木曜コラム

山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ   迫られる「一つの中国」からの脱皮

「一つの中国」をめぐる解釈には米中間で大きな隔たりがある。米国の「一つの中国」解釈は中台両岸で話し合って「一つの中国」になるなら反対しない、それが民主主義のルールだからである。しかし、一方的な武力侵攻には反対するというものだ。

しかし、この米国側の解釈には矛盾がある。台湾は既に独立した主権国家であり、「自由と民主主義、法治と人権」という価値観を共有し、米国とは同盟関係だ。しかも台湾人口の90%以上が現状維持(本音は独立)を望んでいる。共産主義国家の中国と誰が一緒になりたいと思うのか。

米国が同じ仲間の台湾に「一つの中国」を押しつけるとしたら迷惑な話だ。「一つの中国」は米国が容認し、中国政府はお墨付きをもらったと解釈していよう。これまで台湾を巡る「一つの中国」論は米中の駆け引きの中で弄ばれた感がある。

台湾の現状は独立国家だ

もともと、米国の国務省はリベラル色が強く親中外交を展開してきた。一方、国防省は保守の砦とされ、強硬な意見を持つ。米国には政党、議員、省庁を問わず百人百様の意見があるが、彼らの意見は全米を代表するものではない。。米国は自由と民主主義の発祥の地であり、自由な思想と発言が尊重される国だ。それゆえ聞き手も一つの意見として取捨選択する才能が問われよう。

米中による「台湾は中国の一部である」という「一つの中国」論は連綿と続いてきた。中国も「一つの中国」と勝手に主張してきたが、米中が何と言おうが、台湾人の本音に「一つの中国」というものは存在しない。これまで米国はソ連の牽制に中国を引き込む手段として台湾を使っただけだ。しかし、台湾は東アジアの防波堤であり、安全保障上重要な砦なのである。

つまり、表向きは「一つの中国」をめぐって米中がキャッチボールをしているが、台湾の実態は主権独立国家として機能し、自由主義陣営の模範国だ。これまで台湾は世界との政治、経済関係で重要な国家的存在として君臨してきた。

台湾と断絶した米国

中国は「台湾は中華人民共和国の神聖な領土の一部である」と中国憲法に唱っている。これは1993年に修正されたが、米国は一度も容認したことはなかったし、台湾も相手にしていない。これまで米国は「中国はただ一つであり、台湾は中国の一部であるという中国の立場を確かに認識する」との見解を述べてきた。この米国の曖昧で遜った態度が中国に誤ったシグナルを送っている。

米国の「一つの中国」論は、中国に加担しただけで国益を損うものだ。キッシンジャー外交の「一つの中国」とは、「台湾の独立を容認しない」(1974年)と周恩来に告げたのが始まりである。台湾は政治的な駆け引きの駒であり、中国が要求を呑むなら台湾を見限ってもよいとキッシンジャーは思っていた。

これはソ連の脅威に中国を取り込む一つの手段であった。カーター政権はキッシンジャー論に同調して台湾と国交断絶した。台湾は孤立無援となったが、わが国外交はどうすることもできなかった。

台湾初の総統選時に米中間で駆け引き

ここでソ連の崩壊という思わぬ事態が起こった。加えて毛沢東が1976年に死去した。その後鄧小平が実権を握り、毛沢東一派を排除し始めた。さらに、鄧氏は政治は社会主義、経済は市場経済を歓迎すると表明し、外国投資や貿易を行ってもよいとの改革を断行した。それには米国との貿易が必要だったので、台湾問題は一時棚上げされた。

鄧小平は台湾をめぐり「一つの中国」で争うより、経済力を強化することが先決と考えた。そこで米国が台湾を取引材料にする最大の条件が揺らぎ始めた。

その中で台湾にかすかな灯りが見えてきた。1996年、民主的な台湾総統選が行われようとした時、中国は弾道ミサイルを台湾近海に発射。クリントン政権はこれまでの曖昧な態度では中国の暴走は止められないと決断し、空母を台湾海峡に出動させた。中国にとって台湾の民主的選挙の実現は現体制にとって危険な存在である。

ブッシュの台湾発言

台湾初の民主的な選挙で台湾総統に李登輝氏が選ばれた。李登輝氏は就任早々、台湾の戒厳令を解除し、政治犯の釈放、言論の自由、憲法改正、民主的選挙など“自由と民主主義、法治と人権”による社会改革を断行した。これは漢民族はじまって以来の快挙であった。

台湾の民主化は世界の同盟諸国から高く評価されることになる。李登輝氏の政治・社会改革は国民の意識をすっかり変え、国民が自信と勇気、明るさを取り戻すきっかけとなった。

2003年12月9日、米国ブッシュ大統領は温家宝首相との共同記者会見で以下のとおり述べた。「米国は『一つの中国』を容認するが、「中国であれ、台湾であれ、現状を変えようとする一方的な決定には、米国は反対する。台湾総統(陳水扁)による発言や行動には、一方的に現状を変えようとする意図が窺える。我々はそれには反対である」

このブッシュ発言は米国の関係者でさえ、驚き狼狽する者もいた。米国は曖昧で矛盾した「一つの中国」から「現状維持」なら良いとするもので、一歩前進だ。

米国は台湾を守るという決意

台湾国民にとって最も幸せなことは、良き指導者を持つことであった。李登輝12年で台湾民主化が実現したのは驚きであった。この民主化が中国に波及する恐れもある。そのため、中国側は威嚇や圧力を加えて台湾民主化を潰そうとしたが、台湾国民はあらゆる難関を乗り越えて民主国家を定着させた。しかも、米国の「一つの中国」論が変化の兆しを見せ始めた。2004年4月21日、ピーター・ロドマン国防次官補は米国下院公聴会で台湾関係法に触れ、「台湾が中国の武力行使を阻止する能力を維持すべきだ」と指摘。過去21年間、台湾が真の複数政党制民主主義に変化した成果に、米国は台湾防衛に関与するとの武器の売却など強い姿勢を示しつつある。

筆者はパウエル元国務長官が米国の対台湾政策の本音を上手く表現していると思っていた。「私は台湾問題ではなくサクセスストーリーと呼びたい。今日の台湾は活気に溢れる経済と力強い民主主義を有し、国際社会に多大な貢献をしている」と語った。やがて中国の所得が増大すれば、自由化、民主化に向かっていこう。

ユーゴ・チトーの愛国心

台湾国民はいざとなれば勇敢であり、力強い民族だ。台湾が法治主義、自由主義経済、国民主権、安全保障、民主主義等の観点から見ても、米国と同じ民主国家に成長した。3月18日、李登輝氏は筆者に「日本の植民地時代は児玉源太郎、新渡戸稲造、後藤新平、明石元二郎、八田与一など、日本の第一級の人物が台湾の近代化に貢献してくれた。台湾人は教育、道徳、正義、自立心など良き影響を日本人から受けたので今日がある」と述べられた。つまり、日本の植民地政策が良かったので台湾の近代化が出来たというわけだ。

台湾人に自信と勇気を与えたのは愛国者・李登輝氏の影響が大きいが、それを受け入れた台湾人は日本時代に培われた教育だという。その意味で李氏は台湾建国の父といってもよいだろう。筆者は李氏とはタイプは違うがユーゴスラビアの指導者チトー元大統領を高く評価している。チトー氏は共産主義国家の指導者であるが愛国主義者であった。

ソ連のスターリンは退却するドイツ軍を追撃中、「生意気なユーゴを占領せよ」と命令した。スターリンは「ユーゴのチトーなんざ攻撃すれば消し飛んでしまう」と馬鹿にした。愛国の情熱に燃えるユーゴ国民はチトーの勇敢な力強い指導のもと、巨大なソ連軍を撃退した。

台湾は脱皮が必要な蛇の皮

米国の政策は今後「一つの中国」から「二つの中国」に変わっていくだろう。もともと米国は、1949年に中国内戦で中華人民共和国と中華民国台湾の「二つの国家」が生まれたと考えていた。しかし、台湾の中華民国蒋介石が「大陸反攻」を唱い、中国統一を目指したのが失敗である。その後、馬英九総統が同じ論理を展開しているが、これも非現実的である。

米国はこれまでの台湾に対する考え方から脱却する必要がある。つまり、「一つの中国」を発言すべきではなく、台湾が表舞台に出ることを反対しないことだ。「一つの中国」とは米国の同盟国を売り渡すものであり、米国の国益を大きく損なうことに他ならない。

「一つの中国」とはもはや時代遅れの発想であることが時が経つにつれ、明らかになってきた。米国の台湾政策は今こそ「脱皮すべき蛇の皮」だ。中国は軍備力を増強し、台湾を脅かし、アジア覇権を握ろうとした。米国はこれまでの「一つの中国」という曖昧な姿勢から同盟国を守るという強い姿勢に転換して世界の警察官に戻るべきであり、同時にアジアパトロールに力を入れてもらいたい。

次回は6月9日(木)です。