木曜コラム

山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     馬総統再選

台湾の総統選と立法院選(同日選)は14日投開票された。その結果、総統選では馬英九氏が約689万票(投票率51.60%)を獲得して当選した。蔡英文氏は約609万票(同45.63%)、親民党の宋楚瑜主席は約37万票(同2.77%)を獲得。一方、台湾立法委員選の主要政党獲得議席数は113議席であるが、国民党は改選前の72議席から64議席に減らし、民進党は27議席から40議席に増やした。

なお、宋楚瑜主席の親民党は3議席、独立派の台湾団結連盟は3議席を獲得した。台湾では選挙で3議席以上獲得すれば一つの政党が誕生する。わが国は多政党であるが、台湾の場合はこれまで国民党と民進党がマスメディアに登場する二大政党であった。台湾では新しく誕生した二つを加えて四つの政党がメディアの討論会に出席できる。台湾住民は各党から多様な意見を聞くことが出来ることになった。

今回の選挙で馬総統は再選されたが、国民党は立法院選では議席を減らし投票数を減らした。今回の選挙は接戦とみられていたが、有権者は中国とは安定的な経済関係を維持するためにもう一期(四年)馬・国民党に委ねることを選択したようだ。

「一つの中国」の統一交渉

筆者はこれまで蔡英文氏が当選することを期待した。これまでの論調も世論調査では馬英九氏のリードを認めてきたが、現場では前回選挙より蔡候補側に前回とは異なる勢いが感じられたものである。投票数は前回の220万票差から80万票差に縮められ、立法院議席数も国民党が減少し、民進党は議席を大幅に増やした。国民党の総得票数減と議席減の中で与野党が接近したのは初めてのケースといえよう。

中国が悲願とする「一つの中国」はこの4年間が勝負だ。馬英九総統も「中台統一」を口にしないが、統一論者であり、政治目標としている。国民党の連戦名誉主席は「中台統一」のパイプ役として、中国側の意向を代弁して「和平会議」を推し進めてきた。

一方、中国国内でも胡錦濤政権は最後の仕事として統一問題は最後の大詰めを迎えている。人民解放軍や共産党内部では、経済の次は「和平会議」であり、台湾統一が目的だと催促していよう。しかし、これはあくまで平和的な手段でしか達成できない。軍事力による台湾侵攻は日米を始め世界が相手になる。馬氏は台湾を「一地域」と言い、中国を「一地域」と規定した。それゆえ地域の代表者が「中台統一」を合法的な法解釈で「一つの中国」が実現できる方法を模索中との見方もある。

中国経済の不況と立ち向かう

しかしながら、あらゆる手段を使っても「中台統一」は難しい問題だ。台湾統一には台湾の民主制度という大きな壁が立ちはだかっている。この壁をぶち壊すには、中国が人権、法治を守り台湾と同じ自由と民主主義国家に変身するしかない。しかし、これは中国共産党が消滅する選択に他ならない。

いま、今回の選挙で中国も台湾のように総統や政党、議員を直接選挙で選ぶべきだとの書き込みが相次ぎ、中国の民主化に期待する声が高い。

経済的な面から見れば、観光客の大量受け入れは日本を抜いて中国がトップになった。しかし、それ以外は、選挙用パフォーマンスが多く、一般住民は大した恩恵を受けていない。中国はインフレ、人件費高騰、バブル崩壊など経済不況が進行中だ。馬氏は2期目の当選を果たしたものの、これからは中台経済関係が厳しい局面に直面せねばならない。

すでに台湾は独立国家だ

中台経済の動向や政治問題如何で中台の激震が予測される。中台経済が大きく後退することで、中台関係が停滞すれば最も打撃を受けるのは、やっぱり中台両国だ。そんな状況下で中国と国民党政権が「和平協定」を進行するなら、次がなく、国民党は台湾住民と敵対関係に発展しよう。

一方、台湾の国名は「中華民国」であるが、世界は「台湾」と言い、中華民国と呼ぶ人は少ない。「国共戦争に敗れた国民党が台湾を占拠したからで、中華民国、国民党の存在を世界中が認めていない何よりの証左だ」。しかし、国民党政権と中国は「一つの中国」と認める「92年コンセンサス」に合意しているが、台湾住民の大勢は反対である。これは88%以上の台湾人の意思を踏みにじる暴挙である。いま台湾は国民党と中国側の「国共合策」で台湾吸収の大詰めを迎えている。

台湾は中国や国民党政府がマスメディアに資本援助しているとされ、「中台融合」に対して、肯定的な論調が多いのはその為だ。今回の選挙は人気にかげりが見える馬政権を全面的に“援護射撃”したのが中国だ。その裏ではギャンブル投票や買収行為がなかったわけではない。

中国と日台は運命共同体

中国は台湾を「一つの中国」にするチャンスを伺っているが、本音では実現できるとは考えてはいない。それよりも「一つの中国」を喧伝することで、国民の不満や貧困の鬱積を台湾にぶつけているだけだ。これらの戦術は韓国の反日運動にヒントを得て、中国政府がマネしたものとの見方もある。

中国の反日運動に日本政府や外務省は反発せず、かつての歴史観まで捏造される始末となった。しかも靖国問題では自国のために戦った先人たちの歴史を否定している。日本政府が靖国を政治問題として切り売りする体たらくは、国益を損じる「売国奴」そのものだ。しかし、わが国政府や外務省はそうは考えていない。

これまで「台湾統一」と「反日」は中国統治の決め球として有効であった。しかし、これ以上「反日」を大義名分にすれば中国政府への批判に変わり、大暴動に発展する懸念がある。それゆえ今後は「台湾統一」や「反日」運動は慎重にならざるを得ない。中国の外国投資は半分近くが台湾であり、インフラは日本のODAや国際銀行の融資で産業基盤が作られたと言って良い。

日本政府は戦前、戦後を通して中韓に対する近代化に貢献し、資本と技術と人を投入した。中国人らは日本と台湾のおかげで経済発展してきたことは百も承知だ。それゆえ日台との共存共栄こそ、中国経済の生命線と考えている。にも拘わらず、あくまで日台を傘下に収めるために恫喝と軍拡を繰り返しているのだ。中国人はカネには汚いと言うが、カネだけを信用する民族である。中国には、恩義に感じる、感謝するという言葉がないから嫌がらせが平気で出来る話だ。

中台貿易は大丈夫か

馬英九前総統の意欲と努力で「三通」(中台関係の直接通商、通航、通信)の門戸が開かれた。氏の対中融和政策で中台関係は劇的な経済開放を構築することを可能とした。更に台湾海峡を挟んだ「ヒト、モノ、カネ」の動きが活発となり、効率的な中台関係が成立した。

台湾大手企業である鴻海グループの郭台銘総裁は中台経済の存続発展について、「これからも政権の継続」を言い、「経済危機の大波には馬氏の舵取りが必要だ」と発言。張平沼・全国商業総会理事長は「馬氏の再選で経済政策に一貫性を」と大企業が相次いで馬氏を支持した。これは中国政府が台湾企業に圧力をかけた「中国干渉」に他ならない。

中国観光客の台湾への年間消費は昨年で550億円、農水産物の大量買い付けで、中南部は前年対比の6倍になったと言われている。台湾の経済活性化は大げさに喧伝されているが、今のところ対中ビジネスで利益を上げる大企業と特権階級に限定されたものだ。

陳水扁総統の時代は対中輸出は全輸出の26%であったが、馬氏になって40%を超えた。たとえば昨年の1月~5月の台湾の対中輸出は前年同期比11.7%増の513億ドル(約4兆1千億円)である。台湾は儲ける人たちと貧困層との間で経済格差が拡がり、日本と同様、中産階級が没落しつつある。貧しい農民や一般住民は中国経済による恩恵を受けていない。

台湾の民主化が定着

今回の選挙は公開、公平、公正の下で行われ世界から注目されている。台湾は民主制度が誕生して22年になる。台湾の公平な自由・民主選挙に対して、中国は手出しができなかった。中国市民によるネット上のサイトは台湾総統選の様子を細かく報道している。最も注目を集めたのは、台湾の民主制度による、民主選挙であった。

これら選挙の情報が中国からの観光客らの目に触れることで、民主制度へのあこがれが深まりつつある。“台湾は夢の小島だ。素晴らしい自由がある”と台湾テレビにコメントする中国人の表情に輝きが見られた。いま、中国のネット上で台湾の民主選挙を賞賛する声が殺到している。

今回の選挙戦を通して、台湾の民主制度と公明な選挙が全世界に報道されたことは、台湾の国際的地位を高めさせるものだった。これまで、馬総統が台湾は「一つの地域」だと言ってきたが、台湾と中国は「国と国の関係」に変わりつつある現実を見た。国民党の組織力とダブル選という優利な選挙戦で、健闘した民進党を讃えたい。これまで0席だった台湾団結連盟の3議席獲得は、台湾住民の「現状維持」から自立した国に移り変わる芽が育ちつつあると見た。

次回は1月26日(木)