山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     アジアに機を見る中小企業

2011年01月27日

休みを利用して秋葉原の電気街に向かうと、東南アジアからの買い物客で賑わっていた。とくに日本製の電気釜を求めるアジア人が多いのには驚いた。電気釜を一人で何個も購入して本国に送る者もいる。彼らは店員に製造元が中国製ではなく日本製であることを確認していた。

「なぜ、日本製品なのですか」と尋ねたところ、「日本製は丈夫で長持ちするだけでなく、安心感があります」と上海から来たという王さんは答えた。彼らは「日本製だと2割以上高くなるが、値段の問題より信頼の問題です」と言う。中国人は表向き反日デモや一方的な歴史観を振りかざすイメージが強いが、本音では日本人が作る製品を最も信頼している隣人だ、との思いを強くした。

日本人はものづくりの天才と言われ、日本人ならではの精微を極める技術がアジア人の期待に応えてきた。日本人は永き歴史の中で作られたチームワーク、和を重んじる、礼儀正しさと思慮深い国として、世界の評価は高い。さらに戦前戦後を問わず経済援助やインフラ整備と技術移転などで対中援助をはじめ、多くのアジア諸国への貢献を果たしてきた。

デフレの長期化で老いる国

わが国は1998年バブル崩壊以降、経済は右肩下がりを続けている。戦後経済のピークが終わり新しい時代の常識と仕組み、システムを構築する時代を迎えたと言えよう。さらに政治の停滞はさらなる衰退を呼び込み、わが国のあらゆる社会のシステムが制度疲弊を起こし、機能不全に陥っている。現今、通信と交通手段の急速な発達によって世界が一つの経済単位となり、そこにIT革命とグローバル化が加わった。こうした時代背景を踏まえて、わが国の大企業はいち早くグローバル化し、国際競争力に対応したが、中小企業の製造・非製造業の大勢は乗り遅れている。

経済財政諮問会議はデフレが長期化すると「第一に実質金利が上昇する。第二に実質債務負担が高まる。第三に賃金の調整が難しくなると発表した。第三については生産減少による雇用削減が生じている。デフレ減少による景気下落は消費、投資の先送りと資産価値の下落で、悪循環現象が起こる予兆だ。

グローバル化に出遅れた中小企業

わが国の大企業、とくに製造業は世界に製造拠点を移し、世界で販売することで、かつての高度成長時代並みの高成長、高収益企業によみがえることができた。しかし、一方、中小企業、非製造業はまるでガンに蝕まれたかのように企業の体質を弱体化させて死に体だ。

中小企業経営者の中には国際情勢に疎く、相手国の民族性やビジネス手法を理解できず日本国内と同じビジネス感覚で失敗を招くケースが多い。海外ビジネスはこちらが油断すると気が付いたときには丸裸になる。

「中小企業よ、おまえたちは勝手にやれ」

中小企業は日本国内企業の中で98%以上を占め、100年以上の老舗企業も2万社以上ある。税収であれ雇用であれ、中小企業の存在はわが国を支える経済的基軸だ。その中小企業が将来への安心感を持てなくなっている。わが国経済はここで何とか対策をとらねば遅かれ早かれギリシャの二の舞いになるのが恐い。

本来なら政治が一つの方向を示すべきであるが、現政権に政策や知恵がなく、期待するのは無理な話だ。政府や行政の中小企業対策は小手先ばかりで、新産業の創出であるとか、企業の方向性について議論すら放棄している。つまり、「中小企業よ、おまえたちは勝手にやれ」と言わんばかりの昨今である。

諸外国の平均税率25%に対し、日本の法人税率は減税後でも約35%である。それより現政権が公約した国家公務員の給与20%カットはどうなったのか。実現すれば国と地方公務員を合わせ5兆8千億円の歳出削減となる。たとえ削減されても公務員の給与は民間企業よりずっと高いのだ。また、それより子供手当を廃止し、財源を経済対策に回すべきだ。そうすれば消費税5%は後回しになろう。

菅政権の官主導は一層強くなり、既得権益の確保ばかりで中小企業は置いてけぼりにされている。大企業と違って中小企業には金も知恵もない。中小企業にもっと活力ある政策と資金を出せば税収増はかなり見込めるのではなかろうか。

もはや政治には期待できない

韓国の金大中・盧泰愚政権時代の10年間は仙谷流ばりの左翼政権で右翼狩りに精を出し、経済そっちのけだ。彼らは経済と外交は全くの素人であったから米韓関係が悪くなり、経済も歳出増が顕著であった。そこに颯爽と登場した救世主が、産業界出身の李明博大統領だ。筆者は当時李氏のビジネス体験、市長時代の実績、大統領としての理念と哲学等を分析して、この人なら韓国再生が可能だと期待した。

かつて、ペルーのフジモリ大統領と名古屋で朝食を共にした。「農業大学の学長時代、学校経営を体験したので大統領になって役に立った」と語ったことがある。市民運動家出身であり、天皇、国旗、国歌に反対の立場をとる菅直人首相はリーダーの資格以前の問題である。

大企業ビジネスは新興国にシフト

国家のリーダーシップたる政治家は経済を知り、外交がわかることが必須条件だ。リーダーが国家の方向性を示せなければ中小企業は身動きできない。

最近、カンボジア、ベトナム、インドネシアから弊会宛に関係者を通じて会見の申し込みが多い。彼らはわが国政府にインフラ整備によるODAや借款を希望している。アジア新興国では人口増加や経済成長等で水の消費量が拡大して水道インフラ整備に対する必要性と要望が多い。彼らのインフラ整備に対するわが国への期待は大きく、今後新興国の水道ビジネスは成長が見込めよう。これには東京都副知事の猪瀬直樹氏が日本の水道技術を世界に売り込むとしている。

大手の製造業は新興国の経済成長を見込んで生産と販売の拠点を海外に拡大している。自動車産業も国内ではすでに成熟産業であるが世界に目を転じれば成長産業だ。2010年世界の自動車販売台数は7000万台だった。今後大手自動車企業は先進国から新興国に生産拠点を移し、販売体制を強化する方針だ。2010年4~9月期の連結営業利益は323億円を確保したトヨタは今後インドで低価格車「エティオス」の生産・販売を本格化する。ダイハツはインドネシアで2010年4~9月期で159億円の営業利益を計上した。

中小企業は海外にチャンスあり

一方、大手のサービス産業もアジア各国への出店が目白押しだ。セブン-イレブンは香港、マカオ、広州に約1600店舗、他に北京96店舗、天津4店舗、上海50店舗を出店している。それ以外にセブン-イレブン・ジャパンの運営ノウハウと提携した店舗は世界に6700店舗に及んでいる。また、昨年12月、台湾企業との合弁で石川県の老舗旅館「加賀屋」が北投温泉に開業した。今後は中国にも老舗旅館の進出が検討されている。

これまでの製造業から非製造業分野の海外進出が活発だ。これは国内市場がデフレでパイが小さくなり、飽和状態となっているためである。大手企業では製造業・非製造業を問わず将来の目は海外に向いている。

牛丼業界に顕著な低価格競争にみられるように、あらゆる業界が「安さ」を売り物に突き進んでいるが、今後の動向はデフレが止まらず業界が安さと商品の新機軸を打ち出すなど、さらなる構造転換が進むであろう。わが国の非製造業も国内から海外に主戦場を移すチャンスだ。海外は大手企業が続々進出し、それに伴って日本的サービスが求められよう。

新興国進出への条件

わが国の市場原理とグローバル化は旧来の日本的経済システムを破壊し、優勝劣敗の二極化、格差社会を生んでいる。さらにバブル崩壊後、消費者物価のデフレから抜け切れていない。しかし、ここに来て、中小企業にもチャンスがやってきた。これまでは中小零細企業の多くは中国進出に際して、会計上の問題、法的トラブル等様々な失敗を積んできた。しかし半面、これらの経験は成功の素である。今後アジア進出に際して企業が成功するためには相手国の実情、国際ビジネスへの知識と知恵など国際常識が必要だ。

いま、弊会では「日台アジア会議」の発足に向けて準備中である。まず、新興国進出に際して、国際情勢や相手国の民族性、歴史、法制度、会計上の問題など新興国でのビジネス経験者や専門家などによる講習会を開催する。現地情報、政治経済情報、コンサルタント専門筋による講習会、新興国経済人との交流なども企画している。いまこそ、成長する新興国市場をうまく取り込んで、日本企業の海外進出を共に考えようではないか。

次回は2月3日(木)