木曜コラム

山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     韓国の政治・経済に関する最新情報

先月18日に韓国ソウルで行われた時局心話會恒例の「海外研修会」で、延世大学の柳相榮(政治経済学)教授に韓国の政治・経済の現状、次期大統領選の行方、格差問題などについてご講演いただいた。その模様をご紹介する。

延世大学教授 柳相榮

韓国は1997年、2008年と二度の経済危機を経験し、その過程で多くの経済改革が行われた。韓国経済はグローバル化するなかで改革された部分もあれば副作用もあった。日本経済も、小泉政権時代に改革による様々な歪みが生じたのと同じだ。1997年以降、政府が戦略的に選択した経緯もあったが、外国人による韓国企業の持ち株比率は最も多いときで80%超、いまでは40%超程度になっており、韓国は経済危機から完全に回復したといえよう。金融機関も伝統的に韓国では国家が統制してきたが、いまでは多くの銀行は外国人が持ち主になっている。経済危機以前のように官僚による行政指導はできなくなっており、韓国の財務省がいくら要求しても、外国人の持ち主は動じない状況になっている。

韓国のマクロ経済の状況

国際的にみれば、韓国経済は欧米諸国よりうまくいっているが、様々に不安定な要因もある。韓国経済は輸出に頼っている部分が多いが、欧米の経済危機や中国経済の停滞状況もあり、今後高成長は期待できない。輸出不振が長期化する可能性もある中で、物価の上昇、とくに生活物価の急上昇により、家計の消費が冷え込むことも懸念される。今年の消費者物価は前年比3.4%増となっており、とくに農産物、石油製品、家賃といった生活に直結するものの値上がりが激しく、家計を圧迫している。このことが多くの社会的弱者を生み出しており、格差が拡大している。

不安定要素の中で躍進する韓国企業

金融市場はそれほど安定しておらず、株式市場にも多くの不安定要因がある。欧米の財政危機や中国市場が急速に冷え込む可能性、北朝鮮問題などだ。そんな状況下にあってスマートフォン関連の特許をめぐって米アップル社と法廷闘争を繰り広げているサムソンをはじめ、多くの韓国企業が躍進している。自動車部門では、現代自動車が世界のマーケットシェアを伸ばしている。トヨタが米国でのリコール問題やバッシングなどで落ち込んだことが契機になった。現代自動車では労働運動が結構激しく、経営者はストライキを避けるために、誰がやっても組立がうまく行えるようラインを整備するなど工夫がみられる。トヨタ車の米国でのリコールは、日本人の作業ラインではなく、米国をはじめ海外工場での組立ラインに問題があったのではないか。

競争社会が韓国経済発展の源だった

韓国は日本の経営者の哲学書を学んで発展している。様々な批判はあるが、財閥企業などはそれによって発展した。迅速な意思決定、遊牧民のような柔軟性、技術的な優秀性が韓国企業の強みだ。韓国社会は競争が厳しく、組織内では顕著だ。一方、日本はシェアする文化であり、社会の競争はそれほど厳しくはない。経済的には韓国は競争の激しい文化がいい結果をもたらしているのではないか。

また積極的にグローバル化に取り組んでいる。トヨタの場合は単なる貿易問題にはとどまらない。沖縄問題など、様々な政治的要因もある。日本のパナソニックなどをはじめ、かつて圧倒的な競争力を誇った大企業が苦戦を強いられているのは、日本の企業に限らず、世界的な課題ではないだろうか。

韓国経済の光と影

競争の激しい韓国社会では経済発展も早いが、負の部分も多い。日本と同じく少子高齢化の問題もある。出生率の低さ、自殺率は世界一だ。とくに高齢者の自殺が多いことが深刻な社会問題となっている。労働時間もいまや日本を上回り、韓国が世界一となった。失業率も高い。とくに若者の失業率の高さは問題だ。マイノリティーを受け入れるにも、韓国社会は包容力が高くない。いくら韓国企業が発展しても、こうした諸問題を放置すれば韓国経済は、今後の発展はおぼつかないであろう。

一方、韓国では福祉のレベルが日本に比べるとまだまだ低いのが実状だ。韓国の福祉制度はOECD諸国中、最も低い水準にある。所得格差、貧困問題もある。福祉制度の拡充といった社会的コストは将来増税となる可能性も高く、韓国経済の成長を妨げる要因にもなりかねない。

韓国の未来を決する大統領選挙の行方

今年12月に行われる大統領選挙では国民がどういう政治的選択をするかが関心のあるところだ。最大の焦点は平和と安全保障である。激動する国際政治、北朝鮮の核の脅威が高まるなかでどうやって韓国の安全と平和を守るのか、韓国の未来を決する選択になる。福祉の拡充という課題も突きつけられる中、どう韓国経済を成長に導き、持続可能な社会をつくるかが焦点となろう。

実は、前回の第17代大統領選挙の得票率は63%と決して高くはなかった。李大統領は他の候補者に20%以上の差をつけて選出されたが、国民の三分の一の支持に過ぎなかったということだ。政治の不安定要因はこうしたことにも起因しているが、投票率をいかに上げるかは、韓国の国家的な課題でもある。

日本と同じように、韓国も、既存の政党が有権者の期待に応えられていない。韓国社会は言論の自由が強く、政治家批判が当たり前のように行われている。フェイスブックやツイッターなど誰にでも参加できるSNSが発達したことも後押しし、若者が積極的に政治に参加する流れも強くなっていこう。

韓国が経済成長によって安定した社会状態になってきていることは確かで、政治が唯一国民の声をあげる手段となっているのではないか。4月に行われた総選挙では与党が152議席を獲得し、単独過半数となったが、大統領選挙は誰がなってもわずかな差で決まる可能性が高い。この半年間にも変化の可能性は高く、現時点での予測は不可能だ。

緊張感高まる南北関係

李明博政権の強硬路線で北朝鮮との緊張感が非常に高まっているなかで、北の危機をどう管理するかが重要な課題だ。これは韓国だけではなく、東アジア全体の問題でもある。

北の核危機問題は、核弾頭の小型化に成功するか、そして核の輸送技術を開発できるのかという二つの点だ。その前に北朝鮮を対話の場に引き出し、問題を解決することが急務である。北朝鮮とはアイデンティティにも大きな隔たりがある。北朝鮮問題は核をどう管理するかということに尽きよう。

世界情勢の鍵を握る米中

米韓とは共同で様々な策を練っているが、北朝鮮問題で何か事が起きたら負担するのは韓国になることは間違いない。韓国政府が当事者として南北関係を調整することが賢明だが、まだ難しい段階だ。東アジアで冷戦構造が再び強化される可能性もある。日米関係も、日韓、米韓関係も、結局は、米中関係によって左右されるのが現代の国際政治の構造だ。米中関係が友好であるときに東アジアの平和は保たれる。それが現実だ。中国は、経済的にはスーパーパワーになっているが、民主主義、人権の面では国際政治ではまだ発展途上だ。中国との関係をいかに良好なものにするか、韓国ではバランスのとれた長期的な戦略が求められよう。それには日韓両国の協力が大きな鍵になる。

日中韓FTA、日韓FTAの行方は

日中韓のFTA(自由貿易協定)の交渉が年内にも始まろうとしている。三国FTAは、日中がリーダーシップを発揮しなければうまくいかないのではないか。米韓FTAは安保的意味合いが強く、日中間の競争が激化するなか、米は韓国と組んで、政治的ヘゲモニーを強化するという軍事戦略があったため、早々に締結した。一方、日韓のFTA交渉は15年以上かかっても一向に進展しない。本来、両国間のFTAは経済的に利益はあるものの歴史問題が両国の信頼関係に影を落としている特異なケースだ。

今年は米ロ中韓で政権が変動し、政治的不安定が拡大し、市場が不安定になるだろう。日韓両国はハード、ソフトともに競争力をもっている。「この両国の資産を生かし、政治、軍事に加えて、技術的にも協力」できるはずだが、政治的なリーダーシップが不足し、その実力を十分に発揮できないでいる。新しいビジョンをつくるために両国は強力な政治的リーダーシップが求められよう。

次回は6月28日(木)