公であって、県知事は人民から選挙で選ばれた県民の代表です。いわば人民の代表ですから、県民を第一に考えるべきです。人民のために真心を持って仕事をするのが選ばれた者の使命です。私は公務員たちにも理解を求め、同じ考え方で行動するよう理解を求めました。
まず遅刻と早退をしないこと。これは法律やルールを守る原点です。時間がルーズになれば、何事もルーズな人間と考えてよいでしょう。私は面会の約束をした時間より必ず先に到着して待っていました。後から遅れてくる政治家や官僚の態度はいけません。遅れてくる人はどんな集まりにも決まって遅れてきます。約束時間を守れない人間は傲慢なのか無知なのか民主主義に違反する行為だと思います。

邪道で失敗した米国と中国

山本:話は変わりますが、米国経済の金融政策は大失敗しました。まるで大博打のようなマネーゲーム経済を全世界に巻き起こしたわけです。これは最終的に破綻してリーマンショックで終わりを迎えています。いま、米国は経済的に立ち直れないほどの大打撃を受けていますが、中国も同じように金融操作によって経済大国を辛うじて維持しています。世界の製造業から消費国に至るも「倫理や道徳」を無視する覇権主義国家ですから、長続きする筈がありません。彼らは口先では世界と共存すると言いながら、実際は世界の国富を収奪するだけでした。この市場原理主義で社会は安定と道徳心をすっかり失ってしまいました。それでは次はどこの国が世界を救うのでしょうか。

これからの世界をリードする倫理・道徳国家とは

:これからはシンガポール、日本、ドイツなど、「倫理と道徳」を重視する国が世界をリードしていくでしょう。たとえば、シンガポールは儒教の影響を受け、倫理や親孝行の教育が行き届いています。政府の行政効率もよく、犯罪率も低く、交通整理も整然として街の美化や緑化に成功しました。この国は人権と法治に厳しく、国民はこれをよく守っているので世界のお手本になっています。

次は哲学者カントの提唱した道徳が国民の生活習慣になっているドイツです。国民は愛国心と団結心を持ち、道徳を尊重すると共に、その精神を大切にしています。ドイツはEUの中でも道徳国家の中心であります。欧州の模範国でもありますが、ドイツ経済が力を持っているのは倫理と道徳のルールを大切にしているからです。それが世界の信頼を得ているんです。

世界で最も倫理・道徳を重視する日本

:日本は明治維新以降、国民の倫理・道徳を育てる修身教育を大切にしてきました。日本国民の礼儀正しさ、誠実さ、勤勉、清潔、整理整頓、交通の順序、法律を守るのは世界の模範になっています。日本は世界の手本であり、世界をリードできる大国なんです。

山本:ところが、わが国は戦前、南京大虐殺とか韓国で慰安婦問題の強制連行とか、非道徳的な国家として中国、韓国から喧伝・非難されていますが。

:他国が日本の歴史観を自国の政治問題に利用したからではないですか(笑)。韓国も中国も台湾も戦前は偉大な日本の先人にお世話になっているんです。私は世界の中でも倫理・道徳を重視する最大の国は日本だと思っています。1995年の阪神大地震で国民が一つになって復興した力を世界中は大変敬服しています。だから東北大震災では200億円以上の寄付金が集まったのです。
私は国の平和と安全、人々の幸福は「倫理と道徳」という価値観を理解し教養を備えた政治家がリーダーシップを取ることが人民の運命を幸福にする原点だと思っています。台湾はおかげ様で李登輝という私利私欲のない偉大なリーダーによって救われました。日本のみなさんは選挙という手段で立派なリーダーを選択する権利を持っています。どうぞ素晴らしい日本のリーダーを見つけてください。

山本:私は黄先生という素晴らしい友人を得て、いつも幸福に存じています。

次回は11月22日(木)