木曜コラム

山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     問題山積 野田政権の船出

民主党衆議院議員の野田佳彦氏が第95代内閣総理大臣に就任した。新総理の誕生を各界はどう評価しているのか。まず、今後の成り行きについては世論の動向とマスメディアの扱いが大きな焦点だ。9月4日現在野田首相の各社支持率は55%から60%台とは恐れ入る。まだ何もしていないのに組閣をした段階での高い支持率だ。

野田氏は十年ほど前、弊会「政民合同會議」の発足当初、参議院会館の勉強会によく出席されていた。野田氏は必ず五分前には会場に到着、公務の場合は前もって早めに連絡されるなど律儀な人との印象がある。野田氏は情報に敏感な人で、国家に有益と判断する資料や意見を取り入れ、参考にするまじめな人であった。

とにかくよく勉強する人で、国会議員の中でも稀有な存在といって過言ではない。政治家も経営者もよく勉強する人は堅実で安定感がある。政治家の言語は思考した結果を表現する道具だと言われるが、情報伝達するうえで、教養なくして健全な大局観を国民に示すのは至難のことだ。

前政権はイデオロギー闘争

菅直人前政権に、国民は飽き飽きしていた。これほどでたらめな政権はなかったと国民は思っていよう。菅氏はこれまで自民党の粗探しとパフォーマンスで民主党の頂点に登り詰めた。その前任者の鳩山由紀夫前々首相も突飛な発言と行動で政治を空洞化させてきた。

前任者二人は権力を持つとは何であるかを完全に取り違えている。権力とは国家国民に委された支配者で、国民の期待に応えることが使命だ。前任者たちに共通するのは外交・経済、公約とどう取り組むどころか、歳出を増やし、その不足分を増税で補うというお粗末な財政プランであった。

彼らは国家再生よりイデオロギー闘争、党内抗争に明け暮れた印象しかない。野田新内閣の誕生でバランスの取れた野田人事に変わったとの印象を受けるが、実際はどうなのか。

野田政権は政策を実行する政権

こうした民主党政権による政治低迷が続く中、野田氏は代表選前の演説で、「どじょうのように泥臭く、国民のために汗をかきたい」と語った。これには政治が前向きに転換し、「党内融和」で日本を再生したいとの強い思いが感じられた。野田氏の性格と政治理念が強くにじみ出た内容である。

藤村修官房長官はマスメディア各社にグループ名を記載しないよう記者団に要請した。もし、グループ名を掲載すればその新聞社は記者クラブから排除するという。藤村氏は政局の分裂、紛争劇は国民にとって関心は高いが、記事をおもしろおかしくするために野田政権もおかしく扱われては困るとの思いがあろう。これはメディアにとっては手痛い警告だ。これまで小沢グループと菅・仙谷グループとの争いは岡田克也前幹事長が憎まれ役として紙面を賑わせてきた。彼らの小沢氏排除は壮絶で、閣僚人事での冷遇と小沢氏の党員資格停止処分など小沢氏の息の根を止めた。菅政権は日本を再生するどころではなく、日本が本当におかしい国になるよう、し向けた内閣との見方もある。野田政権は挙党体制で政策実行内閣を目指すとして、前任者と同じ轍を踏みたくないと考えていよう。

松下政経塾から受け継いだ「大忍」の決意を胸に

野田氏は故松下幸之助氏が創立した松下政経塾1期生で、最も影響を受けた存在である。衆議院議員宇都隆史(松下政経塾第28期生)の2008年度の月例レポートを参考にすると、そこには亡き塾主・松下幸之助氏の政治に対する「確固たる信念に基づいた将来の方向性」が打ち出されている。

塾主講話集「建塾の理念」「志」「発想の転換」などによれば、塾生は、四年間の研修期間を通して
1脱依頼心、2志を固める、3時期を誤らない、4心配こそが社長の仕事、5素直の初段、6大忍 等、
塾主が打ち出した哲学・理念を学ぶ。

中でも「大忍」は、野田氏が最も影響を受けた塾主からの言葉で、松下幸之助氏から直筆の書を頂いている。「大いなる産みの苦しみを経て、志のためにじっと耐え忍ばなければならない」「その苦しみを乗り越えて、日本と世界の未来を自らの力で創り出せよ」とある。野田氏の政治理念と哲学の原点はすべてここにある。

野田氏の確固たる歴史観を育んだ家庭環境

さらに野田氏の人物を見極めるにはどのような家庭に生まれ育ったかも参考になる。父親は陸上自衛隊第一空挺団の特殊部隊に所属していた。かつての神風特攻隊を擁するわが国防衛の最前線で活躍する部隊である。野田氏は幼少の頃から自衛隊という環境で育ち、そこで強い愛国心と国防意識が培われたと思われる。

野田氏は外交・安保・歴史観は①日米同盟が基軸であり、さらに深化すべきとの親米派である②いざとなれば集団的自衛権の行使で敵を撃退すべきだとの考えもある。③靖国神社に祀られている「A級戦犯」は戦争犯罪人ではなく「戦犯」の名誉は回復されている。等、外交・安保・歴史観は動かしがたい保守主義主観だ。

2004年12月、松下政経塾出身の自民、民主超党派国会議員10名で北京を訪問した。朝日新聞の記事の一部を引用すると、「中国の原子力潜水艦が沖縄・石垣島沖を領海侵犯したことで日中関係がささくれだっていた時期だ。訪問団に加わっていた野田氏は釣魚台国賓館の夕食の席で、唐家セン(タンチアシュエン)国務委員に噛み付いた。あえて東シナ海をめぐる日中の紛争を取り上げて『お互いのナショナリズムを煽るようなことは避け、行動を慎むべきだ』と提起した」とある。

歴史観なき政治家は去れ

野田氏はかつての戦争を含め、歴史観では立派な発言をしているが、今後国益を損なうような歴史発言はないと期待したい。現在の沈滞を生んだのは、政治のリーダーに理念と哲学がなく、「軽佻浮薄」な文言を発して恥じないことだ。

菅前首相らはわが国の過去の歴史を否定し、日本国民とその歴史を侮辱した政治姿勢にある。歴史観なき政治家が歴史を語るのは、わが国にとって耐えられない屈辱である。日本の戦争を悪と断罪する謝罪は日本の過去とともに未来をも失う。その結果、もたらすものは世界中の軽蔑と賠償に他ならない。わが国は歴代首相が同じように謝罪と反省を繰り返すことで国家が衰退し、国民の士気は喪失した。政治が腐敗と無能化することで、国民一般の道徳も地に墜ちたといえまいか。

「生活第一」の公約はどこへ行ったのか

今後、野田政権にとって最重要課題は増税問題である。民主党内では「増税反対」が大勢を占めるが、財務省は増税に執念を燃やしている。彼らは「財政赤字」のツケを子孫に残さないというが、増税すれば、景気は後退し、さらに税収不足と財政赤字の負担が逆に底知れず拡大しよう。

まず、野田政権は増税論議と平行して歳出カットを行うべきであり、特別会計、一般会計の見直しが不可欠だ。それに伴う地方公務員の給与カット、天下りの廃止、公益法人の全面禁止など、民主党政権が公約した政策を今すぐ始めてもらいたい。わが国の改革にとって根源的な歳出カットなくして増税は許されない。

いよいよ、野田政権が本格的にスタートする。野田氏は挙党一致、党内融和で一致団結し、国難を解決していこうとの考えだ。しかし、野田氏の政権運営に対する思いとは別に、成り行き次第では仙谷グループや小沢グループの政争が再燃するのは必至だ。

増税と党内対立内閣か

この野田政権を分析すると、1つは菅政権の執行部がそのまま重要ポストを握っている。例えば衆議院議員川端達夫、玄葉光一郎、前原誠司、鹿野道彦、古川元久、細野豪志を始め仙谷由人の息のかかった大臣ばかりだ。これは仙谷ご都合内閣だとの見方もある。

2つは財務省主導による増税内閣である。安住淳財務大臣は就任早々、増税は「今年中に法律に落とし込む作業を終えたい」と語っている。つまりまだ党内議論もしないうちから年内に消費税増税を法案化を行う考えを示した。これでは菅政権と何ら変わることのない「党内対立」と「増税路線」である。復興需要を後押しする財政出動は眼中にない。

この政権は「党内融和」を主張しながら実質的には財務省主導、仙谷由人仕切り内閣であり、反増税グループを重要ポストから遠ざけているかに見える。今回の組閣作業が内密に進められたのも、財務省の勝栄二郎事務次官中心に閣僚人事が進められてきた。野田氏は勉強家であり、真面目であるが、一方したたかでもあると聞く。今後の野田政権から目が離せない。

次回は9月15日(木)です。