木曜コラム

山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     TPP参加は吉と出るか

これまで民主党内の反対勢力に配慮してきた野田佳彦総理大臣が11日、首相官邸で記者会見を行い、「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と述べた。

TPPは農業問題がクローズアップされているが、一方、自動車、電機など製造業の海外移転の動きがこのところ加速している。製造業の空洞化が進めば、失業者は増大し、賃金は安くなり、個人消費は細るばかりだ。それでなくても超円高、デフレ、電力不足、高い法人税等の悪条件を受け、国内生産は難しくなっている。

米国に手を貸せば日本は沈没だ

筆者は弊誌351号、352号で円高・デフレ・TPP問題について私見を述べてきた。これらの問題は今後の日本経済を左右する問題だからである。しかし、これほどの重要な問題であるにも拘わらず、TPP・増税問題では議論もしないまま、国民に説明責任も果たさず、いきなり参加表明を行うのは見事な独裁的政治手法ではなかろうか。

小泉純一郎政権時代のグローバル改革では米国側の要請する不良債権処理、国際会計基準、金融の自由化、派遣法改正など市場原理主義が導入された。その結果、あらゆる産業が混乱し、日本経済はどん底まで突き落とされた。次はTPP参加によって日本企業は「関税の撤廃と市場開放」「自由な市場競争」で米国企業の参入に門戸を開こうとしている。

TPPは日本国全体の命運を決する大問題であるが、野田首相と米国、財務省間では、TPPという危険な賭けに合意済みだ。米国は世界最大の消費国であるが、国内では雇用がなく、消費が停滞すれば世界の警察官として機能しなくなる。そうならないために、日本政府は米国経済復興のため手を貸したいが、そうなれば日本自身が沈没する恐れがある等、難しい舵取りが強いられよう。

日本は本当に自由と民主主義国家か

野田氏は人柄もよく、勉強熱心でまじめな政治家であり、人の話をよく聞く誠実な人柄という印象がある。しかし人としての優しさが融和的な事なかれ主義につながり、妥協しやすい側面が見え隠れする。野田氏が増税論に転じたのは菅政権時に財務大臣に就任して以来だ。これは氏の理念や政策ではなく、財務省の「財政再生論」に洗脳されたからと見られている。

野田政権の増税政策とTPP参加の推進は日本丸が貧乏神に取り憑かれて沈没していく様だとの意見もある。街や地下鉄で行き交う人々の服装と表情もみすぼらしく元気がない。そんな中、官僚たちはムダ遣いを据え置き、一つの痛みも払うことなく、税収不足の負担と被害をすべて国民に押し付ける増税政策に国民は反撥を強めている。

ある会社の役員会で、なぜ不況なのに増税なのか、他にお札を刷るとか、赤字国債を発行して政府が市場に大量のお金を注入すれば経済は良くなり、税収が増えるのではないかとの声もあった。不況の中で国民に過度の負担を強いるのは、社会主義か共産主義国家の常套手段である。わが国は自由と民主主義国家のフリをしているだけではないかとの話も出たので驚いた。

野田政権は官僚の言いなりだ

官僚たちは自分たちの権益を放棄するようなことには決して手を汚さない。いかなる困窮に直面しても、すべての負担は国民に押し付けることで切り抜けてきた。唯一官僚が身銭を切ったのは、国民から預かっている年金基金の運用資金をマネーゲームで膨大な損失を招いた際、穴埋めとして埋蔵金を使ったくらいであろう。こうした官僚の資金運用は犯罪行為であるというのが、大方の国民の持つ率直な声である。

最近のテレビで官僚批判が目立つようになったが、これは国民の声を代弁するものだ。民主党は「脱官僚政治を実現する」「20兆円は歳出削減する」「政治主導の民主党」と宣言し、総選挙で大勝した。その後、「公約とは破るためにある」との格言を忠実に実行した政党だといえよう。

首相は消費税増税10%案を、G20首脳会議で突如表明した。相次ぐ増税ラッシュに国民の大勢が辟易しているところに、わざわざ国外で宣言して見せたのは驚きだ。今日にみる赤字国債をはじめ、借金政策を招いたのは頭の悪い官僚らの政策ミス、私物化であり、未だに行財政改革は掛け声ばかりだ。政治主導が機能しないのは、政治家が官僚の言いなりで、自らが政治的理念と政策で難局を乗り切る自主・自立の精神と政治哲学を持たないからではなかろうか。

外圧なしに日本農業の開拓は期待できない

さて、前号では「TPP参加は日本農業再生のチャンス」と述べた。日本農業のGDP比率1.5%は世界的に見て決して低い方ではないが、問題は内容である。日本農業の1.5%に対して米国は1.1%、英国0.7%とさらに低い国もあるが、彼らの生産手段は合理的、効率的で大量生産している。税金で補助しないと独り立ちできない日本の農業はグローバルビジネスから見れば取り残された産業であり我が国でもお荷物だ。

たとえば、フランスは2.0%であるが、日本と同じ補助金漬けから脱し、欧州有数の農業国に生まれ変わっている。フランスの農業政策は農業従事者による多くの痛みを乗り越えての結果物であった。

TPPによって米国牛の輸出が日本市場を直撃するというが、米国は世界最大の農産物輸入大国だ。野菜、果物は2兆円、畜産品は約1兆円を海外から依存している。また、畜産品の4000億円、豚肉1500億円を輸入に頼っている。米国は安い牛肉を日本に売りつけ、良質な牛肉を世界から買っていた。牛肉に関して言えば、神戸牛は中国輸出を中心にわずか9億円に過ぎない。TPPで日本の畜産業市場は開拓の余地が十分にあるとの見方もある。

TPPはあくまで米国の都合によるもの

筆者はTPPが日本の改革に必要不可欠との見方は否定しない。機能不全に陥った業界の改革は対外的な圧力によってしか変われないわが国の政治体質を考えてのことだ。農業従事者の高齢化が進む中、今更変革を求めても無理な話ではないか。それゆえ、政府は農業従事者の生活保障を考えながら自立を促す指導を行うべきであろう。

しかし、TPPはあくまで米国主導によるグローバルスタンダードを押し付けるものである。それでは日本固有の制度が壊されるとの声もあるが、制度疲労による機能不全の業界が目白押しだ。先述のとおり、アメリカングローバルスタンダードで日本の金融が米国基準に嵌められてボロボロになったのは周知の通りである。米国金融は『自己責任』という名のもとに詐欺同然の手口でわが国の大金を収奪した。格差社会と貧困層の増大は米国のグローバルスタンダードにあることを忘れてはならない。

さらに米国スタンダードは日本に対して露骨なドル安・円高政策を操作している。これは米国の対日経済戦争の布告と見た。わが国は世界第二位の消費市場であり、米国の国内雇用拡大と輸出にとって格好のマーケットである。つまり、米国主導のTPPは米国の都合による、自国内の雇用再生と日本市場への参入が目的と見てよい。

TPPは日本の改革・開国だ

米国は日本のTPP参加を強く希望してきたが反面、米国内で事前協議を行い、米国流の制度改革を容認することが条件だと強気だ。つまり、米国基準に合意しないと日本の参加は見合わせるというものだ。米国は事前協議でTPPの制度と仕組みに関して日本側に理解を求める予定だ。これらルールづくりの参加は早めに議論すべきで、今後は日本側の立場や意見を十分に米国側に伝えることが肝要である。

TPPでは米国側への配慮、遠慮は無用だ。意見が合わないと日米関係はうまくいかないと考えるのは外交無知だ。米国は意見をしっかり言ってもらいたいと考えていよう。日米は政治、軍事で同盟関係にあり、互いに悪い関係にはしたくないと思っているからだ。

TPP問題は一言でいえば、日本の「改革」であり、「開国」でありたいと願う。日本のあらゆる分野が制度疲労を起こしている中でムダ遣いが放置されている。日本が国際国家として存続し、発展するためにTPPは必要不可欠である。

自らの理念と政策で政治をやれ

日本は資源のない国であり、貿易の輸出入で世界の市場を求めるしかない。それには安くてよい品、付加価値のある商品づくりが求められよう。これからは一方的に供給するのではなく、世界が自由に競争して優劣を争う時代の到来を避けられまい。

経済のグローバル化が進み、世界経済は国境を越えて一つの経済単位になった。今後、日本型の発想や経済体制では通用しない。それゆえ、世界は一つの経済ルールを作って、一つの土俵で戦うというのは避けられない時代の趨勢ではなかろうか。

我々は「世界市場」「市場原理」「グローバル化」という幻想と言葉のトリックに惑わされてきた。これらの言葉より大切なのは、我が民族の「共同体」を守る思いであり政策であってほしい。

次回は11月24日(木)