木曜コラム

山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     TPPで日本はどう変わるか

わが国民は世界的にも珍しい同質的な民族といわれている。その昔、南方のインドネシアや台湾から中国、韓国経由で人々が近隣諸国の日本に移植し、村落を形成し共同体として暮らすうちに、純粋度の高い血族集団が生まれた。さらに徳川時代の240年間にわたる鎖国で、世界中で最も密度の濃い独自の文化を作り上げたのである。

一方、同じ頃、西洋では産業革命で工業が発達し、造船技術の向上で、大型木造帆船や蒸気機関による鋼鉄船が建造された。19世紀の初めには1200トン級で全長60メートル級の巨船が日本の近海にその姿を見せるようになった。

欧米列強に植民地化を断念させた日本の技術力

当時のわが国民は西洋の巨船や大砲などの近代兵器を目の当たりにして戦慄した。そして、西洋の軍事力、技術力、物量の格差に驚き、すぐさま西洋文明を取り入れ、近代化を進めたのである。西洋に追いつき追い越せで邁進した結果、他国からの植民地化を免れることができた。さもなくば、わが国は他のアジア諸国と同じく植民地国家と同じ運命を辿ったであろう。

西洋人が初めて日本を訪れたのは16世紀の半ば、ポルトガルの宣教師らといわれている。彼らの記録によると、当時日本が高度な冶金技術を擁していたと言う。西暦1543年、大分県で既に数百挺の鉄砲を持つ部隊が編成されている。当時の日本人は、鉄砲を持ち、礼儀正しい動作で武装した精悍な武士たちがいた。武田勝頼は3千挺の鉄砲を持ち、信長の時代には何万単位の鉄砲が既に作られていたとの記録もある。もともとポルトガルは日本を侵略するつもりであったが、日本人の能力の高さと、ハリネズミのような規律正しい武士集団を見て断念した。

近代化に抵抗した中国皇帝

その一方で、世界との接点を怠らず、さらなる富国強兵の拡大に努めたのである。翻って当時の中国はどうであったかを調べると、コロンブスが米国を発見した頃、中国には世界を航海する船舶技術があった。当時はコロンブスの船の5倍も大きい艦隊が既に中国では作られていた。

当時の中国は群雄割拠の時代であり、国内では地域紛争が絶えず、目は常に国内に向けられていた。当時の皇帝はそれらの技術が逆に国内の不安定を招くと考えたので、国内の技術開発や対外関係を封印する。中国が発見したとされる火薬も軍事目的には使用されていなかった。

中国の皇帝が国内の地域紛争に奔走する間に、イギリスが香港を領有し欧米諸国は中国を半ば強制的に侵略した。これら欧米列強の侵略で弱肉強食の時代を経て、いまや世界の競争は武力から経済戦争に変わり、グローバル化による弱肉強食の時代を迎えたのである。

グローバル化の選択は是か否か

現今、世界の大勢は米国主導のグローバル化を受け入れた。たとえ米国主導であっても世界がこのシステムに参加すれば、あらゆる経済の効率化、技術移転や規制の撤廃、直接の海外投資、市場アクセス等特殊な経営ノウハウ等の取得と国の改革に期待した。

中国はグローバル化を積極的に受け入れて世界の経済大国となる。一方、世界との密接な関係を持たない国もある。世界基準の条件に満たないためにグローバル化はその国の参加を拒否したケースであった。北朝鮮などはその一例だ。

中国がグローバル化を受け入れたことで経済全体のレベル、生活の質は向上し、突出した金持ちも誕生した。中国人は元々貧困であるが、大多数の人民は、いまだに貧困層から抜け出せていない。しかし、今更毛沢東の時代には戻れず、経済開放は止められまい。

TPP参加で日本の農業はどうなる?

本題を急ぐ。次は注目のTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)問題であり、第二段のグローバル化という大津波だ。もともと、このTPPはアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を実現するために考えられたものだ。つまり、自由で透明性の高い公平な経済圏の構築が建前である。

TPPへの参加問題で民主党内でも賛否両論あって議論の着地点は平行線のままだ。たとえば、賛成派は農業の体質を強化して競争力をつけるべきだと主張し、反対派は「わが国農業を急速に崩壊させる」といっているが、各議員なりに選挙区事情がある。

日本の農業はほとんどが家内工業的であるが、諸外国では安い人件費とヘリコプターで種や農薬を空中から散布するなど大規模生産を行い効率的だ。わが国がTPP問題に参加すれば、940品目の関税撤廃となり、そうなれば高い関税で保護されてきたコメをはじめ、国内産業に大打撃を与えることは確実だ。

TPPを主導する米国の狙いとは

このTPPプランは米国が主導するアジア太平洋の貿易・経済全体の枠組み作りにある。高成長が期待される東アジア、中国、インドなどで発展途上国のビジネスルールを一つにまとめようというものだ。これは米国企業のための再生プランであり、グローバル経済の総仕上げといわれている。米国内の深刻な雇用問題の解決策として、彼らは金融の失敗から製造業の復活に駆けるしかない。TPPへの参加は農業にとどまらず金融や医療をはじめ、多くの分野での市場開放が求められ、米国企業の参入が狙いだ。

野田佳彦首相は、TPPへの参加については既に腹を固めている。今後は米国との関係もあり、強引に決断したいところだ。しかし、国内では民主党の反対と、全国44道府県議会の反対17、慎重派27で反対派が優勢だ。とくに北海道の農業産出額は1兆円を超えているが、TPP参加で55%が失われるとの予測もある。さらに関連産業2兆円、雇用は17万人が失われると言う。これについて農水省は生産減少などによる損失は16兆円になると試算した。

しかし、日本の農業就業人口は50年前のピーク時、全人口の80%に比べ、今ではわずか3%以下に落ち込み260万人前後が農業従事者だ。しかし、彼らの平均年齢は65歳を超え、埼玉県に匹敵する農業放棄地が生まれている。グローバル化の中で農業だけが家業形態のままで、後継者不足とあっては農業就業人口の減少は避けられない。一方、GDP(国内総生産)の1.5%の農業のために、残り98.5%を犠牲にしても良いのか、という意見もある。しかし今後、高い輸入関税や保護政策でしか生き残れない産業はいずれ消滅するしかないのではないか。

TPP参加は日本農業再生のチャンスだ

2006年にスタートしたTPP問題の発効まで10年の猶予期間が与えられると記憶している。その間戸別所得補償額制度を活用するなど農業部門の構造改革を段階的に進めればよいのではないか。いまや農業部門は完全老齢化しており、あと10年もすれば平均年齢が75歳を超えるが、農業放棄の拡大は避けられまい。つまり、農業はこのままではやがて自然消滅する運命にある。一方、国内では失業者の増大に伴い、今後は農業の企業化と農作物の輸出が雇用を吸収するチャンスに期待がかかる。

ここに来て、コメの輸出を手がける農業経営者たちが急増している。ネットを通じて農業経営者が国内外の消費者に直接販売するなど、好調な成績を上げているからだ。また7軒の農家が共同でパリ、ロンドン、オーストラリア等に2009年産米で60トンを輸出したとの記録もあった。そのほか、ハウス栽培や果樹園で収穫した野菜やりんご、なしを大量に中国に輸出した成功例などが増えつつある。

TPPで企業も生まれ変わる

時代の大変化の中で農業の見直しは止むに止まれぬ選択となっている。世界が一つの経済圏となるグローバル化に端を発した日本経済は、さらなる転換期を迎えていよう。マニフェストを掲げても、何もできない政治よりもTPPは日本を変えるキッカケとなるかもしれない。

農業は三千年も昔から日本人が生きるための食の根幹を成すものであった。これまで農業従事者が営々と築いてきた稲作技術は大和民族ならではの最も大切な価値観の一つだ。天皇は毎年田植えと稲刈りを宮中で行い、天皇が稲作の守護者であると言われてきた。

世界的にも品質に定評のあるわが国の農業は、国際競争力にさらされていこう。各農家がさらなる磨きをかけて美味しい米を産出し、効率を計る量産体制で富裕層に向けた販売先を海外市場に確保するなど生き残る道も十分開かれている。

これまであらゆる業界が政府の補助金や保護主義で生きてきた時代は終わった。これからは自主、自立、自助による国際競争力のある農業に生まれ変わるべきである。わが国の産業界は旧態依然とした機能不全のものが多く、活力を失っている。わが国の構造改革に痛みが伴わずして何ができようか。TPPは日本を変える手段として工夫すべき課題であり、新陳代謝を促す潤滑油になってもらいたい。

次回は11月17日(木)