木曜コラム

山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     小沢無罪と検察の敗北

小沢一郎民主党元代表(69)の裁判は4月26日、東京地裁が「虚偽記入について故意や共謀を認めることはできない」とし無罪とした。3年前の大久保隆規秘書(元会計責任者)の逮捕から一貫して言ってきた“事実と根拠”の無い裁判と言わざるを得ない。小沢氏は政治主導と官僚支配の打破を政策に掲げた政治家として、官権力に立ち向かう対立構図を描いてきた。民主党は8日の常任幹事会で無罪判決を受けて小沢一郎氏の党員資格停止処分を10日付で解除する。しかし、1日前の9日小沢裁判で指定弁護士らは控訴とした。

もともとこの裁判は民主党内の反小沢勢力と官権力が小沢氏を政界から抹殺する共同作戦との見方もある。検察官らは小沢氏を有罪に持ち込むことを前提に、元秘書らの証言、捜査報告書の捏造を画策した。更に言えば、田代政弘検事は「虚偽有印公文書作成」を行い、これが致命的となって検察現場から追放を余儀なくされている。検察官らによる小沢裁判に対する権力行使と捏造は熾烈を極めた。

この裁判はわが国最大の権力機関である霞ヶ関による小沢潰しであり、その執念がじわじわと感じられる。この3年間、検察は事実無根とされる情報を拡散し、小沢潰しに集中した。一審では検察や裁判で徹底的な審議を行ったが、証拠不十分で小沢氏は無罪になっている。しかもこれからは特捜部の検事らに対する虚偽の捜査報告書の作成問題で刑事処分と人事上の処分が行われよう。

小沢無罪は押しつけ裁判なのか

小沢イメージは地に墜ち小沢不信は6割を越え、政治生命を断つに等しく国家権力の強圧で朽ち果てようとしている。しかしこれまで、小沢氏は何度も危機に見舞われる中、政敵や国民世論から「小沢の時代は終わった」と言われ続けてきたが、その都度立ち上がり政局をリードした。

これまで、民主党議員の大勢は、本音では小沢裁判は最終的に無罪になると考えていた。たとえば、小沢氏の政敵である野田首相や仙石由人氏に近い議員らの中にも、この裁判はひどい仕打ちだと本音を漏らしている。小沢氏本人も判決前は「必ず司法の正しい判断(無罪)が下る」と側近に語っていたが、精神的にも体力的にも限界にきているとの印象は隠しようがなかった。

権力側にとって本来ならこの小沢裁判は権力側の一方的な権力乱用によって、必ず失脚する筈との見方が有力であった。小沢氏側は、今回の裁判で政治資金収支報告書に虚偽記載はあったが、西松建設から1億円の政治資金を受け取ったとの証拠はなく事実無根として却下されている。

小沢のカネは誰のカネなのか

弊誌ではこれまで何度も小沢裁判は「事実と根拠」がなく無罪しかないと指摘した。小沢氏は田中角栄元総理や金丸信元副総裁らが「政治とカネ」で政治権力を失い政治生命が断たれ、その後早期に死に至った経緯を知っている。「政治とカネ」は自らの政治生命を失うばかりか人間の生命まで奪うものとは、小沢氏が身を以って体験したことであった。それゆえカネの扱いには慎重であり、ましてや企業からの不正な献金は一切手にしない主義である。

幸いカネに恵まれた小沢氏であるが、両親が湯島の自宅や小金をしっかり残してくれた。さらに妻の和子氏は新潟で建設業を営む福田組元会長・福田正氏の娘であり、現在に至るも筆頭株主と聞いている。庶民感覚から見れば羨む環境に育ち、親から資産を継承した富裕層である。それゆえカネには人一倍神経を使いすべては秘書を通して法の範囲内で政治資金を扱ってきた。

特捜部の検事らは小沢氏の「政治とカネ」には対する核心部分が見落とされていなかったか。つまり、小沢一家は本当の金持ちなのであって、ゼネコンから不正なカネをもらう必要がない。4億円のカネの出所を検察は執拗に追及したが、このカネは小沢家の資産の一部である。事実誤認があれば修正すれば良いことだ。

なぜ小沢裁判で小沢潰しを狙ったのか

検察はゼネコンを使って執拗に裏金の存在やウワサ話を拾い集めたが、罪を裏付ける証拠が皆無に等しく、二度にわたって無罪になっている。それでも検察審査会を使って起訴議決としたが、結局は何をやっても証拠がないので有罪にはできなかった。ましてや、捜査報告書で田代政弘担当検事の捏造が明るみとなって、デタラメ捜査と狂気の取り調べが明るみになり、やがて取り調べ検察官らの自滅をもたらした。

一方ではもともと小沢潰しは、与党自民党が選挙で敗色濃厚となり、民主党の人気を食い止める手段がキッカケとの話もある。これに安倍潰しで実績のある霞ヶ関が総指揮を執れば小沢は潰れるとの目算があった。民主党のマニフェストは国家公務員の総人件費2割削減、天下り根絶、独立行政法人(独法)の国費カット等々、増税の前にやるべき行革を山積みに並べ立てた。民主党は反権力政権の筈であった。

それ以外に、民主党は歳出予算を20.5兆円削減するとも言っている。企業なら税収が少なければ、歳出カットして税収と歳出のバランスを取るのは当たり前の話だ。しかも政府は財政赤字を赤字国債の発行で賄っているが、これらはすべて国民の税金である。民間企業から見れば考えられないずさんな国家運営だ。

増税の前にやることはないのか

マス・メディアの世論調査によると国民の60%以上が消費税増税に反対である。しかも野田内閣の支持率は20%前後に落ち国民の信頼を失った。小沢氏は消費税増税に反対の姿勢を示しているが、増税を行うには「その前にやるべきことがある」と主張している。これは、これまで述べてきた通り民主党のマニフェストを実行することだ。

しかし専門筋は小沢氏の政策と政治能力に対して懐疑的である。「小沢氏がやろうとした『子ども手当』は歳出増大を加速する愚策である。『生活重視』という政策を打ち出した背景は、国家予算を使って選挙に勝つための有権者からの票集めだ。本人にしてみれば、20.5兆円の国家予算が削減できることを前提に提案したつもりだろう。しかし、これは出来もしない政策であって、言い出しっぺの小沢氏の政策能力に疑問を抱き、国民不信を招く結果にもなった。小沢不人気が無罪でも回復できない根っ子はここにある」とは、彼らの分析である。

さらに国民の小沢氏に対する不信は裁判問題以前に鳩山政権での幹事長時代の愚策だと専門筋は言う。「小沢氏らが作ったマニフェストを実行するには、増税の前に行財政改革であるが、小沢人気が上昇できないのは、政策の実行に成果がないからで権力主義と政策実行の裏表をうまく使い分けているからではないか。これまでの不信を払拭するには代表選で当選してマニフェストの公約を実行してもらいたい。

無罪判決後の小沢氏はどうなるのか

これからの小沢氏の行方について、いろいろな見方が取り沙汰されているが、小沢氏は権力主義であり常に敵を作り、その敵を撃退する政治手法であって、意に沿わない相手には仲間でさえ即座に無視する。それなら民主党代表選で代表の座を勝ち取り、マニフェストを実行する以外にない。とはいえ、9日指定弁護士らは控訴したので、小沢氏は裁判しながら代表選に出馬できるのか、という声もある。

4月27日、石原慎太郎東京都知事が記者会見で小沢判決について「無罪と言っても限りなく黒に近い判決でしょう。何を勘違いしているか知らんけどね」と言った。新党構想では「ちょっとでも小沢の影が差す話は乗らないよ。晩節をけがす」と述べた。石原氏の小沢氏への好き嫌いは本人の思いであるが政治的発言としては稚拙である。氏は新党結成よりも尖閣諸島を東京都が買うとかの奇抜なパフォーマンスであり、広告塔が適役だ。

一方、橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会との連携はいろいろ取り沙汰されている。橋下氏は小沢氏の反権力に同調し、力強い同志との考えもあるとは側近筋の話だ。小沢氏の支持率が低いことと、政策面で一致しない面もあり一方では連携は難しいとの見方もある。とはいえ、この先何が起こるか分からない。

裁判結果と国家の良識と意思に期待

筆者は判決前、元検察官ら数人とお目にかかる機会があった。さらに決定的であったのは、4月9日の弊会「政民合同會議」で講演された郷原信郎元検察官の小沢裁判に対する分析内容である。今回の裁判は地検特捜部による何でもありのデタラメ裁判だと言うのは検察関係者らの一致した意見である。判決前元検察官らの大勢は全員が無罪と言い有罪なら司法の危機であると懸念を示した。

この裁判で検察が二度も証拠なしで不起訴としたうえ、嫌疑不十分になったものを無理矢理有罪にできるのか。もし有罪にすれば、今後の刑事裁判は成立しないほど国民不信を招いたであろう。4月10日頃であったと思うが、筆者は小沢一郎氏の側近である衆議院議員の東祥三氏や三井辨雄氏らの携帯に電話を入れて、この裁判は無罪になる旨、確信ある私見を述べた。

筆者は小沢裁判の無罪は天の声であり健全な司法の危機が救われたとの思いがある。しかし、5月9日「検察審査会」の指定弁護士らは小沢氏を控訴した。何か新しい証拠が出たわけでもないのに控訴するのはこれまでの繰り返しだ。果てしなく続く小沢潰しで国民もいい加減うんざりではなかろうか。

次回は5月17日(木