木曜コラム

山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     指導者不在の日本経済

野田政権は不況のどん底に喘ぐ企業や国民にすべての税負担を押し付けようとしている。しかも、「円高・デフレ」は放置されたままで日本経済の先行きは不透明なままだ。国の指導者にとって最悪の行為とは国民に多大な税の負担をかけることである。これら野田政権の増税政策を影で操っているのは財務省の勝栄二郎事務次官であり、影の主役が表舞台に登場した稀有な事例と見られている。

わが国は「円高・デフレ」で経済規模が著しく縮小されつつある。ある筋の試算によれば、わが国資産はこれら「円高・デフレ」で3年間に100兆円近い損失を招いているという。世界が紙幣の増刷や国債発行を増大する中、わが国だけが増税ラッシュでは円高になるしかなかろう。これら日本側の対応であるが、日銀が円売り・ドル買いの為替介入に踏み切ったが、小手先では円高の流れに歯止めは困難と世界の投資家たちに見抜かれていよう。

「円高」という為替の化け物は日本のドル箱である製造業を直撃する最大の脅威だ。米国は日本をTPP(環太平洋経済協定)に加入させ、円高を利用して、米国製造業の復活を虎視眈々と狙っているのは確かだ。つまり増税は「円高・デフレ」を加速させ、日本経済が解体の危機に瀕する突破口になる始まりだ。

この米国主導の経済プランに財務省が同調し、野田政権が国民に税負担を押し付けるなどして、米国路線に同調する動きが顕著だ。民主党政権の増税政策に対し、以下のとおり識者の意見を参考にしたい。神野氏、岩田氏については朝日新聞10月12日付オピニオンで掲載されたので参考にしたい。

①増税なくして危機は脱せず ~藤井裕久~
民主党 税制調査会長

〔藤井祐久氏〕
「大震災の復興にも『社会保障と税の一体改革』にも増税が必要だ。それで景気が失速することもないし、それなしに日本の危機は克服できない」「増税で景気が悪くなる、などと悲観論に陥る必要はない。増税分は復興事業に役立ち、歳出面のプラス効果で景気は回復軌道に進んでいく」、「社会保障と税の一体改革に向け2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引き上げる」

「政治家の中にも経済成長さえすれば税収が増え消費増税は不要という主張をする人がいる。しかし所得税や法人税の自然増に頼ることができた高度成長期とは違う。成長だけでは解決しないのだ。民主党政権は新成長戦略で、今後の実質経済成長率を約2%としている。デフレを脱却すれば名目3%台の成長は可能だともいえるが、だからといって増税が不要にはならない」

②財政至上主義に陥るな ~神野直彦~
東京大学名誉教授 財政学専門学者

〔神野直彦氏〕
「震災復興を確実に進めるには増税したほうがよい。また、新たな経済成長を実現していくには社会保障の強化とそれを支える強い財政が強く求められる。ただし、増税は消費税だけに偏らず、所得税などとのバランスをとるべきだ。復興の財源を考えるにあたっては戦前の失敗を教訓にしなければならない。関東大震災時は復興事業の財源を全額国債発行でまかなおうとしたため、高金利の外債発行を余儀なくされた。それがデフレの深刻化を招いた」

「円高で長期金利も低いから、当面は国債に頼ってもいいという見方ができなくはない。だが、世界市場の投機的な動きや不安定さを考えると見通しは立ちにくい。だから復興には増税を組み合わせたい」「財政赤字を減らしさえすればという議論と同様に、成長さえすればいいという主張も一面的だ。どうやって新しい成長を実現するかという肝心の課題に答えようとしていない」

③デフレ不況下に増税は無謀だ ~岩田規久男~ 学習院大学教授(金融・都市経済学専門)

〔岩田規久男氏〕
「復興財源は、増税せずに償還期間の長い復興債を発行して全部をまかなうべきだ。デフレで円の価値が上がって超円高となり、そこに大震災が起き、誰もが将来への不安で消費を控えている。さらに欧州発の経済危機。この状況で増税するのは無謀だ。増税は需要を抑制する。税率を上げても経済が悪くなればかえって税収は落ちる」

「税収を増やしたいのならデフレ脱却が一番だ。復興は金融政策によるデフレ脱却とセットで行うべきだ」「政府はインフレ目標を設定し、日銀に達成責任を負わせる。復興が軌道に乗るまでは4%程度のインフレ目標を設定すべきだ。大胆な金融緩和によって4~5%の名目GDP(国内総生産)成長率は実現可能だ」

◇       ◇

政府の増税案には脱「円高・デフレ」の理念と政策が見られない

緩やかに日本経済の衰退が進行するなか、大震災復興のための臨時増税12兆円が唯一、希望の星だ。とはいえ、その先には社会保障財源の名目で消費税増税(推定10%)が控えている。しかし、前二者の「増税なくして危機脱せず」と「財政至上主義に陥るな」が政府見解と見てよい。しかし、民主党内には小沢一郎グループを中心とする増税反対派も多い。一方、国民の半数近くは年金がらみで政府案に賛成との見方もある。しかし、政府の経済政策には「円高・デフレ」からの基本的な脱却への理念と政策が見られず成長力を低下させてきた。つまり、日本経済の致命的な衰退を招いているのは“税収不足と赤字国債”の解決策が何ら示されていないことだ。
政府の経済政策は財務省の意向に沿って進められており、いま、多くの国民は財務省主導の増税プランを民主党政権が代行して国民に押し付けていると見ていよう。所詮国民は財務省の「増税宣伝」に洗脳された「籠の鳥」だ。

その場限りの痛み止め注射

政府や財務省は問題の本質に目を向けることなくその場限りの痛み止め注射を打ってきた。官僚らの賃金体系は旧態依然のままであり、公益法人のムダ遣いは手つかずのままだ。お上の負担は据え置きですべての負担を国民に押し付けている。

税金の取れるところは有無を言わさず取り立てる財務省の増税策は中小企業を直撃し、国民の財布を引き締め、消費の減退を招く効果が顕著だ。半面、バブルの崩壊直後から需要と供給のバランスが崩れ、売れ行きの悪い商品には政府が補助金を付けて、さらに歳出を増大させてきた。財務省は増税の名人であっても国家再生のプランは能力無きに等しい。いま政治が官僚依存なので、日本経済は明日が見えない昨今である。

おまけに企業にとって日本の法人税の高さは悩みのタネだが、今度は高額所得者の保険料を引き上げる検討に入った。

政府依存を強め、危機に陥る日本経済

わが国は、自主、自立、自助の精神が失われ、国民も企業も政府に依存する体制が作られつつある。彼らは子供手当や高速道路料金無料化、農家への戸別補償制度など、国民に「甘パンと鞭」を使い分けている。民主党政権は一般会計、特別会計を見直せば、20.5兆円の財源が確保できると言ってきたが、歳出に見合う財源は今も見当たらない。

国や企業の大勢がこの現状を変える意識も意欲も見られないのでは成長どころか衰退するしかない。しかも、国会議員の中には反日、反競争、反市場、反開国、反改革の人が多く、日本経済のガンになっている。これでは「円高・デフレ」から脱却できる政策も見通しもないのみならず、グローバル化、世界競争に打ち勝つ日本の競争力を削ぎ落としているとしか思えない。

わが国を取り巻く周辺諸国はものすごい勢いで世界競争に突き進んでいる。韓国企業や台湾企業の中にはリスクを負いながら世界化に適応する企業がたくさん生まれてきた。一方、わが国では日本航空のような借金だらけの会社が政府の援助で生きながらえている。これは共産主義国家に見る国営企業と同じではなかろうか。

中長期目標で日本国の再生を

筆者にとってショックだったのは、首相就任記者会見で野田新首相が「靖国参拝はしない」と明言したことだ。これは日本国の総理大臣として、国家の威信や歴史、伝統文化を否定する姿勢に他ならない。つまり、中国への従属国家であることを公言するようなものだ。しかも、師である故松下幸之助の「政治家の使命は税金を極力低く抑えることにある」との教えに逆行する政策をとろうとしている。現今の風潮は「事なかれ主義」であるが、野田首相は時代が生んだ適任者と見てよい。

台湾の李登輝元総統は、著書『最高指導者の条件』の中で、「指導者の地位に就いて成功できない最大の理由は、やはり指導者の『責任』と『能力』によるところが大きい」と述べているが、野田首相の指導者としての国の方向性を示す政策はいまだに不透明だ。野田政権には成長戦略がなく、税収を増やす政策プランも聞かれないうちに増税策ばかりが先行している。これではすべてが「事なかれ主義」であり、国のリーダーの仕事が調整役ではお先真っ暗だ。
これでは財政赤字を増大させるばかりか、財政再建も望めない。いま、野田政権に必要なことは、場当たり的な目先の数字合わせではなく、国家のあるべき再生、中長期的な活力ある日本の姿を国民に示すことではなかろうか。若者が夢とロマンを感じる国づくりは政治の仕事であり、リーダーの義務と責任である。

次回は11月10日(木)